マンボウとユートピア 〜 少子高齢化社会は不幸か 〜

無名の人

マンボウとユートピア 〜 少子高齢化社会は不幸か 〜

子どもの頃からマンボウが好きだ。と言っても、食材としてでも観賞用としてでもなく、「存在そのもの」が好きだ。どれぐらい好きかというと、写真や映像で見なくても、頭の中でマンボウのイラストを想像するだけで幸せな気分になるくらい好きだ。(若い頃から幾度となく「マンボウのイメージ」に癒されて魂の安らぎを得てきた。)


最近、ふと「マンボウは幸せなのだろうか」と思った。魚類であるからには「星の数ほど多く産卵して、おそらく99%以上は「マンボウ」になる前に誰かの餌になってしまうのだろう。生態系とはそういうものだとわかっていても、稚魚のうちにあの世に行ってしまった数多の同胞を思いながら大洋を漂っているマンボウの目が、何となく深い哀愁に満ちているような気もしてくる。


学生時代に「楢山節考(1983年・今村昌平監督)」という棄老伝説を題材にした映画を観たことがある。いわゆる「姥捨山(うばすてやま)」の話である。前近代の貧しい農山村で極限状態に置かれたとき、ヒトはヒトの「社会的処分」をせざるを得なかったのであろうか。近代以降は伝説のような「あからさまな処分」はしづらくなったようであるが、「戦争」や「発展途上国の飢餓・貧困の放置」といった形で、「実質的な処分」は続いていると考えることもできる。歴史的視点からは間違いなく「豊か」になったはずの人類が今なお「社会的処分」を必要としているように見えるのは、食物連鎖の頂点に立つものの宿命(原罪)なのだろうか。(個人的には「ヒトの天敵はヒトである」などと思いたくもない。)


近年のライフサイエンスやロボット工学の進歩には目を見張るものがある。ローマクラブのレポートを読まなくても、エコノミスト諸氏が前提とする指数関数的な「永遠の成長」など「無理ゲー」であるのは、「ねずみ講 = 無限連鎖講(ネットワークビジネスの類)」が早晩破綻するのと同じくらいに自明であろう。21世紀の我々が目指すべき社会は、100年なり150年なりの「生物学的天寿をほぼ全員が全うできる社会 = ユートピア」ではなかろうか。半世紀前には夢物語と思われたことも次々と可能になり、少なくとも「貧困や病気で早死する人」の割合を驚異的なスピードで低下させることが出来そうである。問題は、個人なり集団なりが継続的に年率数パーセントで「経済成長」を続けることが善であるという「信仰」かもしれない。


いくつか乱暴な仮定をおいて「計算」してみると、①「マンボウ型社会」、②「社会的処分に依存する社会」、③「皆が生物学的天寿を全うする社会」の子ども率(全人口に占める0〜15歳人口の割合)は、それぞれ、① 99%以上(産卵後、無事に成魚になるのが1%以下であると仮定)、② 30%(生物学的人口が100年かけて一次関数的に減少、70歳で残存する全数を「社会的処分(棄老)」と仮定)、③ 10〜12.5%(ライフサイエンスの進歩によりほぼ全員が120〜150年の天寿を全うすると仮定)になる。SFじみた話に聞こえるかも知れないが、「皆が長生きして天寿を全うできる豊かな社会(= ユートピア)」の子ども率(限界子ども率と定義する)と2020年の日本の子ども率はほぼ同程度である。


政府の統計(国際比較)によれば、2017〜2020年時点で、日本(12.0%)ドイツ(13.6%)中国(16.8%)アメリカ(18.6%)インドネシア(24.8%)フィリピン(30.6%)インド(30.8%)パキスタン(41.6%)ウガンダ(45.6%)である。また、時系列的にみると、日本の総人口(子ども率)は、1950年:8,320万人(35.4%)/1965年:9,827万人(25.6%)/1970年:10,372万人(23.9%)/2020年:12,593万人(12.0%)のように推移してきた。1950年の数字は、戦争という大規模な「社会的処分」の反動としての「ベビーブーム」に伴う「異常値」であろう。振り返ってみても、私が幼い頃の日本は総人口1億人足らずだったのだが、それほど不幸な社会だったようには思われない。単に「皆が若かった」だけである。また、数十年後に、「皆が長生きして豊かになった」ことが問題視されるようになるとは誰も思ってなかっただろう。まるで「手の込んだペテン」のようであるし、実際そうかもしれない。


2022.6.5

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