調和戦争

虎威 借太

第1話~恨みと始まり~

「私は‥」

それが最後の言葉だった。

バタバタと落ちる紅い雫それは心臓から噴き出たものだった、その奥に倒れる女性の影。

私は鼓動が加速した。

呼吸が乱れ訳も分からず眼から涙が出る。

荒い呼吸、速い鼓動を維持したまま飛び起きた。

「今の‥夢?」

恐怖で放心していた所に妹が来た

「お姉ちゃん‥?大丈夫?」

その声で鼓動はさらに胸を打ち付ける、だが妹のリマの顔を見ると少し鼓動の高鳴りが収まった。そして、一つの心当たりを胸に閉じ込め仕事に向かう。彼女はナナこの国のある小さな街の医者であった。

───ここは大帝国ダンビア───

この世で最も栄えた国であり、技術の高い国だ。

同時に世界で最も嫌われた国。

ダンビアは数々の国と戦争をしていた、兵の個々の強さ、技術力、指揮、全てにおいて他の国と一線を画し群を抜いていた。そして数々の国を配下とし恨みを買い敵対国を増やす一方だった。

───

「先生診察して欲しいって方が…」

日も高く上がった昼下がり、昼食を摂っていると早くも午後の診察に呼ばれた。慌てて支度し診察室に入る。既に小柄な少年が椅子に腰掛けていた。早速始めようと聴診器を取り少年の心音を聴こうと目を閉じる。

ドクン ドクン

そして、浮かび上がる今朝夢で見た情景、夢であると思っていた情景。

それは『未来』ただそれだけの事だった。

ナナは昔、予知夢をよく見ていた、だが10年前にキッパリと見れなくなってしまった。だが今、何故かまた予知夢を起源とし今度は目を閉じるだけで見えてしまうまでに暴走していた。

診察を取り乱しながらも無事に終え、友人の看護婦と話していた。

「未来?何の話?」

友人の反応は分からないの1色だった。でも、それが普通の人の反応だとナナは割り切って話を続けた。

「私、昔予言が得意だったの…ってそんな話じゃなくて!今日か明日に絶対誰か襲われる!!」

「人が亡くなっちゃう…」

「と…とにかく、一回落ち着こ!」

看護婦がなだめる。

それによりナナは落ち着こうと目を閉じる。

ドクン

再来する予知⋯

逃げる女性の顔が影から晴れる

妹のリマであった。

心臓が張り裂けそうになるほど加速する鼓動、喉に込み上げてくる禍々しい空気、声を出そうにも出ない、汗が一つ二つと増えていく、そんな中声を絞りだした。

「もしかして…リマ…?」

「え?リマって妹さんの…」

ナナの血の気が引いた青い顔を見ながら友人は恐る恐る聞いた。しかし、ナナは聞こえない。自分の妹の命がかかっている、たった一人の妹が居なくなる…それを放っておく訳にはいかなかった。

それを察したかのようにある組織が動く。

「ティーク将軍、他の将軍がお待ちです」

「ああ…」

右目は髪で隠し左目には縦に傷のある男が部屋に入る。中には三人の男が円卓に座り大柄の男ティークを待っていた。

「おせぇぞティーク!!」

開口一番に怒号を飛ばした黒髪を後ろで束ねた男はカシキ。その横でカシキを嫌悪の眼で見ている金髪は弟のハルである。

「まぁええだろ」

そう気楽にカシキをなだめる美豆良の様な髪をした男はファンス。ティークと同期であり気の知れた仲。

「どうした?いきなり集めて、最近戦争なくて暇なんだよ!戦争で活躍してこその将軍なのによ!」

目立った戦のない時期に将軍になったのもあり偏見が混じるハル。それには目もくれず呼応する様にティークが続ける。

「そんなお前達に良い知らせがある」

「俺らに仕事が入った」

「え!!戦争?」

キラキラと目を輝かせ反応したのはハルとカシキだった。戦争が生半可なものではないと知っているファンスは眼の色を変え聞く。それをティークは見逃さなかった。声色を変え落ち着いた様子で話し出すとカシキ、ハルも気を引き締め聞き耳を立てた。

「DGUが復活した」

「DGUが復活した!?」

反応したのはファンスだけだった、それもそのはずDGUが以前存在した時はカシキとハルが幼かったそのため知らなくても無理は無い。

DGUそれはダンビアに恨みを持った国々同士が結託し合った組織。(D:damvia G:grudge U:union)(ダンビア怨恨連合の略)

「でもそれって1回お前が滅ぼしたんじゃなかったか?」

「なんで今更…」

「さぁな」

「だが復活した以上俺らがまたDGUの殲滅をしなきゃいけないだろう」

「いつ始まるかも分からん戦いに備えるぞ!」

「この国の将軍として四将軍として!」

一斉に席を立つ四将軍、この一言で士気が上がる。

木が生い茂る道を淡々と1人で歩く一人の女性。身の丈に合わない妙な羽織を着た彼女に話しかける。

「おい!そこの女」

「あんたが若山姥か?」

「あ?」

「私に挑む気か?やめとけ骨折じゃ済まねぇぞ今機嫌が悪いんだ」

「いや俺はお願いをしに来た」

「は?」

黙って話を聞く彼女、聞き終わっても黙りこくって返事が無い。五分程経った頃だろうか小さな声で返事をした。

「面白そうだ、やってやるよ」

その了承は頼もしいものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

調和戦争 虎威 借太 @toraishakuta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