第11話 そうだ。武器を買おう
再び自室に戻った俺は、ベッドの上で悩み悩んでいた。
どうやら、召喚はスーが俺を必要としているときだけの召喚らしい。なんとも微妙な感じだ。俺が行きたいときに行けるようなシステムが良いのに。
しかもだ、よく考えれば俺の召喚理由は戦闘だよな? 冒険のたびに出たらまたああいった魔物と戦わなくちゃいけねえのか。
……いつでも草刈り機を持ってるわけじゃねえしな。きっと、あの時はたまたまダンジョン産の刃だったからこそ、あの魔物を斬れたのだと思う。それは俺でもわかる。
てことは、さっきのシャワー中もそうだが、何も持っていないときに呼び出されて……。大丈夫なのか?
やべえ……。結構無理だ。
少なくともちょっとした武器は携帯しねえとヤバい。
……なんか買うか。
現在は、ダンジョン産の素材を使った武器や防具は色々と作られている。だが昔から存在する銃刀法も無くなった訳じゃない。多少は現代に合わせて修正されているが。
要は、ダンジョン探索をする有資格者は割と武器を買いやすいが、俺のような無資格者が武器を手にするのはなかなかにハードルが高いのだ。
国民の平等ということで、無資格者だから買えないというわけじゃないのだが、ダンジョン産の武器などは一般の人が軽く買えるような値段じゃないんだ。
有資格者が購入する場合は、ダンジョン探索が国益に反映するということで、国の補助が発生するのだ。さらに高専の学生の場合は特別学割まで利く。
大人の探索者でさえ、自分の子供が高専に入ればその学割を使ってさらに安く購入するというのが一般的らしい。というか、そのくらいの値引きがあるんだとか。
誰か俺の知り合いで有資格者は……。瑠華しか思いつかないな。
早速スマホを取り出し、LINKアプリを開く。瑠華のアカウントは先日教えてもらってる。
<瑠華ちゃん、今日暇?>
<え? 何?>
<いやね、ちょっと買いたい物があってさ、もし暇だったら付き合ってもらおうかなって思ってさ>
……ん? 既読になったが返事がねえな。今日は用事でもあるのかな?
ちょっとイキナリじゃ厳しかったかと諦めようとした時、再び瑠華から返事が来る。
<良いよ! 今から? どこで?>
おお、ちょっと食い気味だ。まったく。暇だったんじゃねえか。
俺はスマホでダンジョン用の武器などを取り扱う量販店のある駅を指定する。瑠華は家からこの学校に通っているから多分、ここからだと丁度真ん中あたりで具合は良いだろう。
寮から駅までは歩いて五分ほど、そして、目指す駅は電車で十五分程。電車の待ち時間などはあるが割とすぐに着く。
俺はすぐに着かえて寮を飛び出した。
……。
待ち合わせ場所につくが、どうやらまだ瑠香は来ていないようだ。確か、こういう時は女性は出かける準備に時間がかかると言うしな。急いで出てきすぎたか。
駅前の広場の端でガードに座りスマホを眺める。やっぱりナイフだよな。でもそんなの隠し持ってたらやべえかな? 銃刀法で捕まる?
