第3話 意外と早く会えたじゃないか
ラウラの言う通り、ひたすら東に進んでいくだけでアクロスという町に辿り着いた。
しかし、町に辿り着いたは良いものの、人っ子一人目に映らない。
寂れたような雰囲気は無く、先ほどまで人がいたのに突如として消えたかのような違和感だ。
大雑把な規模感はそこらにある少々大きい集落くらいなものだが、どうしても目につくのが、そのような少々大きい集落程度では見ることがないであろう教会である。
「まさか、町の人全員が教会に……?」
「まさかも何も、この町じゃそれが普通さ」
ラウラは一切の不信感も持たずにそう言い切った。
「にしたって、警備のためにも一家に一人二人は残しておくものでしょう」
「この町は神が特に見てくれている町だ。まさか犯罪者がやって来るだなんて微塵も思っちゃいない。というか、犯罪者もこの町では足がすくんでしまうだろう」
まぁ、住民たちがここまで堂々と同じ時間に家を空けているとなると、空き巣に入る人がいたら目立って仕方ない。
そういう意図があるのかは分からないが、それで犯罪が防げているのだ。
町に入ってすぐのところには畑があるが、まだ初春。小さな芽が生えている程度である。そのまま歩いていると、販売所が見えてくる。
そこは元から店員が入り会計をするような場所はなく、籠の中に野菜が並べられ、その手前にお金を入れる箱があるだけである。無人販売というやつだ。
やはり、犯罪が起こるということからかなり離れたところにある町のようだ。
よく色づいたトマトを手に取ると、少ない路銀を惜しみながら箱にお金を入れた。
「にしても、宗教というのは分からないですね」
中の汁が垂れないようにしながら素早くトマトを咀嚼する。
「そうか? 神様が見てくれていると思ったら、怠けようにも怠けられないし、よりやる気が湧いてくるけどな」
僅かにトマトの汁が地面に落ち、少々勿体なさを感じる。
「あー、まぁ、そういうのもありますよね」
確かに誰かが見てくれていると思うだけで励みにはなるし、悪いことをしようだなんて気持ちは到底無くなる。
僕は食べ終わったトマトのヘタを袋にしまった。
だが、それ以前に僕はどうも宗教という類が好きではない。
神様がいるというのは別に構わない。というか、神様がいたら良いなと思うほどには肯定的でもある。しかし、宗教はその類ではない。
それに惑わされて気を確かで無くしてしまった人達の末路なんてものは想像するだけでもおぞましい。
信じるという事はどこか子供染みているようで、その力は計り知れない。その信じるというちょっとした動機で世界がひっくり返ってしまうことだってあるだろう。
そうなった時に、抗いたくば、信じない自分しか信じられなくなってしまう。
「着いたな」
大人の男性が開けるにも少し大きいような扉を開けると、やはり村の人々は全員が椅子に座り、神様に向かって手を合わせていた。
「神様はいつも貴方を見てくれています。悪しき心は神様を信ずることで消えていくでしょう」
信者達は神官の言葉に耳を傾けている。
多分、何一つ間違っちゃいない。間違っちゃいないのだが、その真意をただ委ねているだけでは駄目なのだろう。それをすぐに忘れてしまう。
だから、宗教は嫌いだ。
横を向くと、郷に入れば郷に従えとでも言うかのように、ラウラは胸の前で手を合わせていた。
それと同じように僕も手を合わせる。
あぁ、油断していた。そうじゃないか、ここはあいつのテリトリーだ。
意識が精神世界へと吸い込まれる。
見たことのある景色。
目の前に立っているのはこの世界の絶対神、シーザー。
僕は精一杯の眼光をシーザーにぶつける。
「おいおい、そんな怖い顔をしないでくれたまえ。ふふ、意外と早く会えたじゃないか」
僕がシーザーに会うのはこれで二度目だ。
それでも勇者になりたくて @CaiN_Asada
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