第8話火起請

 儀式は近くの神社で行われる。

 立会人は、その神社の神官。 


 それから見物人には各村の村長や役人たち。領主たる清野貞清もいる。


「これより火起請を行う。訴え人は水使用料が他の村より高い地域の村人達。訴えられているのは、この地域を治める滝野氏。村人が勝ったら、水にかかる税金が安い者たちと同額にする。滝野氏側が勝ったら、水にかかる税金はそのまま。それを必ず実行すると神前で誓うこと。良いな」 


「「はい」」


 鉄火を持って歩く距離は、3歩といったところか。


 二本の鉄は両手で掲げ持つほどの長さで、真っ赤に熱せられている。素手で持つと大火傷を負うことは、必定。


「まずは訴えを起こした村人の代表者からじゃ」


「はい」


 尼姿の千歳が前に出る。



「忍法【紅蓮腕ぐれんかいな】」

 千歳が印を結ぶと、千歳の両腕が紅く発光しだす。


 千歳の両腕は鉄火と同じくらいの熱を発しているようである。


「よいしょ。……まったく熱くないね。楽勝、楽勝」


 普通なら鉄火を持った瞬間、ジュウと嫌な音と肉が焼けるような嫌な匂いがしそうなものだが……。そんなことは、まったく無い。


 千歳は涼しげな顔でスタスタと歩き、一本の鉄火を祭壇においた。


「ほい」


 術をといて、神主に何事もなかったように両手を広げて見せる。


「……信じられぬ。無傷じゃ」


 領主たる滝野貞清も隣から千歳の両手を見て驚愕している。


「く。今度はこっちの番じゃ。夜霧、失敗は許さぬぞ」


「はい。……忍法【粘液水手】」


 尼姿の夜霧が印を結ぶと夜霧の両腕は粘液性の高い分厚い液体に覆われる。そのさまは、断熱性の高い手袋をはめているかのようである。


 夜霧は、鉄火を少々持ちにくそうに掲げる。


 鉄火を持った際、ジュウという音が出たし湯気もたったが肉が焼けたような嫌な匂いはしなかった。夜霧も顔色一つ変えずにスタスタと祭壇まで鉄火を持っていく。


 それから、両手を広げて見せる。


「こちらも無傷じゃ。両者引き分け。よって水にかかる税金はこれまでどおりということで。よろしいかな?」


 神主が皆に問う。 


 刹那、


「「異議あり」」


 千歳と夜霧が叫んだ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

滝野夜霧と簗田ちとせ。それから、織田信長〜戦国伊賀くのいち姫忍法帖【ドラゴンノベルコンテスト】 ライデン @Raidenasasin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画