第46話 ジャングル
リザード族の西門を抜けるとそこは鬱蒼とした森が広がっていた。
ここから、いよいよ本格的なジャングルを進むことになるのだろう。
西門から伸びる道はジャングルの先にも続いているが、細くて険しい獣道のようだった。
しかし、リザード族が通るその獣道のような道を外れると、歩くのにも困りそうなほど植物の根や草が地面を覆っている。
このジャングルを早く抜けるにはやはり獣道のような細い通るしかない。
「レイト。この道であってるのか?」
グラッドが僕にこの荒れた道が正しい道でたるのかを訊ねてくるが、正しい道なんてわかるわけがない。こんなところに来たことはないのだから。
僕はミシャに作ってもらった魔法石を取り出すと、研究所の場所を念じる。
魔法石は獣道が続く方角よりも少し右を示すようにうっすらとした光が浮かび上がった。
概ね方向は正しいようだ。
「多分あってるよ」
「なら良いけどさ」
僕の回答を聞いたグラッドはまた先頭を歩きだすが、直後に鬱蒼とした暗いジャングルから光が差し込み突然視界が広がる。
その先は川であった。
水辺はリザード族の食糧確保の場でもある。だからリザード族の村から直ぐそばには水辺がある事が多いと聞いた事がある。
大河ではないが、かと言って泳いで渡るにはかなりの幅があるので、特に重い装備をつけているライが渡れるような場所ではないだろう。
「レイト。この道が正しい道じゃなかったのか?」
グラッドが僕を睨む。
「僕だってこの辺りの事は知らないよ。リザード族は泳げるから橋をかけないんだ。
だからこの辺りの川には橋はない。泳ぐしかないよ」
「ライは泳げるのか?」
グラッドは今度はライの方を見て尋ねる。
「私の胸当てと籠手は鋼ですので、それを捨てれば•••。
しかし•••剣だけは絶対に手放すことはできませんし、バックパックもあるので正直泳げるかは微妙なところですね。」
「人が乗る船は用意できないけど、筏のような浮くものを用意して、そこに装備を載せて渡るのはどうだろう?」
僕はそんな事を提案してみる。
「レイト!良いアイデアだな。木を集めて縛れば装備くらいは載せられるかもしれない。山で必要かと思ってロープは買ってきてるからそれを使おう」
グラッドが自身のバックパックからロープを取り出すと僕たちの前に掲げた。
なんだかとっても自慢げなのは何故だろう。
ーーーー
「これでよし。できたぞ」
それぞれが折れた木を集め、1時間ほどで1m四方程度のイカダもどきを用意する事が出来た。
集めた木材にロープを縛り終えたグラッドが完成の宣言をする。
「装備を載せて直ぐに出発しよう!」
3人で筏に掴まりつつ澱んだ川に入り、バタ足で進んのだが、川の流れはそこまで早くはなかったためか苦労する事なく対岸に渡る事ができる。
意外とあっけないが、それだけ装備を載せた筏と言うアイデアが良かったと言う事だ。
それなりに疲労はしたけど、無事川を渡れた事に安堵する。
ロープはまた使うこともあるだろう。
渡り終わったあと、イカダを解体して先に進んだ。
川を渡った先にもやはり、獣道が続いていたが、ジャングルの道は険しく長い距離を進む事はできずにそこで一泊する事になった。
ーーーー
次の日、細い獣道を西に向かって進んでいると前方からリザード族のものと思われる声が聞こえてきた。
どうやらリザード族の男達が何人かで話をしながら近づいてきているようだ。
「レイト。リザード族だ。木陰に隠れろやり過ごすぞ」
グラッドがいち早くそれに気づき身を隠すと、リザード族の男達4人が槍を片手に談笑しながら通り過ぎていく。
狩に行くのかもしれない。と言うことはこの先にリザード族の村があるのだろうか?
「グラッド、村が近いのかもしれない。注意してね」
「ああ、わかった。村があったらどうする?」
「前のように隠れて通り抜けよう」
「わかった」
そしてしばらくするとやはり、リザード族の村がジャングルの切れ間に現れる。
森の奥は彼らのテリトリーだからであろうか?この村には柵のようなものは存在しない。
リザード族の村の住居は地面に同じ長さの木を円錐状に立てかけた簡素なものだ。
そういった住居が楕円を描くように東西に輪になって広がってる。
楕円状住居の中央の広場にリザード族数人が集まって何かを話しているが、住居の裏側と森の間には人は居ないように見える。
グラッドとレイトはその住居の輪の裏側を素早く移動していく。
先ほど出会ったリザード族は腰に布を巻く程度の服しか着ていなかったが、中央の広場に集まるリザード族は人間のような衣装を纏うもの達も多く混ざっている。
恐らくは女性や地位が高いものなのであろう。
その様子を伺いつつ次の住居の裏側に回ろうと、グラッドが走り出したとき、不意にリザード族の子供が木の棒を持って目の前に走り出て来た。
グラッドは慌ててしゃがみこむが、すでに子供の目はグラッドを見つけてしまっていた。
「な、なんだ!!!へんな奴がいる!!」
子供が驚いた表情をして声を上げると、その子供を追いかけてきた別の子供も姿を現す。
「お前逃げるなよな〜〜! っ!?えええ!?に、人間だ〜〜〜!!」
追ってきた子供が大声を上げた。
広場のリザード族にも聞こえるような大声だ。
「やばい!!見つかった!反対の森まで走るぞ!!!」
グラッドは振り返りそう言うと西に向かって駆け出す。
「人間だーーーーーー!!!」
同時に子供達が村の中心に向かって逃げだしていく。
「人間!?!どこだ!!!」
「村の中に人間が入ったのか!!?」
中央の広場が一気に騒がしくなった。
「ライ!走るよ!!」
グラッドを先頭に、西側の門に向かって走る3人。
どうやらまだ追いかけてくるものはいない。
グラッドがいち早く西の出口にたどり着くと、その先の道からリザード族の男が1人こちらに向かって歩いて来ていた。
グラッドを見つけた男は驚いた表情を浮かべ、次に槍をグラッドに向ける。
「うお〜〜〜!!!」
グラッドはそのまま槍の間合いに飛び込み、リザード族の門番が槍を振るう前に体当たりを繰り出す。
いきなり体当たりを喰らって倒れるリザード族の男とグラッド。
2人は一緒に倒れ込み揉み合いを始めるが、リザード族の男は屈強ですぐにグラットを押し倒して馬乗りになると鋭い拳をグラッドの頬に叩き込んだ。
「うがっ!」
グラッドの口の中が切れ、唇から血が滴る。
そこにいち早く駆けつけたのはライだった。
グラッドを組み伏せる男の首筋に剣を突きつけた。
「死にたくなければ抵抗を止めろ!」
ライは威圧するような声を相手に投げかけ、リザード族の男は動きを止めた。
「わ、わかった。
•••••。
だが、お前達はここからどうやって逃げるつもりなんだ?」
グラッドから離れて両手を頭上に上げた男は一度後ろを振り向き、そして僕たちに視線を戻すと、逆に問いかけてきた。
僕は男が振り向いた先••出口の道の先を見る。
森と思われた道の先には川が見える。しかも先ほどより幅の広い川だ。
僕たちにこの川を渡る術はない。仮に泳げたとしてもリザード族に簡単に殺されてしまうだろう。
呆然とする僕たちの後ろからリザード族が続々と集まってきていた。
「レイト。ここは大人しく降参することを進言します」
「抵抗をやめなければならないのは僕たちの方か•••」
「チッ。こんなところでリザード族に捕まるなんてな」
砂の少年 Morii @moriikunosusi
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