第53話 隕石
夏休みも終わりが近づいて来たある日の夜。
シリュウ島を、オルセー王国から帝国へ戻しているところ。
あの日、オルセー王国の人々は、シリュウ島を見てパニックにおちいった。
なかなか王城への報告もいかず、魔法や攻城兵器の攻撃がシリュウ島へ向かった。全部届かなかったけど。
帝国は、シリュウ島がいなくなると、すぐさま南から西にかけた海の探索を始めた。
北にある共和国の疑いは完全には晴れなかったけど、皇帝はとりあえず調べまくる方針に。空飛ぶ
けれど、何日も探したところで当然なにも見つからない。
盗まれた船も見つからない。
そのため、最近帝国は防備に力を入れ始めた。なんか造船所も拡大するよう指示した。
オルセーも少し落ち着いてしまった。
なので、またシリュウ島を動かしている。
『帝国に1日だけおいて、もっかいオルセーかな?』
『1日ではホッとする間もないのではないかの?』
『3日くらい? いなくなって安心したところにもっかい来る的な』
肯定の波動。そうしよう。
国境の壁は、かなり長いものができている。
まじで夏休み中に完成させられそう。
国境の長さは10倍になったけど、建築効率は15倍になったくらいのなにか。
俺の魔法はかなり成長した。ノーマンが見様見真似でコンクリートをつくれるようになったのも大きい。ノーマンはもう、俺が表面の強化を行えば問題ない壁をつくれる。
いまだ誰にも気づかれてはいない。山地だからか、大国同士だからか、国境の緩衝地帯は広いところが多い。いや公国が狭かっただけか。
『……3日後に島をオルセーに戻して、そのあと南の元砂漠へ島を動かすところを帝国に見せようか……それから壁を完成させよう』
『なるほどの、よさそうじゃ』
港の上空にシリュウ島到着。
海賊島にいた眷属の1体を見張りに残し、みんなで宇宙へ休憩に行く。
宇宙に来たとたん、フヨフヨから疑問の波動。
『……?』
『フヨフヨ?』
触手が疑問の原因を指す。
遠く、エセアースの近くに、尾を引いて赤く輝くなにか。
大陸より遥か東だ。
『……え、隕石!?』
『そうみたい』
見ている間に、赤い何かは雲を吹き飛ばしたっぽい。どう見ても地上に落ちる寸前。
びっくりしてぴゅんと移動。
真上から隕石を見る。
『……で、でかくない?』
とか言ってる間に、海にドッボーン。
まじかーよ。隕石って、速い。
『……こ、この隕石による津波の心配はございませんか!?』
明らかに津波が広がっていった。
『……たぶん、大陸まで届かない』
よかった。俺はフヨフヨ予報を信じるよ。
フェネカは疑問の波動。シリュウはなんだか珍しくうろたえている。
なんでだろ。予備知識の差?
フヨフヨには予備知識があった。俺の頭から得た映画なんかの知識があるし、津波の知識もある。
なにより隕石にぶつかって千切れたことがある。
あんな速かったらそりゃ避けれないよね。
『……でかいと思ったけど、そうでもなかった?』
『縮んだ。燃えた。たぶん3メートルくらいになった?』
……や、それ、十分でかい。街に落ちたら大惨事では。遠い海でよかった。
なんだかまだシリュウがおののいている。
『……島があったあたりでは、ないか?』
『……まじ?』
『そう。動かさなきゃ直撃』
うそーん。
『そんなことある?』
『あった。動かしてよかった』
事実は小説よりうんたらかんたら。いや、物語とかゲーム的世界だとは思ってるけど、元のストーリー知らないし。
隕石があたって島のアンデッドボス開放的なイベントだった?
とっくに倒したけど。
俺がいろいろやっているから、おそらく元のストーリーは影も形もない。
でも、自然現象は変わりようがないはず。
『……誰か、宇宙に眷属配置できない? 隕石の監視だけでいいんだけど』
『妾がテイムしよう。少し慣れた』
『フェネカありがと……いやー、びっくりしたね? シリュウが無事でよかった』
『……あれが眠っているうちに当たれば、我の肉体も消えるであろう。助かった』
なによりだけど、起きていれば無事なの?
そうか、無属性の盾を出しまくれば無事かも。
◆◇◆
現在、眼の前ではギーゼラと元隻眼大隊長の模擬戦が行われている。
部活でBクラスの森に来ている。
まわりでは、クラウスやシェキアが嬉々としてモンスターを屠っている。ラヴィも冷静に打ち漏らしを倒す。
マックスは無属性魔法の射出練習で木を攻撃しているし、ミリーは頭上で聖域の形を変えまくっている。
エマは穴を掘り、トーニはうろたえ、護衛のひとりはギーゼラにのされてぐったり木にもたれる。
カレン先生は無表情で立っている。
カオスですわー。
「ハッ!」と気合をいれたギーゼラが、大隊長の木剣を飛ばした。
こっちに飛んできたのであわてて避ける。
「……あっ、ごめんユイエル」
俺に頭を下げたギーゼラに大丈夫とこたえる。
ギーゼラは木剣を拾ってクラウスを見た。
「クラウス、やらないか?」
「馬鹿をいうな。剣技で勝てるものか。風魔法を使ってもいいならやろう」
ギーゼラは魔力量や技量があがって対戦相手がすっかりいなくなったらしい。
それで強そうな護衛に模擬戦の相手を頼んだ。あっという間にのしたけど。
今度はクラウスに挑むみたい。
「……いいだろう、ただし首は狙わないでくれ」
……ん?
「いやいやいや、風魔法見えないでしょ!? スパッと斬れたらどうするの!」
「感知して避ける……けど、もし斬れたらミリーの再生の練習にボクを使ってくれ」
却下。
ミリーはまだ再生できないし。
「だめ。どうしてもやるならクラウス、斬れないように加減して。球状の風なら吹っ飛ぶだけでしょ。部活で欠損とかないから。やりすぎだから」
「わかった。やろう」
なんだこれ。未来の『剣聖』バーサス『賢者』みたいなのはじまった。木剣だけど。
落ち着けよと言いたい。最近戦争もなくて平和なのに。
ギーゼラが魔法を避けきれずに吹っ飛ぶ。しかし木を蹴って戻り斬りかかる。
今度は、その攻撃をかろうじて木剣で受けたクラウスが吹っ飛ぶ。
身体強化で及ばないクラウスは、追撃を風魔法を使って避ける。
あ、やばい。ミリーまったく見てない。エマもマックスもだ。
「……
なぜか護衛に徹する俺。
マックスとシェキアが魔力回復を求めてくるし。ミリーとエマのそばに並んでもらって、ラヴィも呼び、5人回復。
それを見たトーニがやっと魔法を使い出す。
そうこうするうちにギーゼラがクラウスの木剣を飛ばし、風魔法を間一髪で避けて喉元に木剣を突きつけた。
悔しそうに負けを認めるクラウス。
ほんとカオス。
こういう部活じゃなかったよね。
それから、かわいそうなモンスターたちを屠りまくって帰った。
でっかいイノシシみたいなのから銀貨がドロップしてホクホクなみんな。クラウスはご機嫌ななめ。
そんな昼と、忙しい夜をすごし、夏休み最終日。
日曜の朝。
シリュウ島をゆっくりと南へ動かす。帝国を離れ、元砂漠方面へ。
だいぶ後ろを船がやたらとついて来る。
もう少し、注目を集めてみようか。
なにがいいかな?
『剣聖』のひとり息子に憑依したおっさん、戦争に駆り出されたくないので特化ヒーラーのフリして我が道を行く。 深瀧歩 @mitakiB
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