異世界と言えばやっぱり剣と思っていたら魔法の世界⁉︎〜それでも剣を使っていたら意外と敵無しになりました〜

シマシマシ

第1話 神門家

 何でこんな事になってしまったんだ。

 今、俺はローブとフードで顔の見えない奴らに囲まれている。

 しかも魔法を溜めていつでも発動しそうな雰囲気だ。


「こやつを永久追放にしろ!」


 目の前の玉座に座っている王と呼ばれているジジイが怒鳴り声を上げる。

 出来る事なら腰に下げている木刀で殴りかかりたいが、その瞬間に魔法で攻撃されやられるのが予想出来る。

 本当になんでこうなってしまったんだ。


〜10日前〜

「今、何て言った?」

 俺、神門(みかど)ツルギは今、職員室にいる。

 目の前にいるのはこの学校の剣道部顧問を務める柏木先生。

 俺はさっき言った言葉をもう一度言う。


「だから、剣道部に入る気は一切ありません」

 唖然とした表情を浮かべながら固まる先生。

 まぁ、神門家の子供が入部しないなんて有り得ない事だろうけど。


「じゃあ、放課後なので帰ります」


 何か言われる前に足早に職員室を出る。


 校門には俺の唯一の親友、近藤翔太が待っている。


「ツルギ、本当に断ってきたのか?」


 ん、疑っているのか?


「入学前から翔太にはずっと言っていただろ。

 高校入ったら剣道はやめるって」

 

 この言葉通り、この事は翔太にしか話してない。


「親父さん、大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃなくてもやらないよ。神門の名前で剣道やるのはうんざりだ」


 そう。小学校までは気にしなかったが、神門家は祖父の代から剣道で名を馳せた家だった為、両親、兄とまさしく剣道一門である。

 実績を残してきた神門家は今や人間国宝に

選ばれるのではないかと噂されるほど大事な

時期。

 しかし、俺はもうやらない。

 嫌いになったわけではないがやらないに足る理由はたくさんある。

 特に名前で苦労した思い出は多い。

 強くて当たり前。

 成績が悪いのは有り得ない。

 そんな勝って当たり前の状態でやっていると全国で優勝して喜ぶのは大人だけで同世代からは妬まれるだけ。

 高校だって剣道部があり、そこそこ強い所以外は駄目という謎の縛り。

 これだけでもやる気をなくす。

 だからこそインターハイに出場出来ていなくても県ベスト8の高校を選んだ。

 インターハイ出場校だと入るまでの勧誘が凄いと聞いていたからだ。


「ツルギの嘘がバレたら親父さん容赦しないだろうな。」


 うっ。それを言われるとしんどい。


「まぁ、あの高校を選ぶにはああ言うしか無かったし。」


 そう。少しでも中学から離れる為、この高校を見つけ必死で考えた手は俺が全国優勝校にするという大嘘宣言。

 そうでも言わなければ父さんが納得する訳がない。


「まぁ、明日も無事に登校出来る様、祈っとくよ。」

 

 家の事について色々知ってる翔太だからこの後の展開を予想出来ているのだろう。

 サンキューっと言って別れる。


 家に着くまでの30分弱。バスの中や徒歩で考えたが果たして俺はそんなに悪いのだろうか。

 嘘はよくないが、これだけの条件を出されたらこれぐらいしょうがないだろうと安易に考えながら家路につく。

 改めて見渡すと家の隣に専用の道場があるというのは凄いなと思う。


「坊っちゃん、待ってましたよ!」


 慌てた声が聞こえ嫌な予感がする。

 息を切らしながらこちらに駆け寄ってくるのは蔵さんこと蔵馬さん。

 神門家に入門して20年経つ27歳。

 兄貴とは別の代で全国優勝を果たし神門家の実績を上げ続けた人だ。

 父さんに心酔しているらしくその子供である俺ら兄弟も大事に扱ってくれるとてもいい人。


「蔵さん、いい加減坊っちゃんはやめてよ。」

「学校から連絡があって、剣道部に入らないと言ったとか。」


 やっぱり連絡は来ていたか。


「師範も大分驚かれていますし、何かの冗談ですよね?」

「いや、本気で言ったんだけど…」

「何故ですか⁉︎全国優勝するとあんなに勇ましくおっしゃっていたのに。まさか怪我しているとか?」


 切羽詰まる様な表情で話してる蔵さんを見ていると胸が痛むが、もう1ヶ月も前から決めていた事だ。

 これで揺らぐ訳にはいかない。


「とりあえず家に入ってもいいかな?玄関でずっと話す事でもないし。」


 申し訳ございません。と慌てながら横に避ける蔵さんを見て再度胸が痛む。

 中に入って少し進むと居間に兄貴がいる。

 いつもは大学にいる時間に帰ってきてるのは珍しいがまぁ今回の件についてだろうな。


「ツルギ。父さんが道場で待ってる。準備してこい。」

 はぁー、とため息を吐きながら分かったと返事をする。

 これは相当怒ってるかな。

 道着と袴を着て、5歳の頃もらった愛用の木刀を持って家の隣にある道場に入る。

 いつもは門下生10人いる道場に父さん、母さん、兄貴、蔵さんの4人しかいない為、凄く空気が重い。

 正面に座っている父さんが話し出す。

「何故、剣道部に入部しない等と言ったのだ?」

 やばい、めっちゃ怒ってる。

 でも言うしかない。


「周りに気を遣いながら剣道やるのが嫌になったから。」

「高校を選んだ理由で言っていたあの言葉は?」

「ああでも言わなきゃ近くの全国常連校を選ぶ事になるから。」

「剣道をやめたいのか?」

「いや、やめるつもりはないから練習は家の道場でするつもりだけど。」


 いつも寡黙な父さんがこれだけ聞いてくるのは、やはり相当怒っているのだろう。

 座っていた父さんが徐に立ち上がった。


「正直お前が何を考えて行動してるのか分からないが、嘘をついた事実だけは見逃す訳にはいかない。構えろ。」


 あー。こうなったらもう何を言っても聞いてくれないから意味がない。

 いまからやろうとしているのは神門家の人間と歴が長い蔵さんぐらいしか行わない特殊な稽古。

 理由は防具を付けず木刀でというのは見た目が悪いからである。

 まともに面を喰らったら死ぬ可能性あるし、当たっただけで骨が折れる可能性がある。

 基本は寸止めだがそんなに上手くいかない。

 隠れて兄貴とやって大怪我した事もある。

 何故そんな事をやるのかといえば父さんだから出来るというだけ。

 この人がやれば相手の動きを予測して寸止めで振るのも訳ないし、こちらの打突は打つ前に全部弾かれる。

 これをやる事で打たれない様にする感覚と危機感を身に付けるのを目的としてるらしいけど、やられる方はたまったものじゃない。

 弾かれる度に腕への衝撃は凄いし止まった後の木刀に当たる事もある。

 当然痛い。

 いつもなら10分程度だかこの日は相当怒っていたのか、約1時間にも及んだ。

 当然ボロボロで動けない為、壁によりかかるしかない。

 父さんと母さんは無言で出ていったが兄貴が近付いてきた。

「高校からは部活以外で大会に出るのは難しくなる。その分、実戦から離れる。そういう事をもっと深く考えろ。」


 と言われ蔵さんからも


「師範も奥様もツルギ坊っちゃんが帰ってくるまでずっと心配していました。どうか分かってあげて下さい。」


 と言われたが答える元気もない。

 2人も出て行き誰もいない道場で考える。

 言われている事も少しは分かっているつもりだが俺がどんな思いをしていたかも分かっているのだろうか?

 俺だって神門の名前が無ければとか、ただ楽しく剣道をやりたいだけとか色々考えてるうちに疲労が襲ってきた。

 部屋に戻るのも無理そうなのでそのまま眠る。

 目を覚ました後の展開があんな事になるとは思わずに…。

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