第50話 船どろぼう
夜、西の帝国と、北西オルセー王国との国境。
ひと目につかない山裾の森。
『
どんどん壁をつくっていく。移動しながら魔法を使う。断面が見えているのでイメージしやすい。
いまそばには、ノーマン、ヒタチ、フェネカだけ。
『ぷゆー!』
ノーマンに絶賛されている。
ここはもうヒタチとノーマンが下準備をしてくれた場所で、木々はよけられ溝が掘って固められている。
『モンスター来たの!』
『ぷゆ!』
モンスターが来ると、ヒタチが根っこで足止めし、ノーマンが土の杭で貫く。
カドゥケウスはおいてきた。どうやら聖属性専用らしい。ためしに光を使ってみたところ、強化された様子はなく、しかもヤダヤダって感じの波動が来たから。
フヨフヨが来て、俺とヒタチ、ノーマンに魔力をくれる。
ヒタチとノーマンは、次の下準備が必要な地点へ向かった。
フェネカだけがそばに残る。
『モンスターが多かったら呼ぶんじゃぞ』
『はいなの!』
フェネカがモンスターを倒してくれるので、俺は壁づくりに専念。
いま、オルセー王国の大型船泥棒を、シリュウが請け負ってくれている。
フヨフヨが国所有の船を探し、シリュウがマジックバッグを使って運ぶ。
フヨフヨは行ったり来たり、宇宙にも寄って大忙し。
かなりの高効率で帝国孤立作戦が進行している。
やがてオルセー王国の大型船終了のお知らせがフヨフヨから来た。
『帝国、警備厳重』
『……困ったね』
帝国は、国境の警備も厳重になっている。公国との国境に壁をつくったせいらしい。
オルセー王国は盗まれても気づいていないのに、帝国は抜かりない。
『港付近で火事でもおこすかの?』
『おこさないで?』
帝国の港へ移動。
オルセー王国から盗まれたと連絡があればさらに警備は厳重になるかも。その前になんとかしたい。
『……甲板にふたりだけか。ほかに乗ってない?』
『ぜんぶ、ふたりだけ』
警備の衛兵らしき人たちはランプを持ってウロウロ。
『……寝かせて降ろしちゃう?』
『それが無難じゃろうの。騒ぎがおきても持ち場を離れぬやもしれぬ』
『フェネカはヒタチとノーマンのそばにいて』
『うむ』
『フヨフヨ、シリュウ、いける?』
『大丈夫』
『マジックバッグはすぐ上だ』
見上げるとシリュウのアストラルボディ。
月明かりもほとんどないので小さなマジックバッグは見えない。
大型船のそばには、港から昇るための木製スロープみたいなものが置いてある。
すぐに昇り降りはできそうだけど、ぴったりくっつくいてはいないみたい。
フヨフヨの合図を待って甲板の衛兵らしき人に手のひらを向ける。
1時間で目覚めるようイメージ。
『
膝から崩れ落ちそうになるところを、ランプも一緒に無属性の板で受け止める。フヨフヨがランプを消してくれた。
すーっと港に動かし、物陰におろす。風引いたらごめん。
ふたり目も同じように移動していると、パッと大型船が消えた。シリュウがしまったのだ。
あとは時間との勝負。シリュウがマジックバッグを海賊島へ運ぶ。
帝国の大型船は、6隻もある。
同じ手順で急ぐ。
『気づいた』
4隻消えたところで港の警備が気づいたらしい。
いまシリュウは海賊島へ向かったばかり。
『シリュウ、海上に船出して戻れる?』
『わかった。凪いでいるのでそう大きく流されはすまい』
更に加速。
あまり聞き覚えのない警笛がなった。
『
ふたりを降ろすと、1隻マジックバッグの中に消える。
フヨフヨの案内で最後のふたりを寝かしつけ降ろす。ちょっと雑だったかも。打ち身になってたらごめん。あとで回復する。
馬に乗った騎士が、最後の船に向かってくる。4人もいる。後ろからまだ来そう。
木製スロープを倒すか迷う。
『シリュウ、騎士が乗りこみそう!』
『間に合う』
騎士が木製スロープに乗る直前、パッと最後の1隻が消える。マジックバッグがすーっと上空へ向かって行った。
馬がいななき、騎士たちも驚きの声をあげる。
『マジックバッグ見られたかな?』
『見えてない。大丈夫』
上手くいった。
『壁建築に戻るよ。シリュウ、大丈夫そう?』
『うむ。任せよ』
シリュウもあわい歓喜の波動をよこした。みんな役に立てることを喜んでくれる。ほんと助かる。
◆◇◆
夏休み初日の朝。
部活へ向かうため、ディープを厩舎に預けようとしたところラヴィとかち合った。
というより、俺を待ってた?
