(下書き)⑧ 会話
弾「あいつは大人しい奴じゃない。最前線で見るような奴だ」
ーーー
「・・・・・・ッ!」
その時、結奥は口を開いた。喋ろうとした。叫ぼうとした。
それでも不意の出来事に喉は張り付き、数秒ーー全身を硬直させただけの隙があった。
見えない者と、動けない者。二人の隙を縫う事など誰でも出来る。
ギシ、という音が聞こえた。僕でもなく結奥でも無い。何かが突然、後ろにふって湧いたようなーー。
「ーーー・・・・・・バァ」
どちらの声でもないその言葉に、左から振り返ろうとした。だが逆に強烈な一撃が左側頭部に与えられ、倫毅の頭は逆に右へと大きく振れた。
「倫毅!?」
首から先がすっ飛ぶような衝撃が襲う。一息の間に部屋の隅にまで転がっていく。目を閉じていた訳ではないのに、その数秒の記憶が抜け落ちていた。
吐き気、眠気、寒気・・・・・・何か凄くぼんやりしている。身体の何処かに穴が空いていて、息をしたそばから抜け落ちていくような。
(ヤバい・・・・・・ヤバい、ヤバい、ヤバい)
思考がプツプツと途切れて、形にならない。
全身に力が入らない。自分の腕は細い棒か何か。視界は寝ぼけていて、何者かの輪郭はボヤケている。涙ぐんだように先が見えない。
確かなのはそこにもう一人いるという事だけ。
「倫毅!倫毅!?ねえ、しっかりして!」
多分結奥の声だ・・・・・・あまりにも煩くて顔をしかめる。右頬がつり上がる。多分僕は左手でこめかみのあたりに触れた。ぬる、という温かな感触が伝う。
殴られたのだ、と認識してしまえばあらゆる違和感はそっちに帰結する。今度は何処か他人事のように自分の事が冷静に感じられていた。血の気が引いていってる。奇妙に落ち着いているのだ。
「マジでさあ、バカでしょ。お前」
繰麻あずさは笑っていた。笑いすぎて呼吸を忘れていて、息を吸いながらも尚引き笑いを続けた。その手にはトンカチが握られている。
「移動先が分かってるならさあ、待ち構えてればいいだけだろうが!」
「ーーッ」
痛みよりも寒気よりも吐き気がひどい。喉が重くて呼吸した先からゲロが出そうだ。なのに、吐くものが無い。
「やめて!お願い・・・・・・やめて」
「なんでそんな事言うの?コイツずっと私たちの邪魔してたんだよ!?あの日出来なかった事をもう一度やろうよ!」
「今度こそ、私の友達(にんぎょう)に・・・・・・」
ーーー
ドカァン!と、扉が激しく開いた。
「は・・・・・・?」
仰向けに転がっていた倫毅と、組み敷かれた結奥と、馬乗りになった繰麻。その人物は一瞬で状況を把握し、突貫を仕掛けた。繰麻は馬乗りになっていたが故に完全に動きが遅れ、その首に向かって黒い何かが押し当てられた。
「ああああああああああああ!」
そのまま横顔ごと押さえて本棚へと叩きつける。結奥はそこまで経ってようやく、現状を把握する。今繰麻の首に押し当てられているのはスタンガンだ。そして、その人物はーー
「備海さん・・・・・・」
備海は何も言わず、ただ頷き返す事だけをした。スタンガンはあくまで痛みを与えるもので気絶させたりするものではない。自分より一回りは下の女子だが、彼は手段を選べなかった。スタンガンの痛みで彼女はトンカチを手放していて、首に腕を絡めた。
あと力を入れるだけで絞め落とせるように。
「・・・・・・な、なんで」
繰麻は今度こそ、愕然としていた。
「先生が見た未来に、貴方は出てこなかった・・・・・・どうして」
介抱するような寝た繰麻と膝枕をするような位置の備海だが、実際にはまるで違う。
「動くなよ。言っておくけど加減はしない」
「私はそいつを殺して、甘木さんを連れてここからーーッ」
「そんな事にはならない」
「・・・・・・よし」
「甘木さん、ベランダから玄関に出てくれ。黒い車が止まっているはずだ。急いでくれ」
「・・・・・・え、は、はい!」
そのまま黒い服を着た人物が繰麻さんの事を数人がかりで拘束していく。
「広束君。今すぐ病院に運ぶ。安心してくれ」
ーーー
「・・・・・・アンタの予言って外れるのか?先生」
「」
重心(イドラ) 式根風座 @Fuuza_Readsy
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