第3話 動く

「標的の報告に来た。」


その言葉を合図に私の力はだらりと抜け落ちる。あ゛ァもう沢山です、と。この私のクズさ加減も親似ですね、なーんて自笑しながらフイっと大きなソファでだらしがなく横になる。


でも私は何処までいっても仕事をしなねばならぬので、ゆったりと口元を開くしかないのです。そう思いだらしがなくフニャッとしていた口元はスッとして先程とはまるっきり別と化した。


「それで? どう動きましたか?」


「あぁ、あんたの言う通り動いたよ。」


と、言ういつもの如く厳つい男、破天荒に私は「そうですか。」とだけ返して寝そべった。そんな私の態度に当然、見習いの彼は目を白黒させている。そんな顔をしないで貰いたいですね。誰しもオフの状態はあるでしょう? 私はそのスイッチが今切れてしまっただけのこと。そう思っていると


「え、仕事は?! 金の答え合わせは?! 名前は?!」


と、騒々そうぞうしく言う見習いに私は思わず顔をしかめ「金は少し脳を使えば分かるでしょうが。あぁ、それともあなたのおつむはそんなに足りていないのでしょうか?」と、思わず呆れる。


「は、いやいや説明不足にも程があるだろうが! 俺はお前の説明が分かりづらいと言ってんの!」


「⋯⋯はぁ、ここは現実世界。あなたが夢見るような空想、妄想などの類いのものとは真反対。ここまで言えば後は分かるでしょうが。」そう私が足をブラブラさせて呆れた顔で見ていると


「じゃ、じゃあ! あのグミは何であんなにマズいんだよ!」


その期待するかのような目に思わず私は虫唾が走った。あぁまさかあなた、特別なグミだとでも思っていらしたんですか? あ、はは。そんなわけが無いでしょうに。


もしそんな便利なものがあれば⋯⋯私はここにいませんよ。


「それから⋯お前の名前って本当にからなのか?」


と、さっきと同じことを繰り返す馬鹿な見習い。あぁ、もうこの方は。そう思いながら返事を渋々返す。「じゃなきゃ他に何だと言うので御座いましょう?」と。


「そ、それって名前じゃな―――」

「待て。からって本名だったのか?!」


と、聞いてないとでも言うかのように此方を凝視する破天荒。それに思わず私はため息を漏らしながら口を開く。


「へぇ、そうですが何か?」


「⋯⋯。」


と、何も返さない破天荒。一体どうしたのでしょうか? そんな顔をされる覚えもないですし、所詮は赤の他人ではありませぬか。そう思いながらゴロゴロする私。うん、こんな風にゴロゴロ出来るのも上の特権ですね。それなら今まで積み上げてきた甲斐があったというもの。


確かに糸などという現実っぽくない要素はある。でもアレだって一朝一夕で出来るものなどでは無い。もし出来たという人がいれば是非とも見せて頂きたいものですね。そう思いながら窓を見る。丁度今の時期は桜がゆらゆら揺っていることでしょう。すると案の定、ゆらゆら花びらを揺る桜が見えた。


桜は薄汚い私と違いとても綺麗に揺いますね。なァんて考えて見ていると


「あ、桜か。食べると美味しいんだよな。」


え、あなたもですか?


「あ、すいやせん。ダンボールここに置いとくっすね。」と、急に入って来て言うダルいおモヤシ。相変わらずの感じですね、彼女は。そう思いながらゲームをし始めるダルいおモヤシを見る。


⋯にしてもこのダンボール、何か任務の荷物でしょうか? そう思っていると


「な、このダンボール。貰っても良いか?」と見習いが言ってきました。それに対して「えぇどうぞ。⋯⋯でも工作でもするのですか?」と、疑問に思い質問を投げる私。


「え、普通に食うけど。」


え⋯⋯? それって本当ですか! そう思って聴く。「た、食べれるんですか?」


「え? 食べれるぜ? まぁダンボールってそのままじゃ噛めないから水に浸してふにゃふにゃにするんだけどな。で、その後揚げても良し。まぁそんな揚げる道具とか俺には無いんだけどよ。と、まぁ元は紙だから食べれるんだぜ! ふう、にしても助かった。これで食事に困んないぜ! 桜もあるしな!」


と、突然話す見習い。確かに花は食べれると知ってますがダンボールは知りませんでした。へぇ確かに食事に困らなさそうです。今度私も実戦してみましょうか? そう思っていると


「ちょ、ちょっと待ってっす。あんたダンボール食べてんっすか!」


「勿論だけど、それがどうした?」


「え? いや、え? 普通にご飯を食べたりしないんっすか?」


と、ゲームをしていた手を止めて見習いを見て言うダルいおモヤシ。いやいやそんなお金あるわけ無いでしょう? 見習いがどうかは知りませんけども私は親にお金取られてますし。そう笑いながら思っていると


