第52話 未確認飛行島

 夜のシリュウ島。

 コントロールルームの窓からズボッと中へ。

 中は光魔法で照らしてある。


 全方位にあるこの窓、絶妙に外からわかりにくくなっていた。微妙に茶色っぽいし、周囲に岩がくっついていて下からはまず窓があることはわからない。

 真横に浮けば流石にわかるけど。


『じゃあ、フェネカ、シリュウ、高度も確認お願い』

『うむ。妾は上で建物も見ておく』


 シリュウからは肯定の波動。

 すでに島の魔力は満タンに近いはず。いままでに何度も宇宙往復していたから。浮いてるだけで消費してるみたいだけど。


 では、無属性魔法で指モドキを作りまして。

 西へ向いている矢印にのせる。

 まずは軽く押してみよう。


『シリュウ島、発進!』


 ほんのわずか押し込んだら、細かな振動が始まった。

 俺も歓喜の波動を出しちゃってるかも。


『……ゆっくりじゃのう?』

『強めに押し込んでみるよ。このボタン結構かたい。アクセルかも』


 車のアクセルを踏むみたいに、じわじわ押し込んでいく。

 フェネカから歓喜の波動が。


『速度が上がっておるぞ!』

『方角は西南西といったところか。高度はかわらぬ』

『……最高速いくよ!』


 アクセルベタ踏み状態に。

 なんか結構速そう。カタカタギシギシ聞こえる。


『置いてかれるのー!』

『ぷゆー!』


 え、楽しそうだけど、置いてかれないで?


『ヒタチ? 捕まって? ノーマンくっついてる?』

『だいじょぶなのー!』

『ぷゆー!』


 うん。遊んでるだけみたい。


『なかなか速いの? トラックを走るディープくらいかの? もっとかもしれん』

『え、そんなに? 建物無事?』


 いまのディープの全速力は、きっと時速400キロくらい。完全に生き物の速度じゃない。あきらかに他の馬より速いし。時速は俺の感覚だから違うかもだけど。


『無事じゃ。シリュウのねぐらは頑丈じゃの?』


 めちゃくちゃ簡単な構造だからか無事みたい。俺のイメージが地震大国の建物だからかも。

 遺跡はそもそも土台と低い壁しか残ってない。


 フヨフヨは中央のオリハルコンに触手を突っ込んでいる。


『フヨフヨ魔力消費どう?』

『結構使う。でも満タン』


 うん。フヨフヨは明らかに縮んでいる。


『魔力込めるのストップ』

『うん。ボタン押したい』


『いいよ』


 俺の魔法に変わり、フヨフヨの実体化触手が矢印ボタンを押し込む。


『方角はどうじゃ? どこに着くんじゃ?』

『シリュウわかる?』

『このままいけば大陸より遥か南の海上だろう』


 ちょうどよさそうかな。

 南から大陸の西へ抜け、南西からなんか来たと思わせてみようと思う。

 大陸を監視しに来た未確認飛行物体です。ふっふっふ。


 交代で宇宙休憩、魔力の補充をしつつ進み続ける。ちょっとハンドルを回して微調整もした。


 その過程でハンドルまわりにあるボタンを観察して気づいたことが。


 Uボタンの下にDボタン。

 これ、アップダウンでは?

 なんか2つセットのような配置だし。


 ほかのボタンは相変わらずわからない。たぶんバリアとかもあるんじゃないかな? BやVがバルスだったりはしないはず。押さないけど。


『……ちょっと試したいんだけど、いま高さ的にはどうかな? 港からはっきり見えそう?』

『我の視力でははっきり見えるであろうが……』

『ふむ。おそらく、ひとにはポツンと浮いた岩くらいに見えるのではないかの?』


 高すぎるということだ。

 人が乗っていると思わせたい。


『少し、高度を下げてみる。確認して』

『うむ』


 念の為一旦停止。

 ゆっくりとDボタンを押す。やっぱり振動が開始された。


『下がっておる!』


 よかった。

 ダウンのDで間違いなさそう。


『下げすぎると魔法攻撃が届いちゃうな?』

『まだ届くまい』


 ダウンは一旦やめ、ふたたび進む。

 人に見られてから高度を下げてみようと思う。それで誰か操作する者が乗っていると思うだろう。


 やがて大陸南端の真南に到達。遠くて俺には大陸が見えないけど。


『ひと晩で着きそう。すごいなぁ』


 気球や飛行機すっとばして、空飛ぶ島。

 もし俺の魂をこの世界に送ってくれた神様がいるのなら、とても感謝している。


 空が白み始めた。

 オルセー王国まで行くのは無理そう。


『……このまま帝国まで行ったら、部活遅刻かな?』

『帝国なら間に合う』


 大陸を迂回し、帝国の領海上へ。

 少し速度を落とし、慎重に港へ近づけていく。


 もう海上に出ている船がいる。気づくかな?


『危険や気になることがあったら教えて』

『大丈夫』


 少しずつ大胆に港へ近づく。

 高度も下げていく。


『……あわてて引き返してる船いない?』

『気づいたみたい』


 やがて港の全貌がくっきり見える位置で停止。

 ちょっとズボッと外へ。

 港の人々を観察に。


 みなさん、こっちを見上げている。口があいてますよ。

 指さしている人も中にはいるけど、まるで時間が止まったかのように停止したポカーン顔が大量発生中。


 しばらく動く人がおらず。じわじわ笑いがこみ上げてくる。逃げる発想ないんだね。

 ようやく走り出す人がぱらぱらとでてくる。


 海上の船を見れば、こちらも様々な反応だ。急いで戻る船もあれば、逆に北方や沖へ逃げる船もいる。


 騎士の動きを見て回る。馬で街道を走り出した騎士もいるな。


『皇帝にもすぐ報告いきそうだね』

『港に集まりだしたの?』


 見れば見上げる人が増えている。


『攻撃届かないよね?』

『妾は届かぬ距離じゃ』

『ここの見張りは我に任せよ』


『ありがとうシリュウ、皇帝を見に行くよ』


 ちょっと宇宙に寄ってから城へ向かう。するとちょうど騎士が城に駆け込むところ。


 皇帝の執務室に行くと、すでに皇帝が座っていた。なにか書類にサインしている。朝から働いているみたい。


「き、急報! 急報です!」


 執務室の外からそんな声が聞こえてきた。

 騎士がドアをあけ、伝令が飛び込んだ。伝令も結構立派なヒゲ騎士。

 ヒゲ騎士は跪いて頭を下げ、息を整えている。


 皇帝が書類から顔をあげる。黒髪に青い瞳。落ち着いた無表情。


「報告せよ」

「はっ! ……み、港の上空に、陸地が来ました」


 ヒゲ騎士は変な汗をかいている模様。

 俺は吹き出しそうになる。

 皇帝の表情は動かない。


「正確に報告せよ」

「……巨大な岩の上に、樹木や建物らしきものの乗った、島のようなものが、空を飛んでまいりました! ルエス港の真上ではありませんが、港からはっきりと見える位置で停止しました!」


 ちょっと吹き出しちゃった。

 騎士、めちゃくちゃがんばったと思う。だってほかに言いようないもんね?


 ちなみに港からは、島の端のほうにある遺跡の崩れた壁は見えても、シリュウのねぐらや肉体は見えない。


 皇帝はわずかに眉をしかめ黙っている。


「……攻撃魔法は届くか?」

「い、いえ、とても届きません」


「まず、決して迂闊なことはするな。敵対行動を取るな。空からなにか落とされるだけで多大な被害が出るだろう。民衆を港から遠ざけよ」

「はっ!」


「それから……また動く可能性もあるな。動いたらすぐに報告し、下の民衆を落ち着かせよ。可能なら遠ざけよ」


 すごいな皇帝。信じたのか。空を飛ぶものは鳥とドラゴンくらいの世界なのに。しかもとりあえずの対策を指示した。


 ほかの国家元首ならポカーンだと思う。それか信じず怒鳴りつけるかのどちらかだ。断言してもいい。


 騎士は復唱し、うながされ退室。港にとんぼ返りみたい。


「会議を行う。識者も呼べ。前回と同じく遺物アーティファクトに詳しい者たちだ」


 秘書っぽい文官への指示。

 フヨフヨの触手が皇帝にささる。


『どう? やっぱりすぐ遺物アーティファクトに結びつけたね。船どろぼうとも結びつけそう?』

『……思ってる。でもまだ決めつけない。自分で見に行くことも検討してる』


『会議の結果待ちか。いったん帰ろう』


 船どろぼう共和国犯人説が消えたらいいな。でも消えなくても、しばらくは大型船を探し回らなくなるかも。


 オルセー王国にもシリュウ島を運んだ方がいいよね。いくら帝国からの連絡でもきっと信じない。

 昼休みにやっとこう。


 島移動の魔力はなんとかなりそうなので、帝国とオルセー王国、交互にシリュウ島がやってくる感じにしよう。

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