第12話 探索者ショップ

 武器屋は駅前の大型の家電量販店の最上階にある。ワンフロアが全部ダンジョン関連の店で、武器だけじゃなく、防具やキャンプ道具の様なダンジョン内で使用する様々なアイテムなどが販売されている。


 スマホなどの売り場の奥にエレベーターが並ぶ場所があり、その端にあるエレベーターがダンジョンショップ専用のエレベーターになっている。


 店は流石に武器を扱うだけあり、セキュリティーは厳重だ。非常時以外は階段は閉鎖されており、武器を買うフロアへはエレベーターでしか行けないというのも警備上の問題なのかもしれない。

 エレベーターを降りると、店内に入るのにゲートを通過する必要もあり、盗難や犯罪を更に予防する。


 そして入口には体のでかいガードマンまで立つ。


 俺は少し初めての雰囲気に飲まれながらも瑠華の後ろをついていく。



 武器は店内の最奥にある。ゲートを潜ると、ダンジョン用のキャンプ用品のようなものが売っているコーナーがあり、その奥にはカメラなどの機材などを置いたブースなどもある。

 ダンジョンでの配信に関しては無資格者の入れるような極低級ダンジョンでは制限されていないものの、それ以外では基本的には認められていない。

 ただ、データとして新しいルートや、モンスターのデータなどを協会が高値で買取するため、映像を残す探索者も多い。


 武器コーナーに入る前にもう一度ゲートを通過する。


「そう言えば志摩君はなんで武器がほしいの?」

「え? いや、なんていうか護身用だな」

「護身? うーん。確かにたまにモンスターがゲートから出ることもあるのかな……」

「え? そんな事あるの?」

「そうよ……。って。なんか違うみたいね。まあ、男の子は武器とか好きだものね」


 マジか。モンスターがゲートから出ることなんてあるのか? ちょっと考えたこと無いが、まあダンジョン周りにダンジョン産の雑草が生える事を考えれば、まあ無いわけじゃなさそうだな。


 ってイキナリ護身用じゃない感じがバレたが、瑠華は「男の子の趣味」として捉えてくれたようだ。変なことを疑われること無くナイフコーナーへと足を運ぶ。


「でも私はあまり詳しくないよ?」

「え? でも探索者だろ?」

「ヒーラーなの。だから戦闘力はそんなに高くないから」

「あ、後衛ってやつね」

「と言っても。ダンジョンに入れば戦わないといけないけどね」

「ヒーラーって事は魔法職だろ? 攻撃の魔法は使えねえの?」

「一つ使えるけどね、でも魔力には限界があるから」

「ああ、回復用にとっとかないと駄目なのか」

「そゆこと」


 瑠華は魔法効果を上げる為に杖を使っている。それは鈍器としても使えるようなタイプの杖らしい。ナイフも仲間に勧められて一つは持っていると言うが、女子ということもあるのか、どの武器工房が良いのかとか、どの作者が良いのかなど、男子探索者が楽しそうに話しているのにも興味が無いようだ。


 とまあ、結局そんなに金を持っているわけじゃないからな。銘入りの武器なんて買えるわけもなく、選べる範囲は少ないんだな。


 ナイフなら班長なども普通に業務で使っているし、持っていても問題ないとは思うがああいう折りたたみナイフってどうなんだろう。なんとなく魔物を攻撃したらすぐに壊れてしまいそうな気がしてしまう。


 陳列しているのを見ると、折りたたまないサバイバルナイフっぽいのが良い気がする。


「かっけーな」

「やっぱ志摩君もこういうの好きなんだ」

「好きっていうか。ほらキレイじゃねえか」

「うーん……。そう、かな?」


 やっぱり瑠華はあまり興味が無いようだ。ここのナイフはダンジョン産の素材を使っているだけあり、刃渡りが長くなるほど当然材料費も増える。買えそうな長さのナイフだと折りたたみが多い。


「うーん。こんなちっこいナイフで戦う探索者なんているのか?」

「スピード優先の人で、ナイフ使う人は居るけど、それでももう少し長いかな」

「だよなあ……」


 しかしまあ、背に腹は変えられないし、あまり大きいナイフを隠し持つなんて無理だしな。俺は展示してあるナイフから、女性が太ももに隠し持ったりしているような小さなポケットナイフに目星をつけた。


 そのまま俺達は店内をぐるっと回っていく。盾や剣などワクワクする武器が並んでいるが、そのどれもが可愛くない値段が付けられている。探索者は儲かるっていうが、確かに儲からなければこんなのを買って使うなんて無理だ。


 やっぱ適当なタイミングで召喚されるのってキツイな。


「瑠華ちゃんが使ってるのってどれ?」


 魔法の杖などが置いてあるコーナーで尋ねる。


「うーん。買ってから一年経ってるから同じ型は無いっぽいんだけど、このシリーズかな」

「あー。確かに鈍器だわ」

「鈍器って言われるとなんか野蛮な感じがして嫌ね……」


 瑠華の指し示したのは八角のシンプルな棒だ。ダンジョン内にある黒檀のような堅い樹を使っているらしく、やはりべらぼうな値段が付いている。


「ああ、これって使っている宝珠で値段が変わるのよ。私のは一番安いやつだからそこまでしないよ」

「宝珠?」

「うん。魔法の効果を強くしてくれるの。攻撃魔法の子たちはそっち優先で、杖の材質より宝珠の良いものを選んでるのよ」

「なるほどね……。ん?」


 杖に併設されていた鈍器のコーナーに目をやると、少し気になる物を見つける。おれが近寄ってそれを確認しようとした時、店員の一人が声をかけてきた。


「なにかお探しですか?」

「え? いや。これってもしかして特殊警棒っすか?」

「そうですね。よくある一般の警棒と同じで本体は金属ですけど、先端に魔物の素材が使ってい有るんですよ、小さ目な分軽くて扱いやすいですよ」

「へえ。でも警棒って軽いと衝撃減りません?」

「その分スゥイングスピードが上がるから、とは言われていますが、先端の魔物の素材に特殊効果が付いているので、スピードの方が大事なんです」

「おお。特殊効果……。でもお高いんでしょ?」


 当然魔法の効果など付与すれば高いに決まっている。だが、店員はニコリと笑うと首をふる。


「いえ、これは先端に帯電蟲の外殻を使ってるだけなので、そんなでもないんですよ。他の魔法の効果を付与した物は確かにお高くはなりますが……」

「帯電蟲?」

「言ってみれば、羽を高速で羽ばたかせて帯電する性質を持つモンスターなんです。ここらへんのダンジョンには居ませんが、割と低層のモンスターで、数も出るのでお安くなっているんです」


 ようは、帯電しやすい外殻を先端につけることで、警棒を振る時の動きで先端部が帯電して、そのままモンスターに打撃とともに電撃を与えるというものらしい。

 といっても、雷の魔法などとは違うため相手を牽制する程度の効果になるらしいが、振るスピードが上がれば上がるほど帯電量が増えるというのも面白い。無資格者の一般人ではそこまでの効果は出せなそうだが……。俺なら行けるかも。と考える。

 

 サイズが大と小の二つがあるのだが、それだけでも値段が違う。ナイフと悩むが、戦闘を考えるとこっちの方が良いかもしれない。レベルアップで腕力も増えてるから鈍器でも戦えるんじゃねえかな、と。


 確か学割は四割引になる。それで計算すれば……。小さい方ならなんとか足りる。俺の生活も寮の食堂で喰えば食費も何とかなるしな。


「瑠華ちゃん。これが良いと思うな」

「え?」

「まあ瑠華ちゃんのサイズだと大は厳しいかな? 小の方はどう?」

「えっと。だって私は――」

「ほら! 学割で買えちゃうんだからこっちにしなよ」

「あっ。そ、そうね」


 ふう。店員が見ている前だからあくまでも瑠華が使う前提じゃないと不味い気がするじゃん? 瑠華の方は俺の意図に気づくのに少し時間がかかったが、慌てて話を合わせてくれる。


「あ、そちらの方が?」

「お、おう。魔力切れした時の自衛の手段を持っておいたほうが良いかなってね」

「なるほど。確かにこの警棒なら身を守るのにも最適ですね」

「うんうん。時間さえ作って貰えれば後は俺達が、な」

「それがパーティーですものね」

「……」


 俺がいけしゃあしゃあと話しながらチラッと瑠華の方を見れば、ジト目で俺のことを見つめていた。ゆるせ。瑠華。


 おかげで俺は無事に武器を買うことが出来た。

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奴らは異世界を知らない。 逆霧@ファンタジア文庫よりデビュー @caries9184

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