第21話 現状

第21話


悪神ナイトメアに関するデータ、詳しくお聞かせ願いたいです」


「ああ、外部には流れていない…言わば機密情報のようなもので大雑把だが役に立つ部分もあると思う」


エルは自身の机の引き出しから一冊のホルダーファイルを取り出し、ソフィリアへと手渡す。

中には数枚の写真、いくつかの記述が見受けられる。


「これって……」


写真の中には目に写っているものを疑い、否定したくなる一枚が存在した。


悪神ナイトメアを先導していたフードの女…はっきりとは認識できないがソフィリア、お前に似ている」


「そ、そんな私……」


銀髪の髪に紅色の鋭い瞳、写真に映るフードの女はソフィリアに酷似していた。


「俺自身、ずっとお前を見てきたからにわかには信じられない。だがあえて聞かせてもらう、お前は誰だ?」


「私はソフィリア…天界で管理職を務めています。そしてシードの方々の側近でもあります」


エルのげんたる瞳が遺憾無くソフィリアに向けられる。

対して冷静かつ穏やかに、内なる焦りを隠すように開示できる情報を包み隠さず列挙する。


「よく解った……こちらとしても未だ調査は続けているつもりだ。お前ではないという証明をするために」


「ありがとうございます……」


写真の女はソフィリアによく似ている。ただそれを否定したくても否定しきれない、その事実がもどかしく心を乱していた。



それから約二日後、“アウロラ”まで残り二週間を切った今日、意外な人物…神がソフィリアへと尋ねてきた。


「やっほ」


ドアの前には美しい黒色の髪の毛を持つ天真爛漫な女神 アテラが佇んでいた。

ただ、いつもより心做しか表情が暗く、悩んでいるような様子であった。

アテラには似つかわしくない表情の重さに違和感を持ちつつ部屋へと招いた。


「今日は一体どのようなご要件で?」


最近は来客が多いため、紅茶を入れるのもこれで何回目だろうと心の中でため息をついた。


「ソフィ…ご飯に合うおかずってなんだと思う?」


神妙な面持ちで語り始めたのはご飯にどのおかずが合うかという問いかけであった。

否、わざわざアテラがそんなどうでも良いことでここを尋ねるとは思わなかったため、再度問いただす。


「今日は一体どのようなご要件で?」


少し怒気を含んだ声音でアテラを一蹴する。

アテラは縮こまった様子でソフィリアをチラチラと見ていた。


「あと、何枠ある?」


「はい……?」


「“アウロラ”、あと何枠あるかって聞いておるのじゃ」


アテラの質問に追いつかなかった理解が徐々に脳内を巡り始め、困惑という結果が生まれる。

まさかアテラの方から“アウロラ”に出たいと聞くことが出来るとは思ってもみなかったからだ。


「枠数としては三枠残っています」


「ほう、それじゃあ…余が出てやらんこともない」


頬を完全に赤く染めあげ、顔を伏せる。


「すごく助かります、アテラ様がいれば百人力、いえ千人力と言った所でしょうか」


光を司る神 アテラという呼び名は決して誇称などではない。かつてニホン町に現れた大量の悪魔達をたった一神で抑えた力を有していることが事実だ。

それを可能にしているのは“天光ノあまびかりのちから”、光の神だけが持つことを許された崇高で最強の力。この力はアテラの威厳そのものでもある。


興奮が抑えきれないソフィリアと対照にアテラの表情はどこか落ちているようだった。

しばしの沈黙後、アテラの重機より重い口ぶりから重く伸し掛る“現状”を聞くことになる。


「ソフィ、余にはもう天光ノ力が残ってない」

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