第51話 領海侵犯

 大型船を隠した海賊島の上空には、3体のクラゲさんたち。

 壁づくり現場付近にも3体のクラゲさん。

 いずれもテイムしているのはドラゴンのシリュウ。


 壁づくりの進捗はすこぶる順調。夏休み中に終わりそうなほど。

 俺が部活に勤しんでいる間にも、ヒタチとノーマンが飽きることなく下準備やモンスター討伐をしてくれているから。


 土曜日は昼食会だったけど、日曜の今日はお昼寝でも壁づくり。

 木々から飛び出さない程度の高さの壁がみるみる立つ。自分でやっといてなんだけど、気持ちいい。


 いい気分で建築中のところに、シリュウから警戒の波動が。


『海戦になるやもしれん。どうやらオルセー王国の船が共和国に近づきすぎたらしい』

『……うわ、完全に俺のせい』


 手を止めて考える。

 俺が船を盗んだせいで友好国が損をするのは避けたい。

 けどきっと、変に介入すれば、ますます濡れ衣が激しくなる。


 共和国は重要な友好国だ。

 オルセー王国とその隣のギオル王国の北には共和国、南にはラングオッド王国。

 はさまれているため、帝国と足並みが揃わない。


 俺が憑依するずっと前の話だが、足並みが揃いそうになったとき、共和国が2カ国に攻め込んでくれたことがあるらしい。


 共和国との友好がなければ、ラングオッド王国はとっくに5カ国同時に攻め込まれていたということだ。


 ラングオッド王国は、共和国に穀物を輸出し、紙類を輸入している。

 その上、我が国の王太子妃は共和国出身。なので裏切る可能性のない大切な友好国だ。


『まず行ってみよう。手出ししない方が良さそうなら、しない』

『うん』


 フヨフヨと一緒にシリュウの元へ。

 海のど真ん中だ。船しか見えない。海賊島どこ?


『……島からだいぶ遠い? シリュウ、よく気づいたね?』

『定期的に交代で巡回を頼んだ』


 テイムしたクラゲさんに頼んでいたという意味だ。クラゲさんまだカタコトだろうに、シリュウが抜かりなくて助かる。


 眼下では、大型船1隻と中型船3隻が対峙している。

 大型船は風魔法で声を拡大し、警告を発している。領海から出ていけ的な内容だ。


『オルセー王国の船、あれは商船?』

『うん。でもたぶん商人乗ってない。無理やり借りたみたい。王様にそんな報告あった』


 それは王様と商人の仲が悪くなりそうでなにより。反乱まではいかないだろう。


 まずいな。だんだんと両者の距離が縮んでいる。まだ魔法を撃つような距離ではないけど、一触即発。


 ……うーん。いい方法が思いつかない。嵐とか?

 魔法だってバレるよね?

 空を見ると、雲が結構ある。


『……フヨフヨ、雨が降りそうと思ってる人いないか見て欲しい』


 フヨフヨが喜び勇んで共和国の大型船に向かう。

 褒めるような波動だった。どうも名案だと思ったらしい。


 ついで敵国の船に向かって行く。

 フヨフヨから歓喜の波動が。


『どっちも思ってる! 北からひと雨来るかもって!』


 言われて見てみれば、船の位置関係から北と思われる方角の空は灰色に見えるかも。


『シリュウ、北側の雲がこっちに来るように上空に風をお願いできる? 雲は水蒸気のはずだから、そっと。温度も大事かも』

『あい、わかった』


 シリュウも楽しそうだな。

 俺も上空へ。雲の真下に浮いてみる。


 まだ攻撃は始まっていない。おそらく、どちらも国からの攻撃命令があるわけじゃない。

 オルセー王国側は母国の船を探しに出てきただけ、共和国側は領海侵犯を発見して近づいただけだ。

 頼むから雨で帰ってくれよ。


 なんだか北側の雲がどんどん濃くなっている気がする。

 シリュウがやっているみたい。寄せようと思ったら凝縮されちゃった的な?


 俺は下から上に、あたたかく湿った空気を送るようにイメージし、風魔法を使ってみる。ななめに。船へ向かうように。


 雲の仕組みは残念ながらはっきりとは覚えていない。けど、水蒸気は普通水が沸騰したらでるものだ。あたためればまだ降らないはず。


 雲がゆっくりとしか進まず、あせる。

 もう船の間は攻撃魔法の射程に入っている気がする。


 こっちももう射程圏内だろう。


恵みの雨アクアシャワー


 雨は元砂漠で毎日のように降らせている。かなり広範囲に降らせられる。


 雲と一緒に雨も船へ近づけていく。

 魔法だと気づかれないよう、慎重に。


 やがて船の真上に達する。

 まだ小雨だが、これで少なくとも火魔法を使おうとは思わないだろう。燃えて沈むのは防げる。


 上空に少し冷たい風を送ってみる。たぶん冷やせば水に戻るはず。

 本物の雨が降ったらいいな?


 上から、水滴が俺をすり抜けていく。

 上手くいった。

 やがて自然と土砂降りに。


『シリュウ、少しだけ海面にも風が欲しい。自然な風。荒れてきたから帰ろうかなって思わせたい』


 強い肯定の波動。同意してくれたみたい。

 フヨフヨから歓喜の波動。


『オルセーの船長撤退の指示だした!』

『やった! シリュウナイス! フヨフヨもナイス!』


 見れば中型船の方は帆の向きが変わっていく。

 ついで徐々に両者の距離が開いていく。


『フヨフヨ、オルセー王国の海兵たち自然現象だと思ったかな?』

『うん! 疑ってなかった!』


 完璧じゃない?

 でも、毎度この手は使えない。快晴だったら怪しさ爆発だ。


『……犯人は共和国じゃないと思わせたいな』

『……島を帝国の上空へ移動してはどうか?』


 シリュウ島か。名案かも。まさか空飛ぶ島を共和国とは思わないだろう。北以外から向かってくればなおさら。

 未知の敵がいると思うのではなかろうか。

 でもな……。


『えー!? 南国バカンス計画がー……』

『なんじゃ情けない声を出して。戻せばよかろう』


 フェネカに笑われた。

 まじめにやります。


『どのくらい速度が出るか、どのくらい魔力を使うか、確認して決めよう』


 なんだかみんな楽しそう。実はあの島移動させてみたかったんでしょ?

 特にフヨフヨが歓喜してる。

 まあ、移動できるとなると移動させてみたいよね。


 俺もワクテカして島に向かおうとした。けど、フヨフヨに時間切れを言い渡され、すごすごマイボディに帰る。

 晩御飯も大事。育ち盛りなもので。

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