第20話 獣人と生姜焼き



 コツは根本から丁寧に採ることだ。

 あと取り過ぎないことな!全部採ると次来る時に禿山になってるなんて良くある話だからなぁ。



 「うぃ、薬草採取完了」



 いやぁ~良いねぇ…平和ってこの事よ。

 後はギルドに帰って薬草を渡すだけの簡単なお仕事〜。











 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇








 大きな石造りの二階建ての建物…まぁ、言わずもがな冒険者ギルドだ。

 これもどの世界にも何故かあったんだよな。

 でも、考えれば当たり前か…この世界、過去に転生した世界を管理していたのがブレイシアなら似た様な文化、発展を遂げてるのは納得出来る。



 「っと、ボーッとしてる場合じゃ無かった」



 俺は、ウキウキでギルドに入って行った。

 そのまま受付まで行き薬草の入った袋を置く。




 「あっ!ヨシトさん、今日も行ってきてくれたんですか?」

 「おぅ!薬草採取してきたぜ」




 受付に居る女性…いわゆる、受付嬢と呼ばれる冒険者ギルドの癒しだ。

 う~ん、今日も弾ける笑顔だねぇ。




 「本当に助かります…最近は薬草採取をしてくれる冒険者が殆ど居なくて。居ても持ってくる薬草がボロボロで使えないなんてざらにありますから」

 「うんうん、大変だねぇ〜」

 「えっと…そのぅ〜ヨシトさん?」

 「はいはい、何かな?マルテちゃん」

 「慣れてはいるんですけど…流石に




 受付嬢、マルテちゃんは両手で胸部にある果実を隠した。

 うんうん、隠れてないよー凄く良いねぇ。



 「どうして!?」

 「あははっ…ヨシトさん正直者ですね。他の人はちらちら見たり、イヤらしい目線なんですけど…何故かヨシトさんのは嫌な感じかしないんですよね」

 「ふん!そいつ等は全員、二流だ…結局のところマルテちゃんの胸を見てるようで見ていない」



 わかっちゃねぇのよ。



 「そいつ等はマルテちゃんの身体を求めてる…だが、俺は違う!俺はマルテちゃんの、おっ◯いしか興味がない!」

 「それは凄く分かります。ヨシトさん、私と話すとき本当にココしか見てないですもんね」

 「……むしろ何処を見ろと?」

 「目線を合わせろと言ってるんです」




 あっはっは、冗談だよ。



 「ヨシトさんって何か…若いのに、たまにオジサンみたいですよね」

 「あっはっは!」




 何回もオジサン経験してるからね前世で。




 「こちらが報酬です」

 「あれ、中見ないの?」

 「信用があるってことですよ!」


 

 机に報酬が入った袋を置くとマルテちゃんの胸が揺れた。たゆんっと。




 「………振れないですね」

 「性分なんで」

 「いいです、それと…たまには魔物の討伐とかどうですか?」

 「いや、気分じゃない」



 報酬を受け取り俺は出口に向かう。



 「気が変わったら何時でも言って下さいね〜」

 「うぃ〜」



 後ろを向きながら手を振って返事をする。

 魔物なんて他の冒険者がこぞって討伐しにいってるし俺が行く必要も感じないからな。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 


 「ひーふーみー…薬草採取ならこんなもんか」



 袋の中には小さく細い白い札が数個入っていた。

 この世界だと冒険者ギルド専用の通貨があるみたいで、それがこの札だ。

 ちなみに白は最低ランク、一枚で千円位かな?



 「冒険者ギルドと提携してるとこじゃないと使えないのが面倒だけど……思ったより冒険者ギルドの影響力が強いっぽいんだよなこの世界」



 一ヶ月位過ごしてるけど余り不便だとは思わない。

 探せば冒険者ギルドが提携してる施設が至る所にあるからな。

 これから行きつけの店に行こうと思ってる。

 丁度、昼だし。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 「いらっしゃい!」

 「シェフの気紛れスペシャルメニューを」

 「日替わり定食一つだね」

 「はい」



 相変わらず冗談が通じない店だ。

 この店は夫婦二人でやってる冒険者御用達の定食屋だ。

 これがまた美味いんだ。




 「はいよ!今日はレッドボアの生姜焼きだよ」

 「ありがとうございます」

 「あんたいつも来てくれるから少し肉多めにしたよ」

 「ありゃ、ありがとうございます。頂きまーす」



 怒ったら絶対怖いって分かる奥さんのツンデレに頭が沸騰しそうだぜ。

 じゃ、頂きまーす。

 

 

 「おい、そう言えば聞いたか?」

 「なんだよ。また娼婦が自分に惚れてるかもって話か?勘弁しろよ飯中だぞ」

 「ちげぇよ!?それと…アリアちゃんは俺に惚れてる絶対に!!!」




 食べようとすると後ろに座っている別の冒険者の声が聞こえた。




 「実はな…どうやらメアリ王女、病気が治ったらしいぜ」

 「マジか!?魔境探索の依頼が取り下げられたから俺はてっきり…」

 「誰にも言うなよ、アリアちゃんから教えて貰ったんだからよ」

 




 ふ~ん、病気って事になってたのか。

 まっ、そうだよな毒盛られた。しかも権力争いのせいですなんて国から言えんよね。

 それにしても……良かったなエリシア、ちゃんと助けられたんだな。



 うん、良い話も聞いたし頂くか!



 はぁ…このタレで照り照りになった肉がもう食欲をそそるっ!

 はよ、はよ、口の中においで〜。







 ガシャァァァァァァァァァァァ。





 突然、俺の使ってたテーブルが吹き飛び当然そこにあった生姜焼き定食は無惨に地面へと落ちた。

 あぁ…俺の…生姜焼きぃ…。






 「臭ぇんだよテメェ!」

 「ご…ごめんなさいにゃ…お腹…お腹が減って…」




 おいおい勘弁してくれよ。



 ん…?獣人だよな…白猫の獣人か。

 こいつがあそこで唾飛ばしまくってる冒険者に蹴り飛ばされて結果的に俺の生姜焼きがオジャンになったと。




 「俺の飯に手ぇつけやがってっ獣人の分際で!」

 「ごめんなさいにゃ…お腹…ぺこぺこで…我慢…できなくて…」

 「来いっ!」

 「に“ゃぁ"」




 獣人の髪を乱暴に掴み冒険者が店の外に連れて行こうと無理矢理引っ張る。



 「躾けてやる…前に言ったよなぁ?今度その面ぁ見せたらどうなるかってよぉ」

 「に“ゃ…!?ごめんなさいにゃ!ごめんなさいにゃ!?もうしないにゃ!?」

 

 

 獣人は人間よりも力が強いが、まだ子供だ。

 あれ程、体格差があれば意味をなさない…獣人の子供は手足をバタバタと動かしながら無駄な抵抗を続ける。

 良く見れば身体中に痣のようなものも見られた。





 「悪いね、新しいの用意するかい?」

 「あぁ、大丈夫です

 「…?…あんた何言って……あぁ、そうかい」




 俺とあの獣人の子供は何の関係もない。

 そもそも厄介事に自分から首を突っ込むのは馬鹿がすることだ。

 眼の前で小さな子供が腹を空かせて。恐らく前にも痛い目に合わされた相手の顔まで覚えてないくらい空腹で、つい盗み食いをしてしまったとしても…それは、あの獣人の責任だ。




 俺は関係ない。




 「そんな青筋を立てるくらい食べたかったのかい?うちの生姜焼き」




 あぁ…そうだ。




 「おい」

 「あ“?関係ねぇ奴ぁすっこんで」




 ドッッ!



 「ぶげぇ!?」


 

 だから…これは生姜焼きを食えなかった分だ。



 

 ゴォォォォォォン!!




 拳を振り切る様に冒険者の顔面を撃ち抜く。

 そのまま店の外に吹き飛んだ冒険者は白目を剥き気を失う。



 「…にゃ…にゃあ?」

 「大丈夫か?」



 おっと、偶然にも助けてしまった!

 参ったなぁ…俺は、ただ生姜焼きを食べれなかった怒りをぶつけただけなのに。




 あっはっは!




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10の世界を救った英雄〜11回目の転生は気ままに過ごして良いらしいです………え?マジっ!?本当に!?……イヤッフォォォォォォォォオ!!!! 猫爺 @nekojii

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