「まぁ家は貧乏だからな。それしか無いんだ。」


「な、なら今度飯行きましょ! みんなで!」


「いや、ちょっと待ってくれダルいおモヤシ。俺はからにも聞きたいことがある。⋯空が本名だってことについてだ。」


「え、え?? 待ってくれっす。自分、それ知らない!」


と、私に向かって言って来る破天荒とダルいおモヤシ。それにかなりの面倒臭さを感じていると通信機のザザッという音がした。


「おい、聞こえるか。今、外部から攻撃を受けてる。つまり呑気のんきに会話をしている暇は無い。分かったら早く出動しろ。⋯後、空。あたしはあんたにとってそんなに頼り無いか? 何故教えなかった。何故吐き出さない。何故いつも笑っていられる! ⋯⋯これが終わったら後でとことん話して貰うからな。」と、姉さん。


「自分もっすよ。空さんには恩義を感じてるっすから! ちゃんと話して貰うっすからね。それから後で新作のゲーム一緒にやりましょ!」と、ダルいおモヤシ。


「オレもだ。この名前を空に貰ってからオレはあんたの下に就くと決めていた。だからきちんと話して貰うから覚悟しとけよ。」と、破天荒。


と、三人が口々に私に向かって言って来ました。⋯⋯何でそんな風に言ってくれるのでしょうか? だって私、クズですよ? こんな私にいい所なんて一つもないじゃないですか。そう思っている間にもそれぞれ着々と出動の準備を進めてる。


私も準備しなくては。いつ敵がここに来るか分かりませんし。そう思って立ち上がると視界に混乱している見習いの姿が見えた。


あ、そうでした。彼はこんなことというか全てが初めての体験でしょうし、私がしっかりと教えなくてはいけないというのにダラダラと。いけないですね、しっかりしなくては。


そう思って立ち上がり上に仕事着白い羽織り。ロゴが背中入りを羽織る。うん、これで良いでしょう。


「な、なぁこのダンボール。中身って何だ? 何か音がするんだけどよ。」


と、ソワソワして聞いて来る見習い。え、音がする⋯⋯? それに思わず目配せを送れば察して見習いを守る態勢を取る破天荒。


「開けてみますよ。」


そう言って私はダンボールをそっと触―――

「ま、待て。ッ私がやる。」


と、ドアを開け息切れをしながら言う姉さんが入って来た。走ったのか肩で息をしていらっしゃる。それを聞き、私はそっと手を戻して下がる。そして姉さんがヨロヨロとよろめきながらダンボールに近付いていく。さて、唯の荷物か。それとも何か別のものか。


「開けるぞ。」


と、姉さんが言いながら慎重な手付きでダンボールを開封していく。すると


「これは―――何かの液体?」


と、言いながらポケットから出した手袋をし瓶を手に持ちじーっと観察する姉さん。んー、何ですかね? そう思って近くでよく見ようと近付いて行く。するとダンボールには時計も入っていた。ホッ、何だ時計ですか⋯。


「これの差出人って誰なんだ?」


「あ、あー。何か仕事場の目の前に置いてあって。邪魔だったんで取り敢えず持って来たんっすけど。」


と、姉さんの質問に答えるダルいおモヤシ。え⋯⋯? 私達が来た時にこんなダンボール見かけませんでしたけど。そう思っていると


「じゃあ、このダンボールはたった今ここに届いたってわけだ。」


と、姉さんが瓶を観察しながら言う。そうですよね。普通に考えてダルいおモヤシが来た時にあったということは破天荒が報告に来た時はなかったことになり得ます。そしてダルいおモヤシが見つけてここに運ぶまでの時間はそんなにかからなかった筈。この大きさなら。


そう思って私は慌てて窓を見る。でもここからじゃ下は見えません。そう思って私はここを飛び出そうとドアを開けた。


すると姉さんに「上になったんだろ? じゃあ実力を見せて貰おうか。」と言われて私は一旦止まり姉さんの方を振り返ると私を見てニヤついていた。そうでした、指示を出すの、冷静にやるのは私の役目になりました。⋯受け継いだのならば、しっかりやらなくては。


「姉さんは成分の解析。」「了解だ。」


「ダルいおモヤシは周辺の情報収集。」「分かったっす。」


「見習いは私について来て下さいな。」「え、見習いって俺のこと?」「他に誰がいると言うのですか? 私はあなたを見て言っていますけれども。」「あ、うぅ。⋯⋯わ、分かったよ。」


「破天荒は遠くから私と見習いを見守って何か気付いたら知らせる役目。それと私と特に見習いの護衛。」「了解。」


と、それぞれを見て要事項だけ簡潔に伝えた。わ、私上手く出来ているでしょうか? そう思っていると


「あぁー、その⋯早く行こうぜ!」


と、何故か居心地悪そうに言う見習いに何だか私はおかしくなり「へぇ、まぁそうですね。」と、若干笑いながら返した。


「な、何がおかしいんだよ!」


「いえ、別に。ほら、行きましょう見習い。さもないと逃げてしまいまし。」

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「私に紡ぎを! 人騙しを! それが⋯趣味という名の仕事ですから。」 明日いう @Ss2s_yu0U50O5te7k_z

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