第2話 異世界転生

「おぉ…」

「これは成功でわ…」

「黒い髪、間違いない…」


 どれくらい眠っていたのだろう。

 意識がはっきりしている訳ではないが、周りがやけに騒がしい。

 もしかして門下生達かと思ったところで慌てて目を開けてみる。


「えっ…」

 周りの光景に思わず声が漏れてしまった。

 見た事もない部屋、周りには黒いローブを着た人達。

 何より1番の違和感は正面に座っている偉そうに肘をついている白髪のおっさん。

 あからさまな王冠っぽいものもついてるし、まさかこれは夢にみた異世界転生。


「王様、成功しました。」


 今、王様って言ったよな。

 間違いない。絶対に異世界だ。

 子供の頃はアニメを観たり、ゲームをやる度に憧れていた。

 小学校低学年までは周りの皆んなも盛り上がっていたが、段々と熱は冷めていった。

 今でも忘れられない黒歴史は、小学校6年の時についその話をしてしまい、周りからあいつまだあんな事言ってるぜとイジられ続けた事だ。

 剣道の大会で成績を上げた事で、ケンカも強いのでわと噂がたたなければずっとイジられていたかもしれない。あまりいい噂ではないが。


「よくやった。皆の者、下がって良い。」


 貫禄のある声が発せられ、周りにいた人達が後ろに下がる。


「勇者殿、よく来てくれた。」

 

 勇者⁉︎いきなりの展開に驚くが、こんなパワーワードを聞いたら興奮する。


「失礼かもしれませんがその格好は?」


 格好?興奮していて自分の状態を確認していなかった。よく見ると、先程の稽古した後と同じ格好だ。木刀だけ何故か腰にかかっているがこの格好で勇者はちょっと恥ずかしい。


「こちらに来る前に色々ありまして。」

「確かに急な召喚を行なってしまった。こちらの不手際だ。申し訳ない。」


 何だか王様の割にはやけに低姿勢だ。もしかしてとんでもなくいい人なのか。


「急な申し出になってしまうが、どうかこの世界を救ってほしい。」


 予想通りの展開だ。


「具体的にはどうすれば救えるのでしょうか?」

「今、我々は魔王軍と戦っているのだが、こちらから決定的な行動を起こせず、ジリ貧になってしまっている。そこで考えられたのが勇者殿の召喚だ。上手くいけば、我々には無い魔法で倒す事が出来るかもしれない。」


 魔王を倒すのはいいが、魔法なんて使えるのだろうか?使えなければこの格好だと装備が心許ない。


「魔法を使える世界にいなかったのですが。」

「何⁉︎魔法を使った事がない!」


 何だ?急に大声を出されたが、そんなに驚かれるとこちらが焦る。


「マニ!賢者ワイアーの話と違うでは無いか!」


 マニと呼ばれた人が慌てて王様に駆け寄る。皆んな同じローブ着てるしフードで顔が見えないから区別出来ない。声が聞こえない為、内容が分からないがあまりいい雰囲気じゃない。

 何か言いたいが空気が重く、声を発する事が出来ない。早く、何か言って欲しい。


「勇者殿。暫くこの国に滞在してもらい、その間にこのマニから色々教わってくれ。」


 急に話し方が変わって少し怒ってる様にも感じる。何故か分からない為、こちらも少しイラッとしてしまった。


「分かりました。マニ殿、よろしくお願いします。」


 その為、王様には挨拶しないという形で反抗心が出てしまい場の空気は更に悪くなる。


「では、こちらへ。」


 案内されるまま部屋をでる。最後に王様がため息を漏らしたのは聞こえたが、あえて触れるのはやめておこう。部屋を出るとマニさんがこちらに振り返り


「先程は大変申し訳ございませんでした。」


 と、頭を下げてきた。


「そんなに気にしないで下さい。」


 と、返した。こちらも態度に出ていたし。


「あの、勇者様に不快な思いをさせるつもりはないのですが、王としてもこの国をなんとかしたいという思いが強く。」

「本当に大丈夫ですから。それと勇者様と呼ばれるのも慣れないので名前で呼んで下さい。神門ツルギといいます。」

「いえ、来ていただいた勇者様を名前で呼ぶなんて。」


 もの凄く焦って話している。

 ただ、声を聞いている内に女性だと確信してしまい少し緊張している。


「こちらも色々教えてもらわなきゃいけませんし、よろしくお願いしますマニさん。」


 落ち着け。いきなりさん付けとか大丈夫かな。女の人とまともに話すのは中1のトラウマ以来だからかなり緊張する。

 するとマニさんがフードを下ろして


「では、こちらこそよろしくお願いします。

ツルギさん。」


 と、頭を下げる。髪の色は赤色で目はぱっちりとしている。というか、めっちゃ可愛い。


「それでは宿舎まで案内しますので。」


 その後、すぐ近くの宿舎まで話しながら歩いたが正直緊張しすぎてあまり覚えていない。

 唯一、覚えているのはこちらの世界では木刀を認識されなかった事だ。

 何か特別なアイテムとして見られたらしく、それが無ければなんとなくやばかったかもしれないとの事。

 とりあえず、召喚された時間軸は丁度夕方で

稽古の後と同じ時間だった。

 宿舎では勇者というお墨付きでただで食事と睡眠が出来る様にしてくれたらしい。


「明日の朝、またこちらに伺いますので詳しい話はその時にさせていただきます。」


 マニさんはそう言って宿舎を後にした。

 あの王様は気に食わなかったが、マニさんを世話役にしてくれたのだけはありがたい。

 一つ不思議なのは稽古の後ボロボロだった筈なのに、体が何とも無い事だ。

 いつもの感覚だと暫く痛みとかは引かないのに。召喚の影響だろうか?

 夕飯もどんなものが出るか多少の不安はあったが、現実で食べる料理と変わらない見た目で味も凄く美味しかった。


 今日一日は色々あったしすぐ眠りにつけそうなのでそのまま部屋のベットに飛び込む。

 起きたら現実に戻るのではと考えが浮かんだが、気付いたらそのまま眠ってしまっていた。

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異世界と言えばやっぱり剣と思っていたら魔法の世界⁉︎〜それでも剣を使っていたら意外と強かった〜 シマシマシ @shimashimashi

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