第5話取引
「ん? アンタ誰?」
シチローは、目の前に立つゲロまみれの見知らぬ外国人に問いかけた。
「ああっ! 新調したばかりのアルマーニのスーツがああ~!」
「なんでそんな所に人がいるのよ?」
自分達がC I Aに狙われているとも知らず、ジョンを見ても平然と対応するチャリパイの四人。
「ええい、うるさい! お前達、これが目に入らないか!」
ジョンは四人に銃を向け、窓から室内へと入って来た。
「ちょっと、靴脱いでよ! 絨毯が汚れるでしょ!」
「絨毯の心配してる場合かっ!」
シチローが子豚に突っ込んだ。
♢♢♢
「命が惜しかったら大人しくノートを差し出すんだ!」
「ノートって、あのノート?」
「そうだ、あのノートには我がアメリカ合衆国政府の重大なる秘密が書かれている……そこで、 C I Aのトップエージェントであるこの『ジョン・マンジーロ』がわざわざ回収に来たという訳だ!」
「幸いあの難解な暗号は、お前達には解読できていないだろう……今ノートを返せば、命だけは助けてやろう」
これで今までの失敗は全て帳消しだな……そうジョンは思ったが、ジョンの要求にてぃーだが予想外の答えを返した。
「ああ~あの暗号ね? あれなら意外と簡単に解けたわ」
「何! あの暗号を解読しただと! ……それなら仕方がない。お前達には全員死んで貰おう!」
「ティダ、余計な事言わないでよ!」
「私は知らないわよ! そんな秘密!」
「オイラだって知らないぞ!」
「あっ! 自分達だけ助かろうとして! でも、そんなの確証がないから通用しないわよ!」
「えええ~つ! ダメなのお?」
「お前達、仲間を庇うとか信頼するとか、そういうのは無いのか?」
最後の最後に仲間割れをするチャリパイの四人に、ジョンは他人事ながら切ないものを感じた。
♢♢♢
「心配しなくても、四人揃って仲良くあの世に送ってやる」
「ひええええ~!」
完全にチェックメイトである。この状況で武器を持たないチャリパイが銃を持っているジョンに適う筈など無い……誰もがそう思ったに違いない。
しかし、チャリパイにはまだ切り札があった。最初にてぃーだがそのカードを切る。
「ちょっと待って! こっちにも切り札があるわよ!」
「切り札だと? この期に及んで今更何をしようというんだ?」
「これよ!」
そう言うてぃーだの右手には、スマートフォンが握られていた。
「アナタが
てぃーだが放った起死回生の一手!
しかし、それを聞いたジョンは慌てるかと思いきや……そんな事は想定内だという表情で口角を上げ呟いた。
「何だ、そんな事か」
C I Aでは、作戦遂行途中に起きる様々なアクシデントに対応する為に、通常幾通りもの作戦オプションを用意している。今回のような展開もジョンから見れば想定の範囲であり、既にその場合に対する対策は万全であった。
「おおかたマスコミにでも流そうという気なんだろうが……残念だったな。マスコミの上層部は、既にC I Aが全て抑えてあるよ」
ここはC I Aの方が一枚上手だったと言わざるを得ない。最悪の事態を想定し、そこまで手を回していたとは……
「さあ、死んで貰おうか!」
ジョンが右手を突き出し、その人差し指が引鉄を引きかけたその時だった!
「『マスコミ』だって? やっぱりC I Aのやる事は、相変わらずマニュアル通りだなぁ~ティダ」
「『ある所』っていうのは、マスコミなんかじゃないわよ」
シチローとてぃーだがジョンを馬鹿にするように大声を出して笑いながら否定する。
「何? マスコミじゃなかったら、一体どこなんだ!」
「あぁ~、もしかして、あの
「ティダの後輩の女子高生、広告塔の彩ちゃんだね」
この界隈ではその人物は有名らしい…子豚とひろきが顔を合わせ、納得したように頷いていた。
「ア……アヤチャン?」
「彩ちゃんは、SNS【TickTack】のフォロワー数50万オーバーの現役女子高生インフルエンサーさ! 今時の女子高生はスゴイぞ~! ほんの些細な噂が尾ひれ背びれが付いてあっという間に全国に広まるからなぁ~」
「わああぁ~っ! それだけはやめてくれぇぇ~っ!」
C I Aも、日本の女子高生にまでは手を回してはいなかったようである……
形勢は逆転、ジョンは別なアプローチをとらざるを得なかった。
「わかった! 取引をしよう……もし、ノートを返して秘密を守ってくれたらMLBドジャース戦内野席チケットをやろう!」
「新聞の勧誘かよっ!」
「そんなのもらってもアメリカまで行く予定が無いわ……」
「じゃあ、何がいいんだ」
「『コシヒカリ1年分』でどう?」
「いや…カリフォルニア米ならなんとか……」
「要するに、アメリカの物がいいのね」
「じゃあ、バドワイザー1年分!」
「ジャックダニエル1年分!」
「よし、のった!」
「なんで酒ばっかり頼むかな……」
シチローが呆れたように溜息をついた。
♢♢♢
ジョンは、その場でシチローと秘密保持の契約を交わすと爽やかな笑顔と共に握手を求めた。
「Mr.シチロー、君は殺すには惜しい男だ……君には、私と同じ『匂い』を感じるよ」
「オイラってそんなにゲロ臭いかな……?」
チャリパイとC I Aの取引は成立し、後日、森永探偵事務所には宅配業者からバドワイザー1年分とジャックダニエル1年分が届けられた。
ところで、あのノートに書かれていた『アメリカ合衆国政府の重大な秘密』とは一体何だったのだろうか……
あの暗号を解読したてぃーだは、契約によりこの秘密を決して外部に漏らさない事を約束させられていたのだが……
「ねぇ~ティダ、誰にも言わないから、あのノートに何て書いてあったかオイラ達にだけ教えてよ」
シチローがてぃーだに問いかけると、子豚とひろきも興味津々な顔をしてその周りに集まって来る。
「ああ、あれね……
大統領が小学生の時、ウ〇コもらしたって……」
おしまい♪
チャリパイEp.3~大統領の秘密~ 夏目 漱一郎 @minoru_3930
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