直前になって少し不安になる。だが、なんの武器も持たずに異世界に放り込まれる方がもっと怖い。
悩んでると、タッタッと足音がこちらに向かってきた。顔を上げると少し顔を紅潮させた瑠華がこっちに向かって来るのがみえた。
私服か、同級生の私服なんてあまり見る機会は無いからな、ちょっと新鮮だ。
「ごめん、お待たせっ!」
「おう、こっちこそごめんな、急に呼び出しちゃってよ」
「ううん。良いの、丁度お昼を食べる前だったから丁度良かった」
「お昼?」
瑠香は満面の笑みで俺を見つめている。
あ。お昼か……。
そうだな。休みの日に突然呼び出されたんだ。それくらい奢れって事か。確かに自分のことしか考えてなかった。ふうむ……ナイフの値段は分からないが、学割で安く買えるのなら致し方ないのか。
「そうだな。良いぜ。ただ、あまり高級なのは勘弁してな?」
「え?」
「ハラ減ってるんだろ? うーん。あまり詳しくないんだよな……」
俺は駅前広場から周りの雑居ビルを見回していく。こうしてみていると色々な店があるもんだ。女の子はイタリアンに連れていけばたいてい喜びそうな気がするんだが……。
「シャインゼリアとかは?」
「イタリアンかぁ」
丁度看板が見えたお店の名前を口にする。だがあの店は何処にでもあるしな、奢るにしては安すぎるか。ちょっと安易すぎたかとすぐにフォローを入れる。
「あ、俺はなんでも良いぜ。和洋中。瑠華ちゃんは何が好き?」
「うーん。私もなんでも好きだけど……。あ。網戸屋は?」
瑠華は『網戸屋』というお店の方を指差す。そこも割と何処にでもある和食のファミリーレストランだ。入ったことは無いが話を聞いたことはある。あそこなら多分問題ないだろう。
それ以上に本人の希望の店に連れて行くのが男気ってやつだ。
「おっけ。じゃあいくか」
店は少し混んでいて、何組かが先に順番待ちをしていた。俺達は空いていた待合のベンチに座り、順番を待ちながらメニューに目を通す。
うん。朝食は少し遅めだったが、もう俺の胃袋は準備万端だ。いける。
メニューに乗ってる料理が全てうまそうに見える。それでも俺がチョイスするのは肉だ。そして米。今日は麺類の気分じゃないな。朝カップ麺食ったし。
「瑠華ちゃんは何にする?」
「どうしようかな。みんな美味しそうだよね!」
「おう。間違いない」
それにしても、瑠華は良い子だな、こんな突然呼び出されたのにニコニコして。嬉しそうにメニューを覗き込んでいる。そんな姿を微笑ましく見つめていると、俺の視線に気がついた瑠華がちょっと恥ずかしそうな顔をする。
「な、なに?」
「え? なんか嬉しそうにメニュー見ててさ」
「ちょっ。やめてよ。恥ずかしいじゃん」
「全然恥ずかしくねえよ。良いことだぜ、食べるって幸せだからさ」
「そんなの大げさだよ」
……。
そんなこんなで、ようやく席に案内される。
結局俺は煮カツ定食を頼み、瑠華はさば味噌煮定食を頼む。うまい飯を食いながら俺達はいい雰囲気で話していた……はずなのだが。
「ふぅん……。そう。学割使えば良いんだ」
「お、おう……。あれ? なんか、怒ってる?」
「怒ってないわよッ!」
「いや、だけどさあ……」
「はい? 何?」
「いや……。なんでも……」
瑠華の学割で安く武器を買おうと思っている旨を伝えると、妙に不機嫌になる。
いや、確かに。瑠華は真面目だからな。こういうインチキをするのに巻き込まれてちょっと嫌な思いをさせてしまったか。
食事も終わり、俺がお金を払おうとするがきっぱり断られてしまう。
これは不味い。女心と秋のサンマだ。
「いや、マジでごめんって。ちゃんと説明しとけばよかったな」
「そう言う事なの?」
「だって、なあ。まあ、おっけ。武器屋は今日はいいや」
「でも行きたいんでしょ?」
「あ~。ま、急がなくても良いしな。明日も休みだから一人で行けるぜ」
「……なにそれ」
「え? ほら、タピオカ。タピオカ飲みに行こうぜ」
「良いよ、武器見たいんでしょ?」
「え? あ、まあ……そうだけど」
「ほら、こっち」
不機嫌ながらも瑠華はしょうがないといった感じで先を歩いていく。当然瑠華は何度かここに来た事もあるのだろう、迷わずに店にたどり着き入っていく。
俺は少し申し訳ない気分で瑠華の跡をついて店に入っていった。
※思った以上に読まれないw
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