第11話チャリパイvsT8000

 やがて、チャリパイの乗った車とトレーラーとの距離は次第に縮まってきた。

後部座席のひろきが、ヒステリックな声でに運転手の凪に向かって泣きつく。


「凪! 追いつかれちゃうよ~! もっとスピード出して!」


五人乗りのシチローの車に六人乗車し、さらには重い銃器を積んでいるせいもあるが、この時二車の距離が縮まっていたのにはもっと致命的な理由があった。


「いえ……もっとスピードは出せることは出せるんですけど……この車、もうですよ……」


「え?・・・・・・」


てぃーだ、子豚、ひろきの声が三人ほぼ重なった。その後ろではシチローが頭を掻きながら言い訳をする。


「いやぁ、最近、ガソリン代高価たかいから満タンにしないんだよね」


「出た! シチローのドケチ術!」


「ど~すんのよ、一体!」


おそらく、もう何百メートルも走れないシチローの車、この絶体絶命のピンチをシチローはどうやって切り抜けるつもりだろう。




シチローはトランクからリアシートのリクライニングを乗り越えて車内へと入って来ると、子豚が持っていたロケットランチャーに手を伸ばした。


「コブちゃん、ちょっとコレ貸して! ……オイラがを狙ってみる」


 トレーラーの燃料タンクは、正面からは見えない。しかし、側面からならば的が大きいだけに意外と狙い易いとも言える。シチローはトレーラーの側面に付いている燃料タンクを狙う為にロケットランチャーを抱えたまま、車から路肩に向かって飛び降りた。そして路肩からロケットランチャーを構え、トレーラーの左側面にある燃料タンクを狙った。


「これでもくらえ!」


シチローが撃ったロケットランチャーの砲弾は正確に燃料タンクを貫き、T8000が乗ったトレーラーはすさまじい爆発と共に、ジャックナイフのように折れ曲がったまま横転した。


「やったわ!」


トレーラーは、真っ黒い煙と炎に包まれた。その炎はキャビンにも回りフロントガラスの割れたキャビンはほとんど骨組みだけになっていた。そのトレーラーを見ながら、子豚が残念そうに呟いた。


「あ~あ、カッコイイ役、シチローにとられちゃったわ……」


シチローの車は、ちょうどガス欠になったところでエンジンがプスプスと頼りなく震えていた。


シチローは路肩に飛び降りたときに擦りむいた膝を大袈裟に痛がっていたが、なにはともあれこれで一件落着である。きっとこれで凪とホノの時代も救われる可能性が高い。



その筈であった……しかし……




燃え上がる炎の中から、黒い人影が立ち上がり歩き出した。


「ウソでしょ……」


T8000は、まだ破壊されてはいなかった!



☆☆☆



「アイツ何なのよ! ピンピンしてるじゃないの!」


 T8000の外観の皮膜部分は焼けただれていたが、骨格部分は何も壊れていない。

その一方で、ガス欠のシチローの車はもう1メートルたりとも動けなかった。

残っているのは車に積まれた銃のみ。チャリパイと凪とホノの6人は、ありったけの銃をT8000めがけて撃ちまくった。

だが、ZZのボディはそれらを全部跳ね返し、T8000はシチロー達の方へゆっくりと近づいてきた。


「ひえぇぇ~、何とかしてよ!」


「ティダ、ここは自慢のでひとつ!」


「あんなのにかなうかっ!」


「大体、シチローがガソリン満タンにしておかないから悪いのよ!」


「そうだ~! シチロー何とかしろ~!」


そう言って子豚とひろきがシチローに詰め寄る。どんな理由があろうとも、結局のところはいつもこうなる……シチローにとっては何とも迷惑な話だ。


「ちぇっ……わかったよ……」


不満そうに口を尖らせながら、シチローはT8000の前に立ちはだかり大きく深呼吸をした。その様子を見て、凪とホノが不思議そうな顔で互いを見合わせた。


「シチロー、何をするつもりかしら……」


「もしかして、何か作戦が?」


シチローは、足を肩幅よりわずかに広く開き半身に構えると、両手を組みながら鋭い視線でT8000を睨みつけた。


『か~め~は~め~はああぁぁ~!』


「そんなもん効くかボケッ!」


シチロー以外の全員が同時に突っ込んだ。



「この大事な時に何やってんのよ! そんなのでT8000が倒せたら苦労は無いわ…?」


子豚がそう言いかけた時だった……


ガ……ガガ…ガ……


まるで、バランスを失ったおもちゃのロボットのように…よろよろと頼りなくふらつきだすT8000……


「まさか!」


ピ―――……バタン!


T8000は、シチロー達の手前僅か3メートルで、ばったりと倒れた!


「ウソ……」


その現象に一番驚いていたのは、シチロー本人だった。


しかし、一体何が起こったのだろうか…チャリパイと凪とホノの6人は、倒れて動かなくなったT8000に近づき恐る恐る覗き込んでみた。


よく見ると、T8000の首筋の部分に赤いインジケーターが点滅している。そしてその横には小さな液晶画面があり、そこに文字が表示されていた。







『バッテリーを充電して下さい』


「・・・・・・・・・」




これで、人類の未来は無事護られた……と思う。



☆おしまい☆






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チャリパイEp.4~未来からの刺客~ 夏目 漱一郎 @minoru_3930

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