もう馬を預けたあとみたい。簡単に挨拶してディープを預けて出る。
やっぱりラヴィは待っていた。
「早いね。どうしたの?」
「あのあと叔父に会って来ました。ふふ。ヴァイス家3女の立場を返上して来たのですわ」
なんだか晴れ晴れとした笑顔だ。いままでの笑顔が作り物だったのだと確信するくらいに明るい。
「……それでよかったの?」
「ええ、すっかり開放して貰えそうです。ユイエルさんには、妹が迷惑をかけるかもしれませんが」
「……ラヴィがいいなら、よかったけど……妹何歳?」
「10歳になったばかりです。来年入学ですわ」
嫌だ。たとえ美少女でもヴァイス家のために種馬する気はない。だって子どもはヴァイス家へ養子に出すとかでしょ? 勘弁して欲しい。
「……それって、子ども欲しい的な? なんとかして拒否する方法ないかな?」
ラヴィは、口元に人差し指をあてて考え出した。
「……隙を作らないことでしょうか? 私より、カレン先生、アンナさん、シェキアさんに相談するのがいいかもしれません」
「そうする」
ゆっくり歩いているのでもう少し話す時間がある。
「妹とは、仲いいの? どんな性格?」
「……陰口が大好きですわ。特に私の」
にっこり笑顔でそんなことを言う。とても仲が悪そう。全力拒否だ。カレン先生に、理事に言われても絶対入部不可と伝えよう。
部室に入ると、もうクラウスとマックスが来ていた。やる気あふれすぎ。
いつも通り部活をこなし帰路につく。
『フヨフヨ、疲れてない?』
『ぜんぜん』
俺だけ疲れているみたい。
ちょっと休息しよう。部屋にマイボディを残し、眷属さんに見張りを任せて宇宙へ。
『みんなー。宇宙でのんびりしよー』
肯定の波動と歓喜の波動が。
フヨフヨにぺったりひっついて宇宙をただよう。
『なんじゃ、また情けなくなっとるのかの?』
『お疲れなの!』
『おつかれぷゆ!』
ヒタチとノーマンがひっついてきた。かわいい。癒やされる。
『そんなことないけど……フヨフヨごめん、ちょっと休んだら理事とヴァイス家のトップをチェックしに行きたい』
『うん。ぜんぜん平気』
ありがとう。ディープとシリュウは飛び回っている。呼んでみんなまとめて回復だ。
歓喜の波動が来た。
『ちょっと行ってくる』
まず騎士学校の理事のところへ。理事はまあいっぱいいるんだけど、たぶん以前チェックした人だと思って飛んだんだけど――。
『違う。この人関係ない』
『……理事にヴァイスって何人いるの?』
『3人』
多いよ。担任もヴァイスなんだよ?
分家立てすぎて領地こま切れじゃない?
フヨフヨに探し出してもらいました。そして触手がプスッと。
『……昼にもう本家行ってきた。ラヴィ廃嫡。娘のひとり、本家の養子になるって』
『……廃嫡はたぶん、ラヴィは喜んでるんだよね?』
フヨフヨは、部活でラヴィにふれている。
『うん。スカッとした』
『その養子娘は学校にいる?』
『いま4年、聖属性Aクラス』
『妹よりそっちがよろしくない。ほんとどんだけ子孫繁栄してるの……ほかにいないよね? アツェランド家は?』
『分家少ない。娘いない。賢者、妹は年離れすぎ残念って思ってた』
おうふ聞きたくなかった。
『いままで黙ってたけど言っちゃった』
聞いたのは俺だ。
『大丈夫、ありがとうフヨフヨ。いちおうヴァイス本家も行ってみよう』
フヨフヨの案内で到着。レガデューアの屋敷よりだいぶ大きい。倍はありそう。
お茶会? している。けど女性ばかりだ。
書斎っぽい部屋で手紙を読む紳士発見。触手プスッ。
『……なにもかも上手くいかない、イライラ』
『浄化で解決しそう?』
フヨフヨが具体的なことを言わないのは、俺が嫌がりそうだからかな。
必要な情報はすでに得たってことか。
『……廃嫡やめちゃうかも』
『ラヴィが正式に廃嫡と発表されたら浄化かな?』
そう決めてマイボディに戻り、夕飯へ。
夜、アンナさんに念押しした。ヴァイス家の子は嫌です。部員を増やすのも嫌です、と。うなずいてくれた。
それから、壁づくりに出る。
帝国とオルセー王国は、漁船や商船を動員して大型船を探している。
陸からも、小さな漁港まで探させているみたい。
港の警備もとても厳重。
海に注目がいったことで、多少国境が手薄に。
皇帝も、海から攻めてくると思ったらしい。
北にある我が国の友好国が犯人扱いされている。木が豊富で造船技術に優れた共和国だ。
皇帝は船が消えたという報告でワープの
残念、違うよ。
若干1名港の設備も火祭にしようかと言っていたけど、しないから。
このまま振り回してみようと思う。戦争する余裕がなくなるほどに。
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