05

 陽向の死体は庭に埋めることにした。

 そのままだと寂しいだろうと思い、向日葵畑に行って一本盗んできた。深く深く穴を掘り、陽向を寝かせて腹の前で指を組ませた後、向日葵を顔の近くに置き、土をかぶせた。

 翌日、自分から交番に行き、弟が帰ってこないのだと相談した。お金もなくなっていると嘘をついた。中学生が行方不明になったということで、それなりに人員を割いてもらったようだが、うちの事情は地元の誰もが知っていた。きっと家出したのだろう、と事件にはならなかった。

 俺は無事に公務員試験に合格した。あの日つけた傷痕のせいで、長袖しか着られなくなった。慌ただしい日々の中で、陽向のことを考えることも少なくなったが、彼を殺した八月二十日には、毎年実家に戻った。


「あれから十年だな、陽向」


 俺は縁側に座り、土を眺めながらタバコを吸った。陽向の捜索のポスターはまだ交番に貼ってあったが、すっかり色あせていた。住人たちの話題にのぼることもなくなった頃だろう。

 タバコを吸い終わり、線香花火に火をつけた。パチパチと弾ける火花を見ていると、あどけないあの笑顔を思い出すのだ。


「殺人犯の俺が、税金の取り立てやってるんだぞ、今。おかしな話だよな」


 なぜ、陽向が俺を殺そうとしたのか、本当の理由はわからない。陽向の想いに最後まで応えてやっていれば、結果は変わっていたのかもしれない。でも、それも過ぎたことだ。

 死後の世界はあるかどうかわからない。あるとしたら、陽向はずっと待っているのだろう。あいつは執念深い性格だから。

 線香花火が落ち、俺はまた、タバコを吸った。

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向日葵が揺れる 惣山沙樹 @saki-souyama

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