第22話 潰えた先


アテラの言葉にソフィリアは酷く驚嘆する。


「残っていないというのは、一体どういう事なのでしょうか」


動揺、混乱、動乱…似た感情がソフィリアの体を蝕み、支配する。

瞬間的な高揚が、瞬時に絶望へと凝華する。


「余にも分からない…こればかりは自分の力で変えられるものではないと、分かっている」


「それではどうして…アウロラに?」


何故、力を失くした神が一世一代の戦いに乗り込もうとしているのか。


「なにかヒントを得られるかもしれないと…」


「正気ですか?」


力強くも、冷徹で冷酷な一声がアテラの声音をかき消す。


「もし負けてしまえば天界は無くなってしまう、その“もし”があってはいけないんです」


「だけど、余だって役に立ちたい……」

「皆の手助けをしたいのじゃ」


「言葉を選ばずに言うと、今のままでは足でまといにしかなりませんよ」


刹那、ソフィリアの鋭利な刃がアテラという存在を切断する。

アテラの顔は徐々に青ざめ、瞳は涙で埋め尽くされていく。


またやってしまった。これで何度目だろう。

そんな言葉がソフィリアの体中を巡り続ける。他者を傷つけ、その度に自分自身をも傷ついたあの日の後悔が押し寄せてくる。


「私って…本当に最低ですね」


心の中に秘めていた憎悪が、嫌悪が少しずつ内側から零れていく。それが言葉となり、態度に現れ、ソフィリアを支配する。


「何やら揉めているようだな」


そんな最悪の状況の中、厳たる唯一神が空気を一新させる。


「ゼノン様……」


「たまたま話が入ってきてな、事情は理解している」


ゼノンは静かにアテラに歩み寄り、自身のハンカチを手渡す。


「ゼノン……」


「これはソフィリアだけに負担を掛けた俺の落ち度でもある、気負わせてすまなかった」


「いえ…そんなことは」

「アテラ様、言葉にかなり棘があったことを謝罪致します。感情的になってしまい恥ずかしい限りです」


深深と頭を下げるゼノンにソフィリアは平静を取り戻す。

謝罪の言葉を述べるソフィリアにアテラは見苦しいものを見せたと笑って返した。


「そして、アテラに提案がある」


「……聞かせて欲しい」


アテラは顔を上げ、力強い眼でゼノンを見つめる。


「その場しのぎの方法だ、解決までの道のりを俺が作ろう」


「その場しのぎの方法……」


「簡単な事だ、俺の持つゼーレを半分お前に託す。そうすれば天光あまびかりノ力がなくても少しは戦うことが出来るだろう」


「ああ…戦うことは出来るが、主はそれでも良いのか?」


アテラの問いかけに、ゼノンはどこか遠い目を向け、言葉を噛み締めるように紡ぐ。


「当たり前だ、いつの日かの恩返しをここでさせてくれ」


かくして十人目の出場者は光を司る神 アテラに決定した。


それから更に数日後、大天使エルからメッセージか届いた。


「珍しいこともあるものですね……」



『昨日の件についてだが、ミラにはある情報を与えた。いつか必ず知ることになるため、早い方がいいだろうという判断からだ』


メッセージの内容からミラに関してのことだが、“情報”というのは見当も付かなかった。


「情報……私には分かりかねますが、よくないことであることは確かなようです」



“アウロラ”まで残り10日。





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アルカナの夜明け @lifeguard0421

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