コンビニ弁当を食べていただけなのに……
七倉イルカ
第1話 三色弁当
ふと思い出したので、書いてみる。
20代後半のころ、とある小さな会社で、外回りの仕事をしていた。
昼食は、外で済ますことが多かったが、タイミングによっては、会社に戻ってから食べることもある。
そういう時は、近くのコンビニで弁当を買って、会社の会議室で食べた。
その日は、会社で食べることになった。
コンビニで買ってきたのは、そぼろ、炒り卵、ホウレン草(だったかな?^^;)で出来た三色弁当。
会議室に入り、さあ食べようとしたとき、事務員のAさんが入って来た。
Aさんは、一ヶ月ほど前、途中入社してきた年下の女性。
私が会社に戻っているときは、多少話をするけれど、それほど親しいわけでは無い。
上の人間から聞くと、良いところのお嬢さんらしい。
良いところのお嬢さんは、こういう小さな会社に勤めないのではと、多少疑問に思ったが、おっとりした喋り方や、スレていないところは、そういうご家庭で育ったんだろうなと想像させた。
Aさんが言うには、いつもお弁当を作って来て、会議室で食べているらしい。
と、Aさんは、私の食べる三色弁当に興味を持ったようだった。
「三色弁当ですね」
「うん」
「美味しいですか?」
「いや、コンビニのお弁当だし、普通だよ」
「どこで買ってきたんですか?」
「駅に向かって歩いたら、左にあるコンビニ」
大体、こんな会話を交わした。
そして、翌日。
その日も、会社で昼食をとることになった。
コンビニで買ってきたのが、何の弁当だったのかは覚えていない。
ただ、三食弁当では無かった。
会議室に入り、さあ食べようとしたとき、Aさんが入って来た。
昨日と同じである。
しかし、Aさんは、布製のお弁当袋ではなく、コンビニの袋を手に持っていた。
「買ってきたんです」
そう言ったAさんは、嬉しそうにコンビニ袋から三色弁当を取り出した。
昨日、私が食べていた三色弁当が、よほど美味しそうに見えたのだろう。
私が自分で買ってきた弁当を食べ始めると、向かいに座ったAさんも、三色弁当の蓋を開け、一口食べた。
「…………」
一口食べ、しばらくすると、私に複雑な笑みを向け。
「へへ」と小さく笑って、三色弁当のフタを閉じ、コンビニ袋に戻す。
そして、一口だけ食べた三色弁当を持って、会議室を出ていった。
よほど、コンビニ弁当の味が口に合わなかったのだろう……。
なんだろう、このやり場のない屈辱感wwww
腹が立つんじゃなくて、屈辱w
いやあ、Aさんは悪くないよ。
美味しく無い弁当を無理に食べる必要はないしね。
そもそも、当時のコンビニ弁当は、そんなに美味しくなかった。
だから、私も、「普通」と答え「美味しい」とは言っていない。
うん。このあたりはしっかりと覚えている。
Aさんに悪意は無かったと思う。
失礼であったかも知れないが、それでも、無理に食べることはしなくていいと思う。
でも、なんと言うか、嫌あな気持ちで、残りの弁当を食べましたよw
コンビニ弁当を食べていただけなのに…… 七倉イルカ @nuts05
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