第2話 地蔵盆 その2

 虚ろに外の景色を眺めるだけの様に見えた彼女の目は、何を見るわけでもなくただぼんやりと記憶の中の景色を追っていた。


 彼女の脳裏には、つい半年前に亡くなった歳の離れすぎた父親の姿がおぼろげに浮かんでいる。それは幼かったあの頃、毎年のように父に連れてもらった地蔵盆の記憶である。


 ――どうして忘れてたんやろ……。


 確かその時、父に地蔵菩薩は子供の守りぼとけだと教えてもらったのだ。それが母のいない彼女にとって、とても嬉しい事の様に思えてならなかったと言うのに……。しかし彼女は取り戻した記憶の余韻に浸ることも無く、むしろその記憶を否定でもするかのように、一人寂しげに呟いた。

 

「でも……今はこんなに大きくなってしもて、もうお地蔵さんは私のことなんてまもってくれへんのやろな……。」

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古美術鑑定オカルトはお断り 鳥羽フシミ @Kin90

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