第45話 行くか戻るか


 「リザード族の住処……。ねぇグラッド、迂回しようよ。僕らに勝ち目はないって。ライしか剣を持っていないし、僕らは魔法石で立ち向かえるの?」


 おもむろに砂漠中の魔法石を取り出すレイト。

 無情にも光が指し示しているのはリザード族の住処。


 「あそこを突っ切れっていうの?素直に門を通してくれるとは思わないよ。」

「迂回すると言っても、リザード族のテリトリーは広い。途中まで引き返すにもまた上りになるが?」


 ライは言うと剣を取る。戦うつもりだ。

 グラッドは無言のまま何か考えているようだった。


 「僕には勝つ自信が無い。何か名案は無いの?」


 ずっと無言だったグラッドは、鞄から青い魔法石を取り出した。

 洞窟の第二保管庫でミシャが話していた会話の魔法石だった。


 『ミシャ、ミシャ聞こえる?聞こえてたら返事して』


 暫く返事はなかった。が、一瞬青く光るとミシャが答えた。


 「グラッド?どうしたのです」

『山を下りてきたところでリザード族の住処に来てしまったんだ。アランド王国までは住処を抜けるしかなくて……』


 会話の魔法石は仄かに瞬いている。


 「分かりました。リザード族を北側に引き付けます。混乱に乗じて、上手く抜けなさい。」

『混乱?何かしてくれるんだねミシャ。分かった、上手く切り抜けるよ。ありがとう』


 会話の魔法石の瞬きが消えて、暫く経っただろうか。門の向こうではリザード達が騒いでいる。


ーーー


 「大変だー、北の魔獣たちが攻めてくる!皆戦いの準備を!」


傷だらけのリザードは北側の門によろよろともたれかかる。


 「仲間達がやられているんだ。早く応援を頼む……」


 それを聞いて、リザード達は北側門から次々と出ていった。



 木を縄で縛り、強固に作り上げた塀と門。

 グラッドは門に近付き様子を伺った。

 どうやらリザード達は北側から出ていくようだ。


 『レイト、ライ!行こう。隠れながら抜けてくよ』


 3人は門を押し開け中に入る。

 ところどころにある家々に隠れながら3人は走った。


 『全速で走れレイト!』

「分かってる。死ぬ気で走ってるー」


 15分。いや20分程、山脈寄りの東の門から、西側の門まで3人はひたすらに走った。

 この時ばかりはレイトは弱音を吐かなかった。


ーーー


 北側門からリザード達が次々に走り抜けていった。

 傷だらけのリザードは立ち上がると金色に輝き、その姿はミシャへと変わった。


 (少しは時間稼ぎになるでしょう)


 ミシャはそう呟きながら魔法石を頭上に掲げると、再び金色に輝いて姿を消した。


ーーー


 西側の門を押し開け外に出られた3人。


 「はぁはぁ、やっと出てこれた。良かった」

『まだまだ走るよレイト』

「奴らのテリトリーは広いと言ったはずだよレイト」


 先を行く2人を追いかけるレイト。


 「ここまで来たんだ。死ぬわけにはいかない、頑張らなきゃ。待ってよーグラッドーライー」

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