ルーブルの呪い

密(ひそか)

ルーブルの呪い

むかし、父親が教員をしていた頃の話である。父親は地方の短大の先生であった。先生というものは、時々、専門教科を教えること以外のお仕事も頼まれる。この時は短期大学での欧州旅行の引率であった。


この旅行は冬休み中の3週間、ヨーロッパ各地の名所に行く旅行であった。旅行希望の生徒が約70名集まり、当時の旅行募集人数としては最大旅行者数を更新した。

ここでは、かのルーブル博物館でのお話をしようと思う。


父親は、他の旅行者と同じように旅行先でさまざまな写真を撮った。

そのノリで、ルーブル博物館の中でもバシバシカメラのシャッターを切っていた。時々、警備員が「ノーノー」といっていたが、ペコペコと頭を下げて、違う展示室へ移動した。


ヨーロッパ旅行では、持っていった48本撮りのネガフィルムを8本まるごと使い切ってきた。

旅行から帰ってきて、地元の写真屋にそのまま8本現像に出した。

数日後、現像した写真を見ながら父親がいっていた。

「おかしいんだよね」

「何が?」

「この間いったヨーロッパ旅行の写真が出来上がったんだけどさ。8本中1本だけ、まるまる真っ黒なネガなんだよね」

見れば、フィルムが1本分すべて真っ黒である。

「いった順番からしたら、ここはルーブル博物館の内部で撮った写真なんだ。地元の写真屋さんは『何度も現像しようとしたんだけど、どうしても真っ黒に完成してしまう』っていうんだ」

「ふーん? 何でだろう?」

「そういえば、ルーブル博物館の中に『撮影不可』の注意書きが貼ってあったっけ」

「……。じゃあ、ルーブルの神様が『ここで写真を撮るな!!』って怒ったんじゃない?」

私と父親はゲラゲラと笑った。

これを家では「ルーブルの呪い」と呼ぶ。


約35年後、茨城県息栖市にある息栖神社で夜に同じ状態が起こった。これはスマホで写真を撮った時である。携帯やスマホで今まで何百回も写真を撮ってきたが、なかなかシャッターが降りないのは初めてであった。

数分後に息栖神社の違う場所を撮ってみた。こちらは数秒後にシャッターを切るのに成功した。見事に鮮やかな写真が撮れた。


撮ってはいけないものがある。

そういうものがあるのかなと思った。


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ルーブルの呪い 密(ひそか) @hisoka_m

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