エピローグ

「終わった──のか?」

 ポツリとガウリイがそうつぶやいたのは、シャブラニグドゥの体が完全に消失して、かなりってからのことだった。

「──ええ」

 あたしはきっぱりと言った。

「レゾのおかげで、ね」

「レゾの?」

 ほろびたことがいまだに信じがたいのか、魔王が最後に立っていた場所を見つめながらゼルガディスが言う。

「あれの中に、まだレゾのたましいが残っていたのよ。長い年月をかけて内側から魔王にむしばまれながらも残っていた、あのひとのひとかけらの良心が、みずからをあざむいた魔王に対する憎しみと手を組み、結果──あたしの生み出したやみを自ら受け入れた──」

「……いやしかし、お前さんも全くたいしたもん……」

 あたしの方に目をやって、ガウリイは絶句した。

 そして、ゼルガディスもまた──

 あたしの、銀色にまったかみを見て。

 生体エネルギーの使いすぎによって引き起こされる現象である。

「リ……リナ……その髪……」

「だいじょーぶよ。ちっとばかり力を使いすぎただけ」

 あたしはにこりと笑ってみせた。

「疲れてはいるけどね──それよりあなたたちは?」

「オレは──平気さ──」

 言いながら、ガウリイはかなりヨタヨタしながら身を起こした。

「おれの方も──少なくともまだ死んじやいねえよ」

 ゼルガディスの方は、ガウリイよりはほんの少しだけしっかりとしている。

「そう──よかった」

 あたしはほほえんでそうつぶやくと、そのまま大の字にころがった。

 心地よいすいに身をゆだね、そして──

 

 数日の後──

 三人はアトラス・シティの目前まで来ていた。

「やー、これで今夜はおいしいものが食べられて、ふかふかのベッドでゆっくり眠れるってもんね」

 あたしは遠くに見える町並みに目をやりながら声を上げた。

 さすがにかみの色はまだ、もとのくりいろもどってはいないものの、疲れの方は完全に回復していた。

「えらく長い旅になっちまったな」

 ガウリイが言う。

「さて──それじゃあおれはそろそろこのへんで退散させてもらうとするぜ」

 とうとつにゼルガディスが言い出した。

「──え?」

 あたしとガウリイの声がハモる。

「おれは今までにもいろんなことをやらかしてきてるしな。顔もそこそこ知られている。ああいう大きな町はヤバいんだ。──こーいう目立つふうぼうしてることだし」

「そっか……じゃあ、どうすんの? あなたこれから」

 あたしは尋ねた。

「ま、一人で気ままにやっていくさ。

 あんたたちにはいろいろとめいわくもかけたが……」

 彼は照れ臭そうに、鼻の頭を指でいた。

「お互い、生きていたら、またいつかどこかで会いたいもんだな……ま、あんたたちには迷惑かもしれんが……」

 その前に、あたしは右手を差し出した。

「またいつか──ね」

「──またいつか──」

 ゼルガディスはそれを優しくにぎり返す。

 石でできているはずのはだは、と暖かかった。

「達者でな」

 ガウリイが軽く手を上げる。

「ああ。お前さんも──」

 ゼルガディスはそう言うとそっと手を放し、そのまま背中を向けた。

「──しかしリナよ──」

 もと来た方へと去って行くゼルガディスを見送りながら、ガウリイは言った。魔王との戦い以来、あたしへの呼称が『じようちゃん』から『リナ』に変わっていた。

「あいつにき手で握手させちまうとは──さてはあいつ、お前さんにホレてでもいたのかな?」

「ばかなこと言わないの」

 あたしは笑って受け流した。

「──ところでさ、お前、アトラス・シティに着いたあとはどうするつもりなんだ?」

「んー、そーねぇ……」

 あたしはしばし考えた。

「そだ。それよりガウリイの〝光の剣〟あたしにくれるって話、あれどうなったの?」

だれがそんなこと言った! 誰が!」

「あ……くんないんだ……」

「当り前だ」

「残念だなー。それがあればあたしはほとんど無敵だし、どうの研究もはかどるだろーし……」

「だめなものはだめ」

「──うん、わかった」

 あっさりとうなずいた。

「……え?」

 ガウリイが面食らう。

「これで決まったわ。当面の旅の行き先が、ね」

「──どこだい?」

 ようりようを得ない顔で彼が聞き返す。

「あなたの行くところ、よ」

「……はぁ?」

「光の剣をゆずってくれる気になるまで、ずっとあなたの追っかけをやらせてもらいますからね」

 ウインク一つ。

「とにかく──さ、行きましょ」

 言って、あたしは歩き出した。

 アトラス・シティヘと──

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スレイヤーズ 神坂一 @HajimeKanzaka

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