第10話 二度目の召喚
私は杖を手に魔力を練り始める。
伝説の聖獣が現れるという緊張感だろう、後ろで見ている二人も少し緊張している雰囲気を漂わせている。私はそんな雰囲気をむしろ心地よく感じていた。
ふふふ。見ていないさいよ。これが私。これが天才召喚師スー・ラ・ゲ・ビョークの伝説の始まり。
「ピョン。ピョン……。コイコイコイ……」
詠唱を始めるとすぐに眼の前には金色の魔法陣が浮かび上がる。私はその中に意識を沈めていく。
「ピョン。ピョン。コイコイコイ……」
契約済みの聖獣の召喚は、今までの聖獣を探しているときとはだいぶ違う。探す手間もなく、契約した聖獣をただ呼び寄せるだけなので、ずっと簡単になる。昨日までの私とは違うんだ。
異界の扉を覗けば、私の体から一本の糸が違う世界へとつながっているのがわかる。よしよし。ちゃんと契約も問題ない。
「行くわよ!」
聖獣……。シマシュウタイセイとつながった糸を引っ張る。引っ張ると言っても物理的に引っ張るわけではない。糸を通してつながる二人の距離をグッと縮めるイメージだ。
と。
魔法陣が明るさを増し、その中央から一匹の……。
裸の男が現れた。
◇◇◇
「うぉおおおお。ちょっ。まっ」
昨日と全く同じだった。ただ、違うのは話しかけられることも無く、突然トンネルに放り込まれたのだ。
それでも二回目となれば、少しだけ気持ちは出来ていた。
すぐに、自分が召喚されたのだと理解し、受け入れることは出来た。ただ、受け入れたとしても暗いトンネルを流れるように移動していくのはまだ些かの不安は感じる。
そして……。
デュンデュンデュン。
そんな効果音が聞こえたか聞こえないかは知らないが、俺は再び魔法陣から現れる。
「……あれ?」
暗いトンネルから明るい所に出たため、周りの状況を把握するのに少し時間がかかったがどうやらここは屋内のようだ。
「これが……。セイテンタイセイ?」
周りを確認しようとすると、しゃがれた爺の声がする。
「ん? セイテンタイセイ?」
振り向けば、先日俺を召喚したうさ耳の女が平らな胸を張ってドヤ顔をしている。そしてそのスーの隣で同じ様なうさ耳を付けた爺が、あっけにとられて俺を見ていた。
「長老。どうかしら! これがシマ……。えっと。シマシュウタイセイよ!」
「誰が新加勢大周じゃ!」
「……へ?」
まったく、この女は人の名前もちゃんと覚えねえ。こんなのに召喚されたと思うと恥ずかしくなるぜ。
「もし……。セイテンタイセイ様では?」
再び爺が聞いてくる。俺は胸を張って名前を名乗る。
「違うな。俺は志摩周作だ。課長でも無ければ、部長でも無いぞ」
「むむむ。どういう事じゃ?」
「どういう事って、俺じゃまずいのか?」
「しかもこんなはっきりと言葉を喋っとる。本当に聖獣か?」
「何言っているのよ、聖獣よ、ちゃんと聖獣よ!」
爺の言葉にスーが焦ったように言う。何か揉め事なのだろうか、俺は全く話についていけない。
「しかし……。そんな裸で……」
「裸?」
げ。そうだった。今の俺は裸だ。さっきまで俺はシャワーを浴びていたんだ。
召喚された時の精神的揺さぶりで自分の状態など全く気にしている余裕が無かった。しかも眼の前には二人の女性。俺は慌てて前を隠す。
「ちょっ。た、タイミング悪りーよ!」
しかし俺の慌てようなどコイツラはガン無視だ。
「この聖獣……。本当に猿なのかしら?」
スーの隣りにいた、うさ耳のおばちゃんが俺のことをじっと覗き込みながら不思議そうに聞く。
「え。だってお母さん、猿でしょ? ゴリラかもしれないけど」
「誰がゴリラだ。ほんとお前は失礼だな」
「それにしても、耳が無いわね。あ、横におまけみたいな小さい耳があるわ」
「おまけ、って言うなよ」
このうさ耳のおばちゃんも大概だな。どうやらスーの母親のようだ。スーもスーなら、母親も母親だ。
「それに尻尾だって無いじゃない。……あ、でも、前の方に小さい尻尾が……」
「グハッ! ていうか、いきなり下ネタやめい!」
コイツら最低だ。
ていうかなぜ裸で呼ばれた。俺。これじゃ完全に見世物じゃねえか。なんか知らねえが、むちゃくちゃムカつくぞ?
「おい、スー。なんだよ。これはっ」
「私が聖獣と契約したのを認証してもらう為に召喚したのよ」
「認証? なんだってそんな」
「聖獣を召喚出来ないと、冒険者として外へ出ることが許されないのよ」
「なっ。冒険者。だと?」
まさか、異世界ファンタジーのド定番職業のあれか? 俺は突然の言葉に心をときめかす。
「そう、成人になれば召喚できなくても自分の意思で冒険者に登録できるのだけどね。私はそんな待てないの。もう明日にでも外へ飛び出たいのっ」
「えっと……。それで戦うための召喚獣が俺ってわけ?」
「そうよ。貴方には期待してるわよ、シマシュウタイセイ」
「だからフルネーム止めろ! ていうか、名前違うし! 周作だ。周作だけでいい!」
くっそ、ムカつく女だが、冒険は心が揺さぶられる。
しょうがない。俺はこの世界で冒険者として生きていくってわけだな。
「長老、どう? これで認証は貰えるかしら」
「あ、ああ……。しかし、セイテンタイセイでは無かったのか?」
「どうなのかしら、それって昔の伝説なんでしょ?」
「そうじゃな、もう神話のような時代の話じゃが……」
「だったら、そっちが間違って湾曲して伝わったのよ。本当は、シマシュウサクだったのよ」
「な、なるほど……?」
いやいやいやいや、ねえよ。
セイテンタイセイって、斉天大聖か? それって孫悟空だろ? ま、カリスマ具合は似たようなものだけどさ。それはさておき、話的には冒険に出かけるために俺の力が必要ってわけだ。
むしろ俺が居ないと冒険に出れないまである。
ふっ。
「ま、俺としてはどっちでも良い。……お前は俺の力を必要としているのだな」
「あんた、たまに偉そうになるわね」
「うむ、力を貸してやっても良いぞ」
「良いぞって、もう契約しちゃってるじゃないの」
「クーリングオフは利かないの?」
「はい?」
「……ふう、ウサギのお供をして西方へ旅か。あんまりビシッと決まらねえが――」
「……まあいいわ。じゃ、そういうことで」
「え?」
以前と同じ様に何か仕草をする。きっと召喚の魔法を終わらせるようなものなのだろ。俺は元きた道をたどり、シャワー室に戻っていく。
……って。
「自己中かよッ!」
シャワー室に俺の叫びが響き渡った。
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