第2話 自己紹介って地獄だよな……
暖かな春風が窓から入るのを感じながら、クラスの視線を全て集めている。
俺は一体いつから人気者になったんだよ! 死ね!
この現状を一言で表すなら、地獄なう。もっと痛々しく表すなら、胃痛が痛い、と敢えて言わせて貰お。
「し、色即不可矛です……よろしく……」
俺の自己紹介でクラスがシーンとする。そんな状況を見かねたゆるふわ先生こと、
「……えーと、色即くんは趣味とか無いんですか?」
何で親しくも興味も無い奴らに趣味を教えなきゃイケないんだよ。
「特に何も」
「そ、そう……得意な教科や苦手な教科とかは?」
「中学のときは全て平均点だったんで得意不得意は無いですね」
次は氷春が黙ってしまった。
悪かったな、これといった特徴が無くて。
こう見えて勉強は嫌いじゃない、勉強してるだけで真面目そうに見えるからな。
ある種の気まずさを感じてると、猿顔のお調子者っぽい奴が元気よく手を上げながら質問を投げてきた。
「はいはーい! 好きな女性のタイプ!」
何だこの質問? 発情期の猿かよコイツ。
特に無い、と答えたい所だが、これではさっきと一緒だ。
好きなタイプか……。異性で絡んでくるなんて妹かお袋しかいねえからイメージが沸かないな。
ここは50点ぐらいの回答をしとこ。
「好きなタイプは分からん……。が、嫌いなタイプならある。そうだな……SNSにどうでもいい写真を上げる女は嫌いだ、承認欲求が透けて見えるからな。ああ、それと誕生日とかクリスマスを祝いたがる女も論外だ、プレゼント代が勿体なさすぎる」
これは共感されるだろ。と思ったが、見渡してみると大半の女子がドン引きしている。
っておい氷春、何でテメェも顔が引きつってんだよ。
チッ、ドン引きしてる奴らの顔は覚えたからな。コイツらは間違い無くSNSを実名でやってるバカ共だ。
絶対絡まないリストに追加してやる。
「じゃ、じゃあ! 皆さん色即くんとも仲良くしてあげて下さいね!」
なぜか先生は慌てながら締めに入る。
色即くんはあの席ね!と言われたので一番左である最前列の席に座る。
一番前かよ。スマホが弄れないのは苦痛だ。
「それでは今日も、真面目に授業を受けて下さいね!」
そう言うと氷春はクラスから出て行く。
一時間目の数学が始まるまでの10分、暇だ。これがリモート形式の通信制なら家で気兼ねなく動画でも見れたんだがな……。
退学して〜、と思ってたら何人かが俺の席に来て、愛想良く話し掛けてきた。
「俺は
真っ白な歯を見せながら眩い笑顔で、握手を求めるように右手を差し出してくる超イケメンの茶髪。
何コイツ?
ラノベで有りがちな、異世界にクラス転移されたら間違い無く勇者適性を貰うタイプの超イケメンだ。
そんなイケメンを無視して、俺はイヤホンを耳に付けて机に突っ伏す。
イヤホン越しに取り巻き共の何んでコイツ無視してるの?と言ってる声が聞えてくるが気にしない。
生憎友達なんて必要としてない。友達が欲しいなら、俺じゃない誰かの好感度を稼いでくれ。
◇ ◇ ◇
休み時間とかは遅れを取り戻す為に、隣の女からノートを借りて写すのに必死だった。
五日も休んだせいで、学校にいる間は全く寝れなかったぞ、クソッ。
今後は連日でサボるのはやめた方がいいかもな。
帰りのホームルームが終わり、帰宅しようとしたら、後ろから氷春に呼び止められた。
「色即くん、今日はどうでした? 上手くやっていけそうですか?」
どうやら初登校の所感を聞きたいらしい。
イヤイヤ、初日からイベントとか起きる訳ねえだろ。ちょっとは考えてから声を掛けろよ。
「普通だけど」
「そうですか……なんかあったら先生に相談して下さいね? 何でも相談に乗りますから」
「ふーん、何でもね……じゃぁさあ氷春、明日から保健室で授業を受けていい?」
「何でいきなりそうなるんですか! それと、先生を呼び捨てにするのを辞めなさい!」
氷春が声を荒げたせいで、クラスに残ってた奴らの視線がこっちに向いてしまった。
あーあ、またもや人気者になっちまったよ。
「なあ、アンタって先生って呼ばれるほど自分が尊敬される人間だと思ってるの? なに、先生ってだけで無条件で尊敬されると思ってる感じ? なあ分からないから教えてくれよ、氷春」
少し煽ってやると、拳を握りしめながらワナワナと怒りで震えだした。
おっと、これは逃げた方が良さそうだな!
「っ! ちょっと!! 待ちなさ……」
説教される前にダッシュを決め込む。
待てって言われて待つバカがいるかよ、バーカ。
下駄箱まで駆け抜けて、靴を履き替える。そのままチャリに乗って、急いで学校からゴートゥホーム。
どうせ明日も説教されんだろうな……。
よし、もう面倒だから明日は学校をサボろう。
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