吹奏楽部のほだかくん 3

「あれからもう、だいぶたちましたから。聞いてもつらくないですよ」

 私はなんとか、笑ってごまかした。

「1年や2年で割り切れることじゃないでしょう」

「よく考えたら、音楽やフルートは悪くありません。それに、きれいな音楽を聞くと、やっぱりいいなって思ってしまうんです。変ですよね、私。あんなに音楽がきらいになったのに」

 本当は、きらいになったことなんて一瞬もないんだけど。

「変なんかじゃないわ」

「ごめんなさい、心配させてしまって」

「謝ることでもない」

 ほだかくんは、曲を吹き終えた。最後まできちんとお兄さんの演奏を聞き終えたあいちゃんは、拍手している。

「桃山先輩は、もし、私が吹奏楽部に入りたいって言ったら、どうします?」

「やっぱり、音楽したいの?」

「まよっているんですけど。部活やるかどうかも決めてませんし」

 こんなことを聞いたのは、このままだと私が音楽から遠ざけられてしまう気がしたから。

 私は本当に音楽がきらいになったんだ、なんて、桃山先輩には思ってほしくない。

「決まってるじゃない。歓迎するわ。七川さんが入ってくれたら、もっと盛り上がるんじゃないかって今でも思っているし」

 桃山先輩は笑って言った。

「よかった」

「でも無理に入部してほしいなんて思ってないから」

「はい」

 ほだかくんは次の曲を吹き始めた。あいちゃんにねだられたのかな。また子供ウケしそうな軽いテンポの曲だ。

 やっぱり、ほだかくんのトランペットはすごいな。音がまっすぐで、耳に心地いい。

「ごめん、練習あるから、今日はこれくらいで」

 桃山先輩はそそくさと歩いていった。

「私も、桃山先輩と話せて楽しかったです」

 桃山先輩の背中に向かって、私は言った。

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