僕の幼馴染は可愛い。でも時々、いや頻繁にちょっと怖い。
花野井あす
僕の幼馴染は可愛い。でも時々、いや頻繁にちょっと怖い
僕にはふたりの幼馴染がいる。
ふたりとも可愛い、自慢の女のコたちだ。ご近所でも評判で、ふたりを知らない人はいないと思う。
先ずはマイちゃん。
僕が幼稚園児の頃からお隣同士で、同い年の女のコ。姉弟のように育った。どうしてマイちゃんがお姉さんかって?マイちゃんの方が強いからだ。
マイちゃんには特殊能力がある。
大好きな人の脳をギュッと抱き締めて、動けなくさせるというものだ。そしてマイちゃんはどうやら僕のことが大好きらしくて、かれこれもう二十年以上僕がナマイキを言えばギュッて抱きしめてくる。
つまりは成人してもなお付き合いは続いていて、母さんなんて「将来のお嫁さんね!大事にしなさいよ!」なんて言う。冗談は止してくれ。あんまり長いと吐き気もするし、寒気もするんだ。
夏場にお腹壊したときにギュッてされるともう地獄だよ。イキるとズキズキドクドク。暑さで目眩もしてさ。
とにかく、それがマイちゃんだ。僕の幼馴染にして姉弟、そして将来の嫁候補(最有力)。黙っていればキュルッと可愛い小悪魔系女子だ。……もしかしたらヤンデレかも。
そしてはじめに言った通り、僕にはもうひとり幼馴染がいる。イブちゃんだ。
彼女は僕が小学三年生のとき、お向かいに引っ越してきたお姉さんで、二歳年上の清楚系美人だ。――そして彼女、イブちゃんにも特殊能力がある。
一言で言えば、鎮痛能力である。
具体的に言えば、プロスタグランジンの生成を抑えることができるのだ。血管の拡張を抑えることもできる。そしてその対象は複数人に及ぶ。
出会いは小学校の廊下だった。
いつも通り、僕はマイちゃんとちょっとしたことで口喧嘩をしてしまい、脳をギュッとされてしまった。そんな現場でばったり。あ、ヤバいと思った。脳をギュッてされてるときの僕ってぶっさいくなお顔してるからさ。可愛い女のコにはあんまり見られたくなかったんだよね。
でもイブちゃんはそんな僕を冷やかすことなく、駆け寄ってくれた。そしてこう言った。
「ヒール!」
少し早い厨二病かな、て頭の隅で真面目に思った。清楚系美人じゃなくて、電波系だったって。でも違った。彼女の手のかざした場所からじわじわと、痛みが引いたんだ。
――救世主……いや、聖女様?それとも女神様?
これはマジで思った。なんて心優しく、そして素晴らしい能力なのだと。
――彼女がいれば百人力じゃないか!あの可愛いけど迷惑な幼馴染に見下されずにすむぞ!
でもそんなオイシイ話はない。あるはずがない。イブちゃんの能力は強力だけど、効果時間が何とも寂しかった。イブちゃんは体力がないのだ。数分後にはへたって逆に倒れてしまった。――なんてこった!
その日、僕はズキズキする頭を抱えながら、イブちゃんを保健室へ運んだ。
そしてその日から、僕の幼馴染は二人になった。驚いたことに、行く先々にふたりともいるのだ。もはや腐れ縁だ。
そしてその日から、マイちゃんとイブちゃんはたびたび喧嘩をした。たいてい僕のことで。
「このコはあたしのモノなんだから、絶対渡さないよ!」
「あなたは距離感がおかしいのです!もう少し、労ってあげてください!」
「これがあたしの愛情だもん!いーだ!」
そうしてまた脳をギュッとされる。そして一瞬だけそれが解消される。そんな繰り返し。僕もだんだん慣れてきて、「ああ、またか……」という感じ。
そうこうしているうちに僕は三十になる。そしてマイちゃんとイブちゃんの関係も良好に続いている。傍目にはすごい悪縁に見えるかもしれないし、たまに僕もそう思う。
でもやっぱり、幼馴染なんだ。
可愛いふたりを誇らしく思うこともあるし、自慢することもある。ずっとこんな関係――は続かなくてもいいけど、僕の幼馴染は可愛い。けど時々、いや頻繁にちょっと怖い。きっとこれから先もこうやってハチャメチャな関係は続くんだと思う。
マイちゃん、イブちゃん。
大好きだよ!
でもたまには……自分時間も作ってね!
※頭痛薬はたいてい、15歳未満は服薬できません。15歳未満のお子様用のものがあるはずですので、服薬する際にはお気をつけください。
了
僕の幼馴染は可愛い。でも時々、いや頻繁にちょっと怖い。 花野井あす @asu_hana
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