舞浜千歳は考える

すみはし

第1話 舞浜千歳は思い知る

舞浜千歳はぼんやりと診断書を眺めている。

【鬱病】と書かれた診断書を。


「あぁ、なんてこった。やっぱり病院なんか行くんじゃなかった」


舞浜千歳は診断書を握りしめてため息を吐いた。


道理で最近食欲がなくなると思ったよ。

そのくせたまに爆発したりすると思ったよ。

夜中に眠れないと思ったよ。

何度も目が覚めると思ったよ。

泣き出すと思ったよ。

会社に行きたくなくて玄関先で蹲ったよ。

でもまさか鬱病だとは思わないさ。


舞浜千歳は頭を抱えて唸っている。

病院にいったのも、そもそもは食欲不振と寝つきが悪いだけだと思って内科に行った。

そのときの医師の微妙な顔はしっかりと覚えていて、そのあと「もしかしたらうちじゃないかもね」と半笑いだった。

どういうことですかと聞くと、別の病院を紹介されて行ってみれば心療内科じゃないか。


「はーい、じゃあこちら問診票のご記入お願いしまーす」

受付のお姉さんがそこそこ何枚もあるようなアンケート付き問診票を渡してきて、病院なんて5分で終わると思っていた舞浜千歳は面倒くさがりながらも回答していく。

時たま答えに悩むこともあったがなるべくテンポよく回答していく。

なんだよこのアンケート。泣き出す頻度だの眠れない時間だのなんだの わざわざ欠書かされて、と頭の中で悪態をつきながらやっと全ての質問に答えて提出する。


随分と待たされたあと、名前が呼ばれたので診察室に入るとものの数分で「ハイ鬱病ですね」ですと。


いやいやこの数分とその問診票だけで私の全てをわかった気になるな、風邪だと思って言ったいった病院ですら聴診器を当てたり熱を測ったり何かするぞ。

インフルエンザならもっと鼻に棒を突っ込んだり嫌な思いをしてやっと検査結果が伝えられるというのに。


舞浜千歳はとても不満であったが「会社、行けてますか?無理そうなら診断書書きますよ」という一言に負け、会社への嫌味妬み嫉みが火山のごとく吹き出す前に二つ返事で診断書を書いてもらった。


高かったなぁ、診断書。


これをとりあえず出せば会社から一旦開放されるのか?と舞浜千歳は考える。

記載の通りであれば1ヶ月の休養が出来るようだ。

うちの会社はそういう対応をしっかりしてくれるのかなぁというぼんやりとした気持ちとともに、自分に病名がついたことに情けないようなほっとしたような不思議な感覚に襲われた。


こうして舞浜千歳は自分が【鬱病】であることを思い知った。



ーーーこれは舞浜千歳の葛藤と、諦めと、期待と、再起の物語である。かもしれない。

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