第4話「異変」

 帰宅して、家のドアを開け、玄関に入った僕と麗良れいらだったが。

 麗良が逸早く感じ取り、僕もそれを感じ取った。

 そして、家の中の様子がおかしいことに気がつく。

 何と、高濃度の邪気が漂っていたんだ。



 これはいくら、霊感が無くても、霊障を引き起こしてしまう。

「何だ?この邪気は…?」

「家の中に充満している…母さんが危ない!」

 いつも、冷静な麗良が血相を変えて母さんの寝室に急ぐ。

 母さん無事でいてくれ!祈りながら、僕も姉ちゃんの後を追いかけた。



 ❖



「ママッ!」

 姉ちゃんが勢いよく寝室のドアを開ける。

 すると、窓が開いていてレースのカーテンがはためいていた。

『二人とも、こんな夜中に何をやってるの?』

 そして、母さんが正座で座っていた……


 と思ったのも、束の間、母さんは姉ちゃんの背後を素早く取り、首を羽交い絞めにした。

「かっ、母さん?嘘だろ、人間の動きじゃねえ」

「ママ……くっ、母さんの中に何者かがいる!」


『悲しいわ、いい子だと思ってたのに。この不良娘!よくも、母さんを騙してたわね。このまま、絞め殺してやる!』

 母さんは、姉ちゃんの首に手を掛けて締め付けて来た。


 僕は母さんの腕を力一杯引っ張り、必死にやめさせようとする。

 しかし、母さんは、離さない。否、力が尋常ではなく敵わない!

 姉ちゃんが危ない!母さん相手に呪術を使わなければならないのか?


「ぐっ……かあさっ!」

 思わず、姉ちゃんは振り払い、呪術で投げ飛ばした。

「母さん!」

 僕があたふたしていると、姉ちゃんがすかさず、母さんの体を浮かせて、着地させる。


「母さん!」

「貴様は誰だ!なぜ、母さんに取り憑いた!?」

 僕と姉ちゃんが母さんらしき者に問う。

『ククク…久しいの。安倍晴明あべのせいめい蘆屋道満あしやどうまん


 母さんの体内からでろりと、何者かの霊体が這い出て来た。

 烏帽子と黒の狩衣、恰幅の良い体つき、あごひげを蓄えた中年男性。

「貴方は、藤原道長ふじわらのみちなが公!」

 その姿は、紛れもなく千年前の安倍晴明の主、若い頃の藤原道長だった。

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