【過去】



ウオォォーオォォォ……


 ウウウウォォオオオオー……


「おぉ、島神様がお喜びじゃ! この度の契りで男船島はますます栄える事でしょうな!」

「これが、話に聞く……」

「えぇ! えぇ! 島神様の声ですじゃ! 島の皆も喜ぶ事でしょう!」





「宵、お前には島神様の事を話しておかねばならぬ」

「お聞かせ下さいませ、旦那様」

「うむ。この島には神様がおわす。我々は島神様と呼び、日々感謝を捧げておるのだ」

「それが、港にある祭壇なのですね」

「うむ。この島の炭鉱は島神様のおぼし召しだ。今後ますます発展するであろう」

「おかげで女港島の働き口が増え、兄も喜んでおりました」

「うむうむ。……ふふふ、島神様はたいそうお前を気に入った様子」

「……光栄でございます」

「これならば子供達も寵愛を受ける事が出来る。女としての役割、しっかりと果たせ」





「気に食わないねぇ、あの女」

「本当にね、余所者のくせにでかい顔して」

「ふふ、貴女の旦那もあの儚い様相に腑抜けてるものね」

「……ねぇ、子供出来なくしようか」

「あんた、何考えてるのさ」

「五百蔵の跡継ぎを生めば、あの女に手が出せなくなるわよ」

「それは嫌だわ」

「でしょう? おばばから教わった薬、使っちゃおうか」

「じゃあ、そうしましょう」





「喜べ、宵! お国がこの島を拠点化してくれるそうだ!」

「まぁ! おめでとうございます!」

「うむ! 石炭の量が増えたからな、本土から多くの人足が訪れる。忙しくなるぞ」

「……あの」

「もちろん、お前の故郷からも多くの者を雇い入れよう」

「ありがとうございます」

「うむ。しかし……なかなか子ができぬな」





「この石女め! さんざん目をかけてやったのに!」

「ぎぃっ⁉ おゆ、るし下さい! 旦那様!」

「俺が本土の連中から何と呼ばれてるか解るか? 種無し、だぞ! こいつめ!」

「げふっ! いだい! がふっ⁉ お腹、が!」

「喜助様! 奥様は島神様に愛される存在です、それ以上は」

「……ふん! 逆にそれが枷になるとはな」





「喜助様、よろしいでしょうか?」

「どうした、たま子」

「宵様ですが、要は子が生まれれば良いのです。ならば人足達に……」

「……止む無しか」

「宵様の血の繋がった子であれば、島神様も何も仰らないかと」

「うむ。……だが、それで生まれた子は跡継ぎにはせんぞ」

「えぇ。御跡継ぎはこのたまにお任せ下さい」

「はははっ、こやつめ! ただ、石女とは言え扱いには気を付けよ、島神様の怒りを買わぬようにな」

「……畏まりました」






「うん? なんだ、この汚い人形は」

「真っ黒じゃねぇか、汚いな」

「本土組のじゃねぇか? 残してきた子供が作った奴だったりしてな」

「大事なモノじゃないか。じゃあ、火種にしないとな」

「がはは! 燃やせ燃やせ!」



「……お兄、様」


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斯くして彼は異能となった セクシャルバイオレット後藤 @angil510

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