一章 東の国⑦
翠蘭は美しい娘だ。
草原の民の特徴たる藍がかった髪と
二人を見ていた典医が
「蓮妃。お加減がよくなりましたなら、そちらの娘めは早く追い出しなさりませ。水は手元に届きました。かように醜い者を傍におかれましては……」
ただし、翠蘭が万人に優しくいられるのも時と場合による。
幼馴染みを
これに暁蕾はやり過ぎた、と頭を下げる。
「私としたことが長居しすぎてしまいました。蓮妃さまがお元気であれば、宗哲さまがいらっしゃるかもしれません。これにてお
複雑な微笑を浮かべる翠蘭は寂しがった。
「ばかね。十日おきにしか会えないのに、もう帰ってしまうなんて寂しいことを言わないで。……外の世界がどんな風だったか、どうかわたしに教えてちょうだい、暁蕾?」
透き通るような笑みに昔を思い出す。
翠蘭は特別な娘だ。その
この国には
それが涙龍だ。
しかし草原の民は違った。彼らは龍の存在を身近に感じ、共に生きる民だった。
その
独占したかったのではない、と聞いている。万物に効く霊薬など、人々を混乱に陥れるだけだ。これは草原の民のみならず、東の地を守るための選択だったが、隠された側はそうは考えなかった。
霞国は草原の民の秘密を知った道士の存在によって、霊薬に気付いてしまった。彼らは、彼らの君主たる宗哲こそ、龍の力を所有するに
暁蕾も殺される寸前だった。
焼き尽くされた数々の天幕。知った顔の無数の
「涙石を作るには涙の泉から水を得る必要があるわ!」
叫び、皆が最期まで隠していた秘密を打ち明けた。
「けれど泉から水を
彼女は恐怖に震えながら、隠し持っていた小刀を自らの
「霊薬の製法はわたししか知らない。その子を殺したら、いまここで死んでやる!」
草原の民の血を指すのであれば、部族を抜けた者でもよかったはずだ。しかし不思議なことに、一度でも『草原の民』から去った者は水を汲めない。
霞国は翠蘭の言葉が真実だと知ると二人を生かした。
こうして翠蘭は宮廷に
暁蕾が今日訪ねた
これが暁蕾が生かされつつも、身を小さくして暮らしている理由だ。
十日に一度、友人に会えることだけが暁蕾の幸せだった。
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この続きは2024年2月22日ごろ発売予定の
『涙龍復古伝 暁と泉の寵妃』(角川文庫刊)でお楽しみください!
涙龍復古伝 暁と泉の寵妃 かみはら/KADOKAWA文芸 @kadokawa_bunko
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