第3話 住所を把握されてるとか最悪だよな……

「お兄ちゃん起きて~! 朝だよー!」


 目を一瞬開けると、中一の妹──色即空奈シキソク・アキナが視界に入る。

 鬱陶しいので寝返りをうって、絶対に登校しないと言う確固たる意志を示す。


「むうう。これからは心を入れ替えて学校に行くって言ったじゃん、お兄ちゃん」


 後ろから不機嫌気味な声が聞こえる。

 ったく、脳が冴えちまったよ。妹じゃなかったら拳骨をお見舞いしてる所だぞ。

 今日学校に行けば、確実に氷春の説教コース。そんな面倒なのは御免だね。


 俺はベッドから立ち上がり、リュックを開けて財布を手に取る。


「おい妹よ、これをやるから出て行ってくれ」


「わー! お兄ちゃん大好き!」


 五百円玉を渡すと、目がキラキラと輝きだした。

 我が妹ながらチョロい。金に釣られて怪しい奴に付いて行かないか心配だ。

 不登校をオススメしたい所だが、コイツはそこそこ可愛いし、協調性も高い陽側の人間だ。よって不登校適性ゼロ。

 何より俺の数倍以上、忙しい両親に愛されてる。まあ俺も可愛いと思ってるよ、一緒にゲームで遊んでくれるし。


「ハイハイ、俺も大好き。なんなら愛してるからお前はさっさと学校に行け」


 適当に妹をあしらいながら部屋から追い出して、ドアを閉じる。

 ちゃんと学校に行くんだよ!と聞こえてきたが、きっと気のせいだ。


「カードでも仕入れるか」


 すっかり目が冴えてしまった。

 勉強机に座り、ノートPCを開く。愛用してるカードショップのホームページにアクセスして、仕入れる物に目途を付けていく。

 

 確かこのカードゲーム最近、新しいパックが出たよな?

 新パックに入ってるカードを調べながら、購入するモノに当たりを付ける。

 コレとコレ……あとコレだな。

 新規カードとの親和性が高いカードを単品買いしていく。


「上手く行けば三千円は儲かるな、ククッ」


 未成年って事もあって中学時代、親に無理言ってオークションサイトでアカウント作って貰った。

 働くと言う事について沢山調べた結果、絶対にサラリーマンにだけは成りたくないと思った。ちゃんとした時間に起きるだけでも苦痛なのに、週五で八時間勤務とか、俺からしたら正気じゃない。

 なので将来を見越して、転売を極める事にした。俺でも出来そうって思ったのがキッカケだ。最初はお年玉が無くなる勢いで赤字だったが、今では毎月アベレージ五万稼げるまでに持って行けた。

 うむ、流石は俺だな。


 そんな事を思いながら、売れそうなフィギアを探してたらプルプルとスマホが鳴りだした。


「うん? 何だこの番号?」


 掛かってきた番号を検索サイトに打ち込んで調べてみる。

 なんと我が校──湘清ショウセイ高校ではないか。

 

 これ絶対に氷春の奴だろ、暇かよあの先公。

 出なかったら何回もしつこく掛けてくるかもしれない。

 仕方ないな、出てやるか。


「はい、もしもし」

 

『もしもし、氷春です。色即くん! 起きてるなら何で学校に来ないんですか!?』


 声がうるさいので耳から少し離して、スピーカーモードに切り替える。


「いやいや、行ったら昨日の件で説教するだろアンタ」


『それは……あ! アンタじゃなくて氷春先生でしょ!?』


「あーうん。で、何の用だよ氷春?」


『またそうやって挑発する……兎に角、体調が良いなら学校に来て下さい』


「説教しないって約束するなら行ってやっても良いぞ」


『ダメです。私は先生として色即くんに指導しなきゃいけないんです!』


 コイツって物好きなのか?

 俺なら退学上等なんて言ってるような奴は、絶対に相手にしないぞ。


「氷春、正直に言えよ。アンタは俺を大事に思ってる訳じゃないだろ? 大方俺が退学したら自分の査定に響く可能性があるから、必死になってるだけだろ。偽善者め」


『……』


 図星だったのか、言葉が返って来ない。

 ほらな教師なんて、いざとなったら保身に走るんだよ。

 別に責めてる訳でも無いし、失望した訳でも無い。同じ立場なら俺だって金と評価の為に保身に走るからな。


『色即くんは何で……いつもそんな……酷い事ばかり言うんですか……』 


 悲しそうで暗い声が聞こえてきた。

 この人は今まで真面目な生徒しか見たことが無いんだろうな。

 教師の思いが必ずしも生徒に伝わるなら、この世からイジメは無くなってるだろうよ。

 話せば分かる、思いは必ず生徒に伝わる。そんなのは幻想であり、まやかしだ。

 

「おい、お涙頂戴ってか? 悲しむフリはよせ、鬱陶しい」


『……分かりました。本当に悲しから迎えに行きますね』


 はっ!? コイツ正気か!?


「迷惑だ、やめろ! 大体アンタ授業は!?」


『残念でしたね、私は査定を気にしてないので大丈夫です』


 残念なのはお前だよ。このアマ、開き直ってるだろ。

 開き直ってる状態のコイツが家に来てみろ、居留守しても家の前にずっと居座る可能性が高い。

 家の前にずっと担任が居るなんて、考えただけで精神衛生が悪過ぎる。


「くっ……あー分かったよ! 登校するから来るな!」


『はい! じゃあ、元気よく登校するのを待ってますね! 因みに、12時までに来なかったら家に行きますよ?』


 さっきと変わって、なんて良い声だ。

 電話越しの氷春の笑顔が安易に想像つくのがムカつくぜ。


「ハイハイ、じゃあな!」


 雑に電話を切る。

 俺はゆっくりと着替えと朝食を済ましてから、自転車で学校へと向かった。


 よくよく考えたら、学校に住所を把握されてるとか最悪だろ。

 改めて思う、やっぱり学校は嫌いだ。

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社会不適合者の俺に恋愛なんて……嘘です、やっぱりしてみたいです ナイン @NineFlower

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