part Aki 2/14 pm 6:37




 ――過ぎたるは 及ばざるが如し――


 今 ボクの頭の中には そんな諺が グルグルと駆け巡っていた。

 何度も言うようだけど ボクは性同一性障害の男子高校生。身体は女の子なワケで 聖心館ってゆー女子校に通ってる。今どき 良妻賢母の育成を校則に掲げる時代錯誤な学校で 家庭科に異様に熱心な女子校だ。そんな学校に 通って 周りの女の子達も 毎週のように調理実習に取り組み それなりにみんな料理上手になってる。そんな場所に5年も隔離されて 毎年 友チョコの交換なんてやってたせいで ボクの常識は 世間の標準とは かけ離れたモノになっちゃってたらしい……。


 瞳が 満面の笑みと共にカバンから取り出したのは 直径10㎝はありそうなハート型チョコレート。表面には 白のチョコペンで〈亜樹 大好き〉ってカワイイ丸文字で書いてくれてる。

 それは まぁいい。

 気持ちこもってる感じだし 彼女からの手作りチョコって感じだし 素直に嬉しい。



 ……ただ 問題は ボクが準備した方だ。



 しつこいようだけど ボクは女子校通いしてるワケで 毎年 友達にチョコを配ってる。さらに言えば 小学生の頃も パパや兄さん達にあげる用に ママと一緒に チョコ作りをしてきた。聖心館のOGで料理好きのママと一緒にだ。言うなれば チョコ作りのキャリアが10年以上あるワケだ……。


 そして 今年のバレンタイン。

 人生初の恋人ができた。ボクだって ホントに嬉しかったし 気持ちを込めたチョコレートを贈りたいって思った。お正月明けくらいから ネットやら本やら色々とリサーチして チョコ作りについて研究した。幸いにも 料理が趣味のママのお陰で チョコを一定の温度で溶かすヒーターなんかもキッチンにあった。


 ……そんなワケで ボクの今年の作品は

 

  〈生チョコ包みのチョコトリュフ〉

 

 瞳のために12個用意したんだけど 1個ずつトッピングとか変えてデザインにも拘ってみた力作だ……冷静に考えると 完全に勇み足だったワケだけど。



「これって 亜樹が作ったの?」


「……まぁ うん。いろいろ調べたりして 作ってみたんだ」


「すごいね。美味しそ~」



 そう言いながら 瞳は1つ摘まんでくれるけど 自分が作ったヤツと見比べて ちょっと微妙な表情。

 なんとも 気まずい。

 


「大きいの作ってくれて ありがと。スッゴく嬉しい」



 ボクも 瞳のチョコレートを手に取り噛ってみる。

 ザラッとした粉っぽい食感。たぶん 溶かす温度が安定しないから 固まるときにムラができちゃうんだろな。市販の板チョコ溶かして作ったんだろうけど 妙に甘い。まぁ 手作りチョコらしいって言えば 手作りチョコらしいんだけど。ボクは そーゆーところに かなり気をつけて作ったから 食べ比べたら 差は歴然かも……。


 瞳の顔色をこっそり窺うと ちょっと意を決したような表情。

 別に 瞳を傷つけるつもりで 作ったワケじゃないけど 結果 そーなっちゃったかも……でも 謝るのも変だしな。どーしたら いいんだろう? そんなこと考えながら もう一口 チョコレートを噛る。



「あのさ 亜樹。実は もう1つ プレゼントあるんだよね」


「えっ? そうなの?」


「うん。実は そーなの。ちょっと準備するから ちょっと目 瞑ってて」



 慌てて目を瞑る。

 もう1つプレゼントってなんだろう? 服とかかな? でも 春高バレーで忙しかったハズだし……。色々 想像してみるけど わかんない。聞き耳立ててみてるけど カバンから出した時の音は ほとんどしなかった。大きなモノじゃなさそうだ。いつものことながら 想像が悪い方へ 流れそうになる。


 ……いや。瞳のことだし ボクにとって 嫌なことはしないハズ。



「亜樹 もういいよ~っ」



 瞳に言われて 目を開くと 瞳は黒髪に大きな赤いリボンをつけていた。

 なんだか 魔女の女の子みたいな感じ。

 例のチャコールグレーのワンピース着てるし。



「?」


「ほ~ら プレゼント」


「??」



 こっちを見つめる瞳は 妖しい笑み。

 


なの。ねぇ ?」

 


 そう言うと 目を閉じて キス待ち姿勢。

 

 ……マジか。

 

 鼻血 出そう。

 チョコレート食べ過ぎたかも。



 

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