A主任
古い記憶だが、今でもはっきり思い出すA主任の笑顔。
「なぁなぁ、娘の七五三の写真を撮ったんだよ。もうなめっちゃ可愛くてな。うちのかみさんも、ニコニコしちゃって、私も成人式の時の着物着ようかしら?とかいっちゃってんだぜ?歳考えろよバカ。っていったら、まんざらでもないでしょ?とかいってきやがってさぁ……」
屋上屋外に設置された喫煙所で、ニッパー型の爪切りで、パチリパチリと爪を切りながら家族自慢してたっけ。
「え?二人目?まぁ、できそうだけど、できたらできたときかな。うちの会社も新製品ができるとか何とかで忙しくなりそうだし。そういえば、中国の企業さんが今度うちと取引に入るらしいぞ?忙しくなるなぁ。ま、気合い入れて頑張ろうぜ。」
「そうそう、R部長には気をつけろ?あのネズミ野郎、なんか陰でこそこそ動いてるぽいしな。お疲れ。そろそろ時間やし、先降りてるわ。」
そんな、たわいもない話をタバコを吸ってる俺にニコニコしながら聞かせてくれて、その1週間後。
A主任はご家族ともに心中された。深夜の崖から家族そろって飛び降りたらしい。
遺族もかなり遠縁の方しかいなかったらしく、簡素な葬儀が行われていた。
それから数日たち、俺はR部長の指示でA主任の机を整理していた。
(いつまでも死人を座らせておく椅子はない。お前、あいつの私物は全部捨てとけ。家族さんには了承もらってる。とかいつもの嫌な口調だった。糞ネズミ野郎が)
几帳面に整理された机には家族の写真と娘さんが書いた「パパ大好き!」とかかれたメッセージカード。確か誕生日にもらったとか言ってたっけ?
黙って、ごみ箱に詰めていく。
主任、なんで死んじゃったかなぁ。
主任愛用の爪切りを見た瞬間に、なんか、止まらくなって、泣いた。
この爪切りはこれは俺がもらっとこう。
形見だ。
それからさらに数日後。
机の中に入れてたはずの爪切りがなくなっていた。
あれ?と思ったとき、R部長のデスクからいつもの怒り声。難かしゃべるとき怒鳴らなアカン病でもかかってるのか?
「だれだぁ!ここに変な刃物置いた奴は!!」
片手にA主任の爪切りを持ちながら怒鳴っている。
「これ、Aの奴のじゃないか!、おい!お前!なんで捨てずに俺の机に置いた!」
なんか怒り方が尋常じゃない。
「お前!何か言いたいことでもあるのか!」
俺に指を指しながら怒鳴ってくる。
しらんがな。
それよりも誰だ?あの爪切り部長の席に置いた奴は。
部長は怒り散らしながら爪切りをゴミ箱に投げ捨てた。
次の日。
部局の朝礼中、部長の机のほうで、ゴト!と何かが落ちる音がした。
「ひぃ!」
R部長が短く悲鳴を上げながら机を見ている。
「な、んで……」
青ざめ、半分腰を抜かしたような感じでしゃがみ込む。
「昨日捨てたこれが、落ちてくるんだ!!」
皆が何も言えずに部長の言動を静観する。
震えながら、爪切りを持ち上げたR部長。
急に空中の一点を見ながら
「うそ、A!」
まるで、そこに誰かいるようような感じで払いのけようと爪切りを振り回す。
振り上げたその手が急に止まる。
爪切りをもつ手が変に曲がる
「まて、A、俺が悪いんじゃない、全部、今回の取引をったお前が悪んだ!それを!警察に言うとか!それに、お前と嫁をを突き落としたのは社長と専務じゃないか!俺は関係ない!落とすつもりはなかったんだ!お前の娘が暴れるから、しかたがなく、や、め、いぇ」
部長は叫びながら、皆の前で爪切りを深くのどに突き刺していく。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
朝日を浴びながら首から血を吹き出すR部長。
ブチブチ
器用に鋏を喉の中で掻き切りつづける。
女子社員が悲鳴を上げながら失神すると同時に皆も同時に慌てて動き始めた。
でも、なんだろう。A主任の直部下だった俺や他4人はすごく冷静にその光景を眺めたいた。
その後、警察がやってきて色々大騒ぎになった。
とはいえ、3日ほどで会社は元の動きには戻ったが、社長と専務は部長の死にざまを聞いていろいろ白状して、助けてほしいと懇願したんだとか。
お隣の国に不正に商品を輸出をしようとした時にA主任にばれたんだと。そうマスコミが面白おかしく書き立ててはいたが。
会社は銀行さんと、親会社さんが来てあれよという間に人事をすげかえていった。
うちの商品はこの程度では他社にすげ替えができないからな。
そんなもんだろう。
昼休み、俺は屋上で一人煙草に火をつける。
もう1本煙草を取り出し、缶コーヒーとともに誰も座っていないベンチへ置く。
A主任。
お疲れさまっす。
つめきり 奇怪人 @kikaijin7
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