【間話】アリア・魔王様視点

 〜アリア視点〜


 隣に座る優しいお兄ちゃんの方を見る。アリアにとって初めての...いや、ママ以外で初めてアリアのことを肯定してくれる人。眺めていると身体の内側からポカポカした気持ちが溢れてくる不思議な人。きっと、白馬の王子さまってこんな感じなんだろう。


 「...カッコいいな。...ハッ!」


 無意識に言葉に出たのを理解したのは自分の声が聞こえた後だった。慌てて口を押さえて隣を見ても、どうやら聞かれてなかったみたい。ホッとしたアリアは頭を預けて目を閉じた。


 早く明日が来ますように。


 そう願ったのはいつぶりだろう?ママが死んじゃって、父親だと名乗る魔王様に連れてこられた。今さら親だと言われても、納得できるはずが無かったアリアはすぐに逃げ出した。家出、になるのかな?


 それからすぐに人間たちに捕まった。だけど、生きる価値の無かったアリアは抵抗なんてしなかった。そんなのは無駄だから。


 そして、何日も歩かされていると、目の前に急に魔物が現れた。それはスライムで、決して近づいてはいけないとママから言われていた。スライムは核を壊さないといけないのに、周りが囲まれていてどこに核があるのか分からない。それに、攻撃も効きにくいし、何より毒がある。その毒は対策をしていても構わずかかるし、回復も難しい。


 アリアと一緒だった護衛たちもアリアを囮に逃げようとしていた。それが普通のことなんだ。...ああ。どうして神様はアリアにこんなに厳しいんだろう?アリアが悪い子、なのかな?


 パキンッ!


 ...えっ?死を覚悟したのに、そんな甲高い音が聞こえてきた。そして、アリアに男の人が覆い被さっていた。...守って、くれたの?


 「も、もしかしてどこか痛むの!?」


 ボーッと眺めていたアリアは慌てて首を振った。やっぱり、助けてくれたんだ。嬉しかった。


 その後も彼はスライムの防げない毒をアリアの身代わりになって受けた。でも、そのときはアリアはパニックになっちゃった。このまま彼が死んじゃうんじゃないかって、不安で仕方なかった。胸が苦しくて、涙が溢れてきた。それでも、アリアにできることは何もなくて、抱きつくことしかできなかった。


 だけど、彼は何とも無いような雰囲気で、アリアの髪を撫でてくれた。ママと同じ髪色のこれだけは宝物だけど、彼に触られるのは嫌じゃなかった。それどころか、どこか安心した。だからかな?君って呼ばれるのに違和感があった。そこでアリアたちは自己紹介をした。


 そしてどうして助けてくれたのか聞いたら、困ってるだったからだって言われた。アリアは人じゃない、のに。そして、それを隠してるアリアがすごく惨めに思えた。このまま黙ってることもできたけど、気がついたら魔族だということを話していた。


 ...もう、カズキお兄ちゃんともお別れなのかな?そう思っていたのはアリアだけだった。カズキお兄ちゃんはそのまま変わらずにアリアと接してくれた。


 「...カズキお兄ちゃんがアリアの生きる希望になってくれませんか?」


 気がついたらカズキお兄ちゃんにそう聞いていた。アリアはもう、死にたいとまