最前線の英雄
@misuzu0427
第1話
私は自分にできることはできるだけしてきた……と思う。
小さい子を庇って死んだ時も、幼なじみを守るため人に刃を突き立てた時も、それが私ができることだった。
「暇ですねぇ」
城壁の上で魔物平原の監視をしている時、ぽつりと今日の相方であるアンディーが言葉を
こぼし最近流行りのコーヒーをすする。
「暇が一番だよ。それに冬ももう少しで終わるから魔物も動き出す。気を引き締めてね」
春の息吹が山から吹く頃。朝はまだ寒く、冬の寒さが風に乗って体を撫でる。白い息を隠すようにマフラーに顔を埋めながら双眼鏡を覗く。
目下に広がる平原は静かだったが、小柄な人形が静寂を破った。緑の肌に病的に膨れた腹、そして小さい角。ゴブリンだ。
「来たよ。十一時の方向……600m位先にゴブリン発見」
「くっそー、なんで今出てくるんだよ。そろそろ交代っだってのによ」
片膝を立て、腕を乗せて銃を支える。照準をゴブリンに合わせていく。アンディーが短杖を構えて小さく呪文をつぶやくと私たちを守るように透明な障壁が出てくる。さらに重ねられた呪文は狙っているゴブリンを目立たせ狙いやすくする。
一瞬呼吸を止めて引き金を引く。小さい銃声と共にゴブリンの体は弾け飛んだ。
「ヒット……動きませんね。変異も無さそうだし、死体はどうします?」
「いつも通り屍肉食らいにお願いしよう。彼らに差し入れか何か持っていこうか」
「おっ、いいですねぇ。あいつら骨が好きですよ」
「詳しいね。じゃあアンデル牛のやつでも持っていこう。昨日入ったと聞いたからね、まだあるだろう。肉は私達で食べよう、奢るよ」
「ラッキー!流石我らが竜落とし!太っ腹!」
「崇め奉りな」
アンディーは喜びながら呪文を唱え小さな光る小鳥を作り飛ばす。処理班の詰所に屍肉食らいの派遣を要請したのだろう。アンディーは器用でできることが多く、よく一緒に任務につくがとても便利だから好きだ。
あらかた騒いだら任務に集中する。私達がいる城壁のしたから扉が開く音がして、屍肉食らい出てきた。
彼らはスライムと犬のキメラで、スライムの雑食性と犬の順応性と俊敏性を掛け合わせて作られた。骨が透けてる見える半透明な犬みたいな姿で、食欲旺盛で人よりも早く走るが耐久性と持久力がどっかに行った。早いが脆く燃費が悪い生物だがこと戦場を綺麗にするということに関しては適任である。
ゴブリンが食べられているところをなんとなく見ていると、階段を上る音がする。
近くの扉から見知った顔がでてきた。
「お疲れ様です、竜落としのヒミ。交代の時間です」
「お疲れ様です英雄ノアル。後はよろしくお願いします」
英雄ノアル。私の幼馴染で、守りたかった人。三年前、山から竜がやってきて城壁を越えようとした。沢山の兵士やハンターが死に、街に大きな被害を出した邪竜。その竜を討伐したのがノアルだった。幼い頃は泣き虫で人見知りで私に隠れていたのに、今や英雄と呼ばれるほどになった。私は喜びと寂しさ、あとは大きな嫉妬でぐちゃぐちゃになって上手く接することができないでいる。
「先程ゴブリンを討伐しました。処理も終わっていますがゴブリンは群れますので残党がいるかも知れません。では、これで失礼します」
「まって!」
いくつか言葉を交わし、早くノアルから離れたくて足早に去ろうとするが呼び止められる。
ノアルは何かを言いたげに私を見ていたが、泣きそうな顔をして黙る。こういう所が好きじゃない、言えばいいのにね。
「何か?何もなければもう行きますが……」
「すまない、なんでもない……」
何でもないなら呼び止めんじゃねーよと毒づきたくなったが、寸前で飲み込む。
「行こうアンディー」
「はーい。では、失礼します」
昔はこんな関係じゃなかったのにどこで間違えたか、私が人殺しになった時から狂ってしまった気がする。過去には戻れないから仕方ないと諦めてるが、ノアルにも諦めて欲しい。
ごちゃごちゃ考えたが、この後は焼肉だ。夜勤の後の肉はサイコーだし、血糖値あげて気絶して寝たい。ドカ食い気絶部の後の睡眠は生きててよかったことの一つだ。切り替えていこう。
最前線の英雄 @misuzu0427
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