事故なのに……

夢七夜 孤島(ムナヤ コトウ)

事故なのに……


ほんの好奇心で背伸びをしただけだった。


先輩と自分の身長にどれだけの差が有るのだろう。

ただそれだけだったのに。


 キュッ


「あっ」


「…………」


「……すいません」


「いや」


 どうしよう。

 先輩とキスをしてしまった。


 キュッ


 そんなつもりはなかったのに。

 バスケ部の主将の森脇先輩とキスしてしまった。

 事故とはいえ、どうしよう。


 自分とどれくらい身長差があるか、ただ興味本位で知りたかっただけなのに。

 なんで、何も無い平面で躓くかな……。


「それじゃ」


「待って」

 

 キュッ、キュキュッ


「えっ!?」


 恥ずかしさのあまり急いで体育館を出ようとしたのに、今自分は先輩の腕の中に居る。


 おかしい、普通なら気持ち悪いって感じる筈なのに。

 なんでだろう。


 先輩の胸、心地いい。


 今日の自分はどうかしてる。


「俺さ、実はずっとお前のことが気になってたんだ」


「えっ」


「まさか千尋もそうなんだって」


「いや、あれは……」


 事故、そうあれは単なる事故。

 好きになって良い筈がない。


 こんな状況誰かに見られたら不味いよ。


 今が、午後じゃなくて朝練で良かった。


 早朝のバスケの練習は任意だった。

 強制参加ではない。


 ただ練習をしたい人の為に、体育館は開放されていた。


 誰か来ることは無いとは思うけど、ずっとこのままは流石に……。


「あのぉ~~森脇先輩、苦しいです」


「あっ、ごめん」


 キュッ


 ドキドキドキというかドックンドックン言ってるよ心臓。

 自分の心臓爆発しないだろうか?


 耳の奥で激しく音が聴こえる。

 落ち着こう落ち着こうと思えば思うほど、心拍数が上がっていく。


 フリースローを打つ時よりも遥かに緊張する。



 …………。



 今、自分と先輩との距離は約1メートル。


 もっと離れなきゃ、このままじゃ自分がおかしくなる。

 いや、もう既におかしくなり始めてるのかもしれないけど。


 それにしても男の人の唇も柔らかいんだ。

 ……っぅ、何を考えてるんだ。


 うわぁ~~もうやっぱおかしくなってるよぉ~~。


「あのぉ……さっきはすいませんでした」


 そう冷静に、ちゃんと伝えなくちゃ自分の気持ちを。


「いや、大丈夫。急だったからびっくりはしたけどな」


「流石に気持ち悪いですよね?」


「いや、全然っ。むしろ嬉しいの方が勝った」


「えっ、いや……えっ、でも」


 まさか、先輩が自分の事を好きだなんて思いもしなかった。

 レギュラーメンバーのチームと、非レギュラーのチームの練習は分かれていた。


 学校の体育館は大きく、半面で公式の広さと同じだ。

 中学の頃は体育館の全面を使わなくちゃ、公式の試合練習は出来なかったのに。


 だから、それだけいつも離れて居るのに、先輩は僕のことを見ていてくれた。

 嬉しいようで、複雑な気持ちだ。


 いいのかな、こういうの。

 もし自分が女の子だったのなら、別に心が揺らいだりなんかしないのに。


 なんか罪悪感を感じる。


 中学の頃から始めたバスケ、本格的に打ち込むために入った男子校。

 共学なんて恋愛にうつつを抜かすと思って避けたのに。


 まさか、こんな事が起こるだなんて。

 きっかけは事故なのに、なのに胸の高鳴る自分がいる。


 ガラガラ


 扉が開く音で、二人のだけの空間から現実の空間へと引き戻された気がした。

 僕は慌てて先輩から3.6メートル分の距離をとった。


「おっ、真也おったんや。来週試合やろ、練習付き合ったって」


「いや悪い、さっき終わったところ。それじゃあ千尋放課後、なっ」


 あんな事があったのに、普通に笑えるんだ。


 彼から放り投げだされたボールは綺麗に放物線を描き、ネットへと吸い込まれた。

 ボールの勢いは弱まったものの、尚も回転するとこちらの足元へ。


「なんやアイツ珍し嬉しそうに、なんかあったんか?」


「いえ、黒田先輩」


「さよかぁ~~」


 まるで彼の想いが、そこに詰まっているかのよう。

 僕は両手でボールを掴むと、先程先輩が入れたゴールへシュートした。


「おっ、ナイシュッ」


 もう迷わない。

 だって想いは同じだ。



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この度は私の小説を開いてお読み頂き、ありがとうございます。

他の小説サイトの短編コンテスト作品です。


せっかく書いた作品なので、此処でも紹介させて頂きました。

もしこの作品を気に入ってくれましたら、別の作品も是非読んでみてください。


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事故なのに…… 夢七夜 孤島(ムナヤ コトウ) @SashaBill

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