第5話

翌日。小雨が降る肌寒い朝だった。

電車で出勤することを考えると、いつもより早く出勤しなくてはならない。

それで良い。駅までの道中に英語を復習しながら歩けば良い。

曇り空に覆われた空は切れ間なくどこまでも広がっているように見えた。

この天気は良いことが起こる前兆なのだ。事態が好転する寸前の景色だ。今にも雲が切れて日が射す未来を想像しながら駅までの道を歩いて行く。

温かいものが飲みたい。

本当はコンビニに行って買いたいが、英語で注文することになるだろうし、職場に着くまでは余計なことを考えたくない。今は早足で歩くことで体をあたためることを選択する。

自販機も同様で、どの小銭で払えば良いか少しでも考える時間が今はもったいないと感じた。

昨日久しぶりに真面目に英語に触れて懐かしくなった。英語に真剣に向き合ったのはそれこそ受験生の時以来だ。社会人になってからは、何か学ぶべきではと思い立って海外ニュースを英語で読んでみたりしていたが本腰を入れてはいなかった。

いつかできるようになりたいという思いだけはずっと持っていた。

いつも気まぐれに英単語帳を買っては最初の数ページをこなして数日で止め、忘れた頃に再開しては止めるという中途半端な状態を何度も繰り返していた。

最近の英語との関係は浅かったものの、それでも多少なりとも英語を勉強していて良かった。

何より参考書を手元に残しておいて良かった。学生時代の自分に心から感謝した。

英語が得意でいてくれてありがとう。得意科目をとことん伸ばす性格で良かった。

もちろん、これで終わりではない。明日もその次の日もこの調子で仕事をしなくてはならない。この英語力では困ることばかりだろう。

昨日一夜漬けで復習した英語をつぶやきながら駅までの道を歩いて行く。

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もしも自分以外が別言語を話す世界になったら @harunonightdanc

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