最終話「僕の姉ちゃんの前世はあの有名陰陽師だったらしい。」

藤原ふじわらの道長みちながだって!?」

 僕は拳を握り、緊張が走る。

 晴明はひいきにされていたが、僕は昔からこいつには、ろくな目にあっていない。

 とその時、姉ちゃんの手にピコハンが出現し、道長の頭を殴った。

「そんなワケがあるか!お前は、道長様ではない。あの人とは気配と魂がまるで違うわ!」



 姉ちゃんは、ふんと鼻を鳴らし、道長の姿をした何者かを睨んだ。

『クク、腐っても、安倍晴明と言う訳か。道長の犬め。例え、めのわらわに成り果ててもな』

「なんだと? 愚弄ぐろうするなッ!」

 姉ちゃんは目を吊り上げて、怒りを表し語気鋭く叫ぶ。

「母さんのみでは飽き足らず、道長公の御姿をも、汚しおって姿を現せ!薄汚れた愚か者め…!」



『ククク…バレているなら、姿を見せよう』

 道長の周りに黒雲が立ち込める、やがて雲が晴れるとそこには、一匹の狐の妖怪が姿を現していた。

 三角耳でふさふさの尻尾を持つ、仔狐こぎつね

 その姿は、麗良が安倍晴明だった時に出会っていた化け狐だった。


「お前は、狐妖怪の太郎たろう!」

「くっくっく、安倍晴明。ここで遭ったが千年目!この恨み晴らさでおくべきか~」

 突如、ピコハンが出現し、狐妖怪の頭に問答無用のピコピコハンマーが、勢いよく炸裂する。

「コーン!!?」

「痛ッ!なにすんだ!せいめぇ~」

 夜太郎は涙目で、頭をさすりながら姉ちゃんをみやる。



「母さんに手を出した報いだ!ばかものッ!して、なにが原因でこんなことをした」

「……せいめーがオイラの大事な干し柿全部、食ったから」

 夜太郎は、ぼそっとつぶやく。

「大昔ではないか」

 姉ちゃんが盛大に呆れたように溜め息を吐く。



「ぶふっ…!食い意地張ってんな!晴明」

 僕は思わず、噴き出した。

「馬鹿道満、うるさいっ」

 僕はすかさず、姉ちゃんのピコハンで頭を叩かれた。


「夜太郎、本当はそれだけじゃないんだろ?」

 僕は、夜太郎の頭を撫でながら問い掛けてみる。

「せいめーが、オイラを置いて死んじゃったから、悲しくて寂しかったの……」

 夜太郎は、ぽろぽろと大粒の涙を流してうつむいている。


「そうか、初めから、こんなことをせずともそう言えば、良かったものを」

「母さんを元に戻してくれる?それと、怪異達を何とか出来るか?」

 姉ちゃんと僕が温かな眼差しで夜太郎をみる。


「せいめー達の母さんを利用して、ごめんなさい。もう、オイラが体の中から出たから大丈夫だよ」

「それと、怪異達はオイラも原因が分からないんだ。気が付いたら、こうなってて。オイラ程度の妖怪じゃ、怪異を増やすなんてこと出来ないから……」

 夜太郎は落ち込んで、耳と尻尾をふにゃ~とさせながら、姉ちゃんと僕を見つめた。


「あんなに濃い邪気は…どうして、漂っていたんだろう?もう、消えてるけど…こんなにピュアな妖怪なのに」

「ごめんね。それは、オイラもわからないんだ」


「そっか…じゃ、原因を突き止めなきゃな」

 僕と姉ちゃんは顔を見合わす。

「ねえ、せいめー……もう、悪い事しないから、晴明の元にいていい?オイラもう、せいめーと別れるの嫌だ……」


 姉ちゃんは、夜太郎と同じ目線になる為にカーペットの上に座りこんだ

「――夜太郎、私達、人間はお前達、妖怪と違って遅かれ、早かれ死ぬんだよ。それでも良いなら、共に住むか?」

 姉ちゃんは、目を優しく細めて夜太郎に微笑む。

「ありがと、せいめー…でも、オイラ。難しいことは分かんないよ。せいめーといっぱい、一緒にいたい。お願い、せいめー死なないで!」



 姉ちゃんは、困ったように苦笑すると夜太郎をその胸に優しく抱きしめて背中をぽんぽんと叩いた。

 僕は思わず、じ~んと涙で目を潤ませて二人を見守る。

 僕の目には、一瞬だけど麗良の姿が千年前の安倍晴明の姿に映った。

 晴明と夜太郎は、今でも友達なんだな。



 ❖



 次の日、元に戻った母さんは、仕事部屋で相変わらずの缶詰め状態で。

 すっかり元気になって、六歳位の可愛い人間の男の子に化けている夜太郎と、僕は姉ちゃんにこき使われていた……

 あの昨日のしおらしい姿はなんだったんだ、コノヤロー!


 僕がそう思っていると、姉ちゃんが手招きして僕を呼びつけた。

「なんだよっ、僕は昼飯作んなきゃならないんだよ!」

 ふてくされて、姉ちゃんの座っているソファーに近寄ると姉ちゃんは、いきなり、僕の腕を引っ張り、唇にキスをして来た。


「なななっっ!!?何すんッ」

 顔を真っ赤にして、麗良をみる。

 麗良は、にやりと不敵な笑みを浮かべるとこう言った。



「この前のお返しだ、私は誰にも負けることはない。昔も今も、最強の陰陽師なのだからな!」

「ぎゃーっ!オイラのせいめーが、バカどうまんに~!!!」

「うわーっ!痛てえええっっ!!!」

 大泣きする、怒り心頭の夜太郎にガブリと腕を噛みつかれる僕。本当に災難だ。



 僕と麗良の恋路は、前途多難、かもしれない。

 それでも、今に僕はお前の唇を奪ってやるからなッ!

 そして、この想いを遂げてやる~!!!

 僕は、夜太郎と喧嘩けんかをしながらそう、固く誓うのだった。



 -終わり-


 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 完結しました!最後までお読み頂きありがとうございました。

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僕の姉ちゃんの前世はあの有名陰陽師だったらしい。 夢月みつき @ca8000k

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