第4話プランB

その深夜…

誰もいない筈の森永探偵事務所の中では、真っ暗な中にうごめく一つの影があった。


「…ったく、あれだけの連中だからどれだけ厳重なセキュリティーかと思えば…

ぞ…不用心にも程がある!」


これだけ隙だらけの事務所ならば、ノートを見つけるのは容易いのではと淡い期待を抱いたジョンだったが、しかしお目当てのノートはてぃーだが家に持ち帰ってしまったのでいくら探しても見つからなかった。


「くそっ!これだけ探して無いんだ…きっとノートは奴らのうちの誰かが持っているに違いない。そうなると、いよいよBを発動する必要があるな…」


【プランB】とは、どうしてもノートだけの奪還が困難である場合の第二の作戦…即ち作戦であった。

その作戦を遂行する為、ジョンはこの時のために用意したアタッシュケースを開けてそのまま黙々と準備を始めた。



♢♢♢



そして翌日…


少し肌寒い午後8時頃、ジョンは車に乗り森永探偵事務所の側の側道へと停車していた。

昨夜、ジョンは森永探偵事務所に忍び込んだ際、事務所の電話に爆弾を仕掛けておいたのだった。仕組みは単純、外から電話をかけ事務所の誰かが受話器を上げた時…そっれが起爆装置のトリガーとなっている。アメリカ政府としてはノートそのものが重要な訳ではなく、を最も恐れていたので、ノートとそれを持つチャリパイの連中を一緒に処分出来ればと言えた。


運転席のガラスを僅かに下げ、望遠鏡で事務所の窓に焦点を合わせチャリパイの四人が揃っている事を確認する。


そしてジョンはスーツのポケットからスマホを取り出し、予め登録してあった森永探偵事務所の電話番号の画面を凝視した。

今から行うほんの指先ひとつの行為で、何の罪も無い四人の人命が失われる…何とも遣り切れない想いを胸に収め、ジョンは呟いた。


「あの探偵達には恨みは無いが、これも我がステイツを守る為だ…可哀想だが死んでもらおう…許せよ、日本人…」

そして通話ボタンを押した。








『あなたのおかけになった電話番号は、…』

「ガッデム‼なんで電話代払ってないんだっ!」


度重なる失敗に焦り苛つくジョン。


「アッタマキタ!こうなったら直接乗り込んでノートを取り返してやる!」


これ以上の失態は、C I Aのトップエージェントとしての彼のプライドが許さなかった。車から降りたジョンは、懐のコルトを握り締め灯の漏れる森永探偵事務所の建物へと走っていった。


事務所の窓の下の壁にもたれるようにしゃがみ込むと、そっと頭の上半分を出し中の様子を窺うジョン…


(呑気にトランプゲームなんぞやってやがる…私の存在には全く気付いてないな)


「はい、またシチローの負けね!罰ゲームのイッキよ♪」

「ええ~っまたオイラかよ!みんなでインチキしてるんじゃないのか?」


チャリパイの四人は全員でトランプをしていた。只のトランプでは面白くないので、負けた者がビールをという罰ゲームがある。そして今日はシチローはついてないのか、先程からずっと連敗していた。


「このビール、なんかアルコール濃いんじゃないのか?」

「ビールだけじゃつまらないので、日本酒混ぜておきました♪」


そんな無茶苦茶な事をするのは、ひろきに決まっている。彼女にかかれば酒を飲む事はもう罰ゲームでも何でもない。


その外ではジョンが窓の下で踏み込むタイミングを計っていた。


(あいつら酒なんて飲んでいるのか?だったら今踏み込めば、簡単に奴らを制圧出来るか…)


♢♢♢



連続で罰ゲームを食らっていたシチローの様子が変わったのはこの時だった。


「もうダメ…気持ち悪い…吐きそう…」


両手で口を塞ぐシチローを気遣うでもなく、三人は容赦ない言葉を浴びせる。


「ちょっと!ここで吐かないでよ!」

「外へ行ってよ!外へ~!」

絨毯じゅうたん汚さないでよね!」


シチローはトイレに駆け込もうかと思ったが、もうそんな余裕は無かった。


「間に合わない…ウプ…」


シチローは、そばの窓を勢い良く開けそこに込みあげる吐出物を思い切り吐いた!


『オロロロロロロロロ~!』

「うぎゃあああああ~!」



そこにジョンがいるとも知らずに…






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