正義を継ぐ者

 同じサイズになって対抗できるとわかれば、巨大生物もそれ程の脅威ではなくなった。

 だが、脅威は他にもあった。俺たちは恐れていた。


「ここにもヤツらが追ってきたらどうすればいいんだ?」

「ああ、あの科学力があるんだ。難しいことじゃないよな」


 俺たちが恐れていること、それはスーパーグレイト星人にこの場所を突き止められ、再び殲滅させられるのではないか、ということだった。

 スーパーグレイトマンたちが、この場所まで追ってくるのは時間の問題ではないかと思われた。生き残っている地球人がいると気付けば放っておかないはずがない。それとも、気付かれないなどということがあるだろうか。

 俺の身体がスーパーグレイト星人と同等になったと言っても、一人だ。もちろん、俺は一人でも戦うつもりだった。だが、限界がある。あちらにはもっと大勢のスーパーグレイト星人がいる。彼らに敵うような力も科学力も無い。とても太刀打ちが出来るとは思えない。

 恐怖と共に、俺たちは過ごした。

 が、いつまで経ってもその日は訪れなかった。

 ようやく生活にも落ち着いてきた頃、仲間の一人が言った。


「もしかしたら、もう彼らは追ってこないんじゃないのか?」


 俺たちはその理由について話し合った。

 ブラックホールを越えた先だったからだというのが考えられる理由だった。あまりにも遠すぎて、彼らにすら関知できない場所なのかもしれない。別の宇宙だという可能性もある。

 それは可能性の話で、今の俺たちには何もわからない。


「それは希望的観測です。明日にも彼らはやってくるかもしれません。そうすれば今度こそ我々は全滅するでしょう。……それならば、私に考えがあります」

「何かいい方法があるのか!?」

「はい。ずっと考えていました」


 そして、彼は言った。


「私たち全員がスーパーグレイトマンになるのです。幸い、彼は未だ無事に過ごせています」


 皆が俺を見る。


「全ての人に安全だとは限りませんが。危険は少ないと考えるべきでしょう」

「それは、あいつらに対抗できるようにするためということか? だが、俺たちは数も少なくて、科学力も敵わないということだったんじゃ……」

「違います。私たちもスーパーグレイト星人だと名乗るのです。彼らの仲間だと。彼らを欺くのです。そうすれば彼らも襲っては来ないはずです」

「どういうことだ? そんなことが出来るのか?」

「完全に仲間だと信じてもらうことは難しいかもしれません。ですが、地球人だということを隠して生きていくことは出来ます。それに運が良ければ自分たちと同じ種族だと思ってもらえるでしょう」

「ふざけるな!」


 黙って聞いていた仲間の一人が叫ぶ。


「あいつらにされたことを忘れたのか! 仲間だなんて思われてたまるか!」


 涙を堪えているような顔で彼は震えていた。


「俺は、あいつらに復讐したいんだ!」

「それは……」

「何が正義のためだ! 正義のためなら、罪のない人たちを殺してもいいのか!? だったら、今度は俺が殺してやる! あいつらを殺してやる! 殺し尽くしてやる!! 数で敵わないだ? そんなものは関係ない! せっかく、あいつらと互角戦える身体になれるとわかったんだ。それなら俺は……!」


 それは、心からの叫びだったに違いない。誰もその言葉を否定できなかった。


「やめて!」


 ただ一人、隊員の中の紅一点が叫んだ。隊員たちがハッとして彼女を見る。


「でも、エンデみたいなスーパーグレイト星人だっていたでしょう? 殺し尽くすなんて、私たちまで彼らと同じになりたいの? そんなの、そんなの……、私たちを助けてくれたエンデは、そんなこと望んでなんか……。……うっうっ」


 彼女が泣き出す。誰もが言葉を失ってしまった。


「だったら」


 俺は言った。


「もう二度と、あんな辛いことが起こらない世界を俺たちが創ればいいじゃないか。誰も不幸にならない世界を。そのために、俺たちが本当の正義を守れるように、強くなるんだ。エンデが俺たちにしてくれたことを、無駄にしないように。俺たちが信じていたスーパーグレイトマンの正義を貫いてやるんだ。それでも嫌か?」

「……」


 激高していた隊員が黙ってしまった。それから、口を開いた。


「そう、だな。俺たち、正義の為にいつだって戦っていたんだもんな。ああ、それであいつらがまた来たとしても、その時は俺たちの正義を見せつけてやればいいのか」

「そうだ! 本当の正義ってやつを見せてやろうぜ!」

「その為にはまず、ここで生き延びなきゃな」


 そうして隊員たちは皆、巨大化することを選んだ。その家族たちもだ。




 ◇ ◇ ◇




 そして、気の遠くなるような年月が過ぎました。地球人の子孫たちは、その星で再び繁栄を極めていました。

 最初にここに辿り着いた地球人たちが考えたように、彼らは地球人だということを徹底的に隠蔽しました。やがて彼らが地球からやってきたということを知らない世代が生まれ、伝えられることもなく。事実は忘却されていきました。

 地球人の子孫たちは、世代を重ねるうちにいつか彼らの中の誰かが言ったように更に強くなっていきました。宇宙の中でも比類する者がいない程に科学も発達しました。

 どれだけの時間が流れても彼らが危惧していたスーパーグレイト星人がやってくることは、一度もありませんでした。

 彼らは知りませんでした。

 ブラックホールに巻き込まれ、そこから脱出したとき、長い長い時を越えていたことを。遙か、遙か過去の宇宙へと……。




 ◇ ◇ ◇




 スーパーグレイト星の博物館の中で、一組の親子が宇宙の展示を見ていました。


「お母さん! この星はどこ? 青くてすごくキレイ! なんだか僕たちの星に似てるね」


 一つの星の展示に目を留めて、小さな男の子が言いました。


「そうね」


 男の子と手をつないだお母さんが答えました。そして、展示の説明を見て言いました。


「ええと、この星は……、地球という名前だそうよ。でもね、この星には怖い人たちが住んでるんですって」

「そうなの?」


 男の子が不安そうに身体を震わせました。


「だけど、大丈夫よ」


 お母さんが男の子を安心させるよう優しい声で言いました。


「この星の平和を守るために、強いお兄さんたちががんばってるんだって。だから平気なのよ」

「ふーん」


 男の子はしげしげと地球の映像を見て、


「僕にも、そのお仕事できるかな。僕、大きくなったらこの星に行ってみたい!」


 目を輝かせます。

 お母さんは眩しいものを見るように目を細めて、男の子の頭を撫でました。

 そして、言います。


「そうね、きっとあなたなら出来るわ。エンデ」


 お母さんの言葉に、エンデと呼ばれた男の子は、にっこりと嬉しそうに笑いました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スーパーグレイトマン~正義を行う者たち~ 青樹空良 @aoki-akira

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説