後編(視点変更あり)

 その日の午後、俺たちは魔王様と遭遇していた。決して俺たちが2日分の距離を半日で踏破した、とかじゃない。むしろアリアちゃんに合わせてゆっくり目に移動していたから、あと3日はかかると思っていた。待ち構えていたかのように何もない道中に魔王様とその部下らしき人が複数人いた。急なことに驚いたのかアリアちゃんは俺の制服の裾をぎゅっと握っていた。


 ...ちなみに、服はこれしかないけど、生活魔法で騙し騙しやっている。生活魔法は小規模な魔法で、身体や周囲を綺麗にしたりできるものだ。毎日お風呂に入れて、服も綺麗になってる日本は素晴らしい場所だったんだと実感している。


 「...アリア。無事、だったんだね」

 「...魔王様」


 会話が始まったみたいだから、現実逃避はこのくらいにして俺も作戦通りにやらないと!


 「ところで、そちらの方は?」

 「...この人は」

 「おっと!仲良く話してるところ申し訳ないけどね...」


 アリアちゃんが答えようとしているところに俺は無理矢理割り込んだ。そしてアリアちゃんを魔法で宙に浮かべた。


 「俺は魔王の首を取りに来たんだよ。...でもまぁ、人間の国王なんて誰が魔王か分からないだろうから、ア...ゴホンッ!コイツの首を身代わりにしてもいいぞ?」


 ...危ない危ない。うっかり名前で呼んじゃうところだったよ。けど、どうにかなったかな?俺は丁度あった演劇スキルを使って意地汚い表情を意識して魔王様の方に視線を向けた。


 少しの間沈黙が続いた。俺が魔王様に突きつけた条件はシンプルで、自分の命と娘...アリアちゃんの命のどっちが大切かということだ。もし、自分の命を選んだり攻撃してきたりしたらアリアちゃんを連れてどこかに行く。もし、アリアちゃんの命を選んだら、どうにかして俺だけが消える。...まぁ、これはアリアちゃんには伝えてないけどね。


 「...分かった。ならば我の首をやる。だが、その前に2つお願いしたいことがある」


 やっぱりアリアちゃんの命の方を選んだか。魔王様とアリアちゃんはすれ違ってただけなんだね。アリアちゃんの居場所はちゃんとあるんだから。既に死んだ俺と違って...。


 「話してみろ」


 だから、せめてアリアちゃんの心残りが無くなるように俺にできることをしないと。アリアちゃんと一緒だったこの一ヶ月、すごく楽しかったから。だから、そのお礼。この役割をしっかり果たしていくよ!


 「まず一つ目はアリアを含めた国民には手を出さないでくれ!」

 「構わ「待って下さい、魔王様!」...?」


 俺が返事をする前にそれを遮る声がした。チラッと声が聞こえてきた方を見ると、1人の女性の姿があった。水色の髪に黒いドレスのようなワンピース、それから黒い羽が生えている。耳のところからも黒い羽のようなものがある。


 「カナデさん!?止めなさい!」


 へ〜。カナデさんって言うんだ。近くで見ると人間離れしたほど美しい容姿をしていた。透き通るような肌、サラサラの長い髪からは心なしか良い匂いがしているような気がする。


 「いいえ、止めません!私たちには魔王様が必要なんです!...お願いします!私はどうなっても構わないので、魔王様を助けてください!」


 そう言ってカナデさんは俺に向かって深々と頭を下げた。すぐにでも大丈夫だと伝えたいけど、今この演技をやめるわけにはいかない俺は彼女を無視して魔王様と向かい合った。


 「一つ目の願いは了解した。それで?二つ目は?」

 「...あっ、はい。少しの間でいいので、アリアと会話させてもらえませんか?」


 ...これなら、俺もアリアちゃんに最後の挨拶ができるのかな?もう、この国には居られなくなりそうだから。


 「...分かった。だが、場所はこっちで決めさせてもらうが構わないな?」


 本当ならここでもいいけど、なるべくなら人がいない方がいいからね。きっと、これがアリアちゃんとゆっくり話せる最後の機会になるだろうからね。...神様が用意してくれたのかな?


 「それでいい。今から頼めるか?」

 「了解。じゃあ、行くか」


 俺はそうして転移魔法を発動させた。その時に、念話でカナデさんに大丈夫だと伝えておいた。このままだと罪悪感がずっと付いてきそうだったから。だから、膝を着いて涙を流しているカナデさんのためじゃなくて、ただの自己満足。...うん、少しだけ心が軽くなった。



 〜カナデ視点〜


 私はカナデ。魔王様に助けられてからずっと秘書として彼を支えています。


 私が魔王様と出会ったのはある寒い日のことでした。サキュバスだった私は人間たちから命を狙われていました。サキュバスの素材は最高級のもの。


 その羽は粉状にして飲めば万能薬に、その尾を巻き付ければ恋愛成就に、その汗を浴びれば若返り、その眼球を枕元に置けば好きな夢が見られる。そんな風に言われていました。


 私が狙われたのもそれが原因でしょう。私はボロボロになって何日も逃げ惑っていました。いつまで逃げなきゃいけないのか、どうして逃げているのか、何から逃げているのか、だんだんと分からなくなってきました。


 もう尻尾も取られ、食事もまともに食べれていません。そんな気力と体力の限界の中、魔王様と出会いました。


 最初は他の人たちと同じで私を殺しに来たと思いました。私では絶対に勝てない、そのことが分かるくらいには沢山の命の危険を潜り抜けてきました。私にはもう抵抗する気持ちもありませんでした。どうして生きているのか分からない私は、いつの間にか死にたいと願うようになっていました。


 「...何か困ってるの?」


 目を閉じた私にそんな優しい声がかけられました。私は驚いて声のした方を向きました。


 「!酷い怪我。とりあえず、家に来なよ」


 顔を上げると彼は目を見開いてそう言ってくれました。私は差し出された手を取って立ち上がりました。その手はとても温かく、じんわりと優しさが伝わってくるみたいでした。


 力が全てと言っていいような魔族の中で、弱者にも手を差し伸べられる彼はすごく優しい人なんです。それでも、そのときの私は歪んでいて、好意を疑ってしまいました。もしかしたら、どこか別の場所に連れて行くための方便なんじゃないかって...。


 「...えっ?ここ?」


 彼に連れてこられたのは想像してたような誰もいない地下やら薄暗い裏路地やら、ではありませんでした。正反対と言ってもいいような、立派なお城が目の前にありました。


 「誰か!誰かいるか!」

 「ゼ、ゼスト様!?しょ、少々お待ちください」


 彼の言葉を聞いた門番さんは慌てて城の中へ入っていきました。それから2、3分くらいして、中から1人の執事服のようなものを着たお爺さんが出てきました。


 「おかえりなさいませ、お坊ちゃん」

 「ああ、ただいま、セバス。それと、彼女の手当てを頼めるか?」

 「ふむ...」


 彼がそう言うと、お爺さんは私の方に視線を向けてきました。もう、私には何が何だか分かりません。


 「なるほど、サキュバスですか。...お坊ちゃんには覚悟がありますか?彼女を一生守ると。中途半端な気持ちならこのまま殺してあげた方が彼女の為になります」

 「覚悟ならとっくにできてるぞ。我の手の届く範囲なら絶対に助ける。マリーとアリア...大切な家族を持ったときにな」

 「...お坊ちゃんには不要な気遣いでしたね。かしこまりました。では、そちらの方もどうぞこちらへ」


 いつの間にか私抜きで終わっていた話し合いの後、城の中に案内されました。そこは今まで味わったことがないほど温かな場所でした。そこで私は決意しました。何があってもこの人たちを守れるように強くなりたい、と。


 それまでの私は死んだも同然で、新しい自分に生まれ変わったのです。いつ死ぬのかばかり考えてた私は、明日何をするのかに変わりました。死にたいと思ってたのが生きたいになりました。


 だから、私の命は彼のものです。生まれ変わった私の全ては彼のために...。


 私は強くなって、ついに彼の、魔王様の秘書になることができました。これでいつでも側で守ることができる、そう思っていました。だけど、私はまだまだ無力だったのです。


 マリー様が亡くなって、アリア様まで行方不明になってしまったときに、私は何もできませんでした。守れなかったのです。


 それからアリア様が見つかったと報告がありました。私はすぐに魔王様に伝えました。慌てて向かった先にはアリア様がいました。...人質にされて。


 そこから先のことはほとんど覚えていません。魔王様が連れ去られそうになって、私は必死に止めようとしたはずです。でも、魔王様は居なくなりました。また、守ることができなかったのです。弱い私は何も守れません。悔しくて、情け無くて涙が出てきちゃいます。


 それでも、最後に大丈夫だと聞こえたような気がしました。その声は私の心にじんわり広がっていきました。不思議と信じられるような優しさに溢れていました。


 もしかしたら気のせいかもしれません。私の望みが幻聴となっただけかもしれません。でももし神様がいるのなら、私の大切を奪わないでください。私の生きる希望を...。



 〜カズキ視点〜


 そして俺たちは一番最初にアリアちゃんと出会った草原に来ていた。あの日からもう一カ月なのか、まだ一カ月なのか。でも、楽しかったのはアリアちゃんのおかげなんだよね。


 「...アリア。元気でな。ちゃんとご飯、食べるんだぞ。健康にも気をつけてな」

 「...うん」

 「困ったらカナデさんや周りの人に頼るんだ。それから...」

 「...ねぇ、魔王様はどうしてアリアたちと一緒にいてくれなかったの?」


 俺が着いたときにはもう話し合いが始まっていた。もう部外者の俺が立ち入れることなんてなかった。後はアリアちゃんが父親としっかり対話するのを見守ることしかできない。それが少しだけ虚しいな。


 「それ、は。...アリアを悲しませたくなかったから。普通の女の子としての幸せを掴んでほしかった。最終的には無理でも、せめて大人になるまでは魔王候補としての生活なんてしてほしくなかった。...そう、妻とも決めていた。それまでは別々で暮らそうとも」

 「...普通?なら、家族一緒が良かった!!ママがいてパ、パパもいる。そんなの方がずっとずっと良かった!!」


 そう叫んだアリアちゃんの目には涙があった。それでも、ルビーのような瞳は真っ直ぐ父親の方を見つめていた。


 「...そう、か。やはり我は最初からずっと間違っていたのか。すまない、アリア。きちんと話し合うべきだった。こんな最後になってそんな初歩的なことに気付くなんて。...もう、何もかも手遅れだな」

 「遅くなんてない!!...今からでもアリアは魔王様と、パパと家族として暮らしたいよ!!」


 アリアちゃんはそう言って魔王様に抱きついた。...もう、大丈夫そうかな?


 「...すまない」


 魔王様はそう言ってアリアちゃんの背中をさすっていた。...最後に親子らしいところを見ることができて良かった、かな?名残惜しいけど、もう俺がアリアちゃんと話せることはないんだろうな。この世界に来て一番最初の友達のような、家族のような存在だと勝手に思ってたから寂しいけどそれが普通だから。


 「...約束を果たそう。やってくれ」


 魔王様はそう俺に声をかけてきた。...そういえば、忘れてた。今はどうやって俺が帰るかばかり考えていた。


 「...いいんだな」


 俺がそう聞くと魔王様はしっかりと頷いた。


 「じゃあ、お別れだね。楽しかったよ、アリアちゃん。元気でね」

 「待って!!」


 俺の言葉はアリアちゃんにかき消された。...後は二人を元の場所に戻してあげるだけなのに。


 「アリアはカズキお兄ちゃんとずっと一緒だって言った!!アリアの居場所になってくれるって!!その言葉はウソだったの!?...もう、家族を失うのはヤなの!!アリアの側からいなくならないでよ!!」


 そう言ってアリアちゃんは魔王様の腕から離れて真っ直ぐに俺の方へやってきた。その勢いのまま抱きついてきたけど、俺は震えているアリアちゃんの体を抱きしめ返すことができなかった。だって、それこそもう遅いから。


 「...ごめんね、アリアちゃん。俺はもうその約束を守ってあげることはできないかな?魔族のみんなに嫌われちゃったから」

 「そんなのヤ!!絶対、ぜ〜っ対に離れない!!」


 アリアちゃんはそれを行動で示すようにギュッと強く抱きしめてきた。


 「...ねえ、アリアちゃん。アリアちゃんはもう大丈夫でしょ?ちゃんと居場所があった。でも、俺の居場所はきっとないから。あんな風に王様を攫ったところでもう覚悟してたよ。もう戻れないんだって。...アリアちゃんと離れ離れになってもう会えないんだって」

 「どうして!なんでカズキお兄ちゃんも魔王様も勝手にアリアのこと決めつけるの!!相談してよ!!...それなら、アリアは国を捨てる。そうすればカズキお兄ちゃんと一緒にいれる?」

 「ふざけないで!!」


 俺はついアリアちゃんに怒鳴ってしまった。それにはアリアちゃんもビクッとしていた。...少し可哀想なことをしちゃったかな?だけど、それだけは譲るわけにはいかなかった。


 「...急に大きな声出してごめん。でも、そんなことは言わないで。簡単に居場所を捨てるなんて」


 だって、そもそも居場所がない人だっているんだから。別の世界から来た俺、みたいに。それなのに、目の前でそんな重要なものを捨てるなんて。


 「...簡単に、じゃないよ。アリアはカズキお兄ちゃんと一緒にいるためならどんなものだって犠牲にする。もし、カズキお兄ちゃんと離れるならこの命なんて必要ない。アリアはカズキお兄ちゃんが、好きだから」

 「...えっ?」

 「異性として大好き。助けてくれて、それから優しくもしてくれた。もう、気持ちが抑えきれないの」


 ...告白、されてるのか?これは、夢!?


 前世も含めて異性からモテたことなんて一度もなかった。それなのに、出会って一カ月の女の子から告白なんて全く現実味がなかった。...いや、神様に会って、異世界に来て、さらに自分自身も神様になったよりは真実味があるけどね。


 「カズキお兄ちゃん...いや、カズキさん。アリアのか、彼氏に、なって、くれませんか?」


 その声は徐々に小さくなっていったけど、はっきりと俺の耳に届いた。これは真剣に答えないといけないやつだな。


 俺はアリアちゃんのことをどう思ってるんだろう?嫌いではないのはハッキリと分かる。可愛いのは間違いないし、妹みたいだと思ってた、と思う。あんまり考えてこなかったけど、もう家族のように思ってた。たとえ自分がどうなっても守ってあげたい存在。それは間違いない。こうして知り合えたのが奇跡のような...そう、だった。俺は何を勘違いしてたんだろう?答えなんて決まってるはずなのに。


 「...ごめんなさい。俺はアリアちゃんの気持ちには応えてあげられません」

 「...どう、して?アリアのこと、嫌いですか?直せるところは直します!だから...」


 アリアちゃんは俺から離れて地面に手をついた。それは、いわゆる土下座というものだった。


 「嫌いなわけない!...むしろ好き、だからこそ受けることはできない。アリアちゃんは魔王様の娘、俺は一般人。...いや、きっと犯罪者になってるよ。そんな重しをアリアちゃんに背負わせることなんてしたくない」


 そうだ。好き、だからこそ断らないといけないんだ。こんな後ろ盾の何もない俺なんて足枷があったら、アリアちゃんが幸せになれない。もっと彼女に相応しい相手がいるはずだから...。


 「そんなのどうだっていい!!周りからの評価なんてどうなっても構わない!!...でも、もしカズキお兄ちゃんが気になるって言うなら、一緒に背負ってって言ってほしいの!!」


 ...そんなの、俺が望んでいいんだろうか?親よりも先に死ぬなんて、最大の親不孝者なのに...。


 「...アリアちゃんは本当にそれでいいの?俺には何もないし、むしろマイナスにしかならないでしょ?」

 「〜ッ!うん!アリアにとってどんなマイナスもカズキお兄ちゃんと付き合えないマイナスに比べたら天と地以上の差があるよ!」


 ...そんな風に言われたらもう断れない。だって、俺もアリアちゃんのことが好きだから。


 そして俺はすぐに抱きついてきたアリアちゃんを今度は抱きしめ返すことができた。俺の胸くらいの身長しかないこの愛しい彼女を守りたい。そう、強く思った。


 「...カズキお兄ちゃん、ドキドキしてる」

 「...そりゃ、大好きな彼女に抱きつかれたらドキドキもするよ」

 「大ッ!え、えへへ」


 アリアちゃんは照れたように微笑んだ。俺はもちろん下からそんな風に見つめられて更に心臓が早くなったのを感じた。もちろん、嬉しいけどね!


 「え〜っと、全く話が分からないんだけど...」


 抱き合っている俺たちに声をかけたのは魔王様だった。...ヤバ、忘れてた。


 「魔王様...パ、パパ。アリア、カズキお兄ちゃんと結婚するの!」

 「そ、そうか。幸せになるんだぞ。...なら、次期魔王はカズキさん?で決定かな?」

 「...えっ?」


 俺はついそう漏らしてしまった。だってそうだろ!?俺が魔王!?


 「いやいや!俺が魔王なんて無理に決まってるでしょ!第一、あんな芝居までしたんだから敵だと思われてるはずだよ!」

 「魔王は基本的に強い人だから大丈夫。我の首を持っていけば誰も反対しないよ」


 あっ!そういえばまだその誤解が解けてないんだった。


 「それは誤解ですよ!まだ魔王はあなたのままです」

 「なら、今まで通りで全く問題ないな。魔族は結果が良ければ何も問題ないって人が多いからね。それに、次期魔王なんだ。君に逆らうなんてよっぽどの馬鹿だけだよ」


 ...そう、なのかな?アリアちゃんの足を引っ張ることはないのかな?だったら、少しは安心かな?


 「...って、どうして次期魔王なんですか!?」


 前半が衝撃的?で理解まで少し時間がかかったけど、魔王なんて無理だからね!


 「だって、それなら世襲制だからね。アリアの婿なら当然だよ」


 ...それなら、納得するしかないじゃないか。アリアちゃんと付き合いたいんだから。...っと、色々あって忘れるところだった。


 「魔王様、いや、お義父さん。娘さんを俺に下さい!必ず幸せにしてみせます!」


 俺はそう言って土下座をした。初めてのことに今更だけど緊張していると、真横からも同じような気配がした。


 「お願い、パパ。アリアはカズキさんのことが大好きなの!アリアたちのお付き合いを認めて下さい!」

 「...ここは娘がほしかったら我を倒せと言った方がいいのかな?もちろん冗談だがな。...こちらこそ頼む。父親らしいことは何一つしてあげられなかったけど、娘のことが大切なんです。どうか娘を、よろしくお願いします」


 魔王様はそう言った。俺が顔を少し上げると魔王様は俺よりもさらに深く土下座をしていた。


 「頭を上げてください!...アリアちゃ、アリアは俺が必ず守ります!」

 「カズキお兄ちゃん!大好き!!」


 俺がそう言うと隣のアリアが真っ先に抱きついてきた。...えっ、何で!嬉しいけど、さ。


 「...とても仲良しなんだね。これなら安心して任せられる」


 魔王様は微笑ましそうにこちらを見てきた。...恥ずかしい〜!


 「さ、さぁ、帰るか。サリエルに。...俺たちの居場所に」

 「うん!ずっと一緒、だからね!」


 気恥ずかしくなった俺は早口でそう捲し立てた。アリアもすぐに頷いて俺の手を握ってきた。...それだけのことなのに愛しさが胸の奥から溢れてきた。


 そのまま俺たちは転移魔法で元いた場所まで戻ってきた。


 「!魔王様!?」


 真っ先に俺たちに気づいたのはカナデさんだった。その後すぐに色んな人たちが集まってきた。...魔王様はみんなに人気なんだね。


 「ご無事で良かったです!...でも、どうして」

 「...ああ、未来の息子との会話、かな?紹介するよ。アリアの彼氏のカズキさんだ」


 ワアアアアアアァァァァァーー!!


 魔王様がそう言ったら周りにいた人たちが大歓声をあげた。...本当に受け入れられた!?


 「よろしくな、次期魔王様!」

 「次期魔王様万歳!」

 「魔王様〜、遊んで〜」

 「次期、でしょ?」


 ...えっ、何でこんなに話しかけられてるの!?元の世界含めてもこんなことはなかったのに!


 「むぅ〜。カズキお兄ちゃんはアリアのなの!!」


 それに、腕に抱きついてくるアリア!...可愛いけど、流石に嫉妬させたままなのは可哀想だよね。


 「...俺の特別はアリアだけだよ」


 少し恥ずかしいけどそう言ってアリアの髪を撫でた。ピンクの髪はサラサラしてて撫で心地が良かった。


 「えへへ」


 アリアはそう言って頬を染めて笑ってくれた。それだけで俺はすごく嬉しかった。


 「ラブラブだね。ママとパパみたい!」

 「...そ、そうね」


 そんな親子の会話は俺たちの耳に入ってこなかった。


 それから俺はアリアと魔王様の3人で暮らした。俺も家族として受け入れてもらえたようで嬉しかった。


 「カズキお兄ちゃん!大好き!」


 ...きっとこれから先もずっとアリアたちと一緒にいれるんだろう。抱きついてきたアリアを見てそう思うのだった。



【完】

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【短編】異世界転移 @cowardscuz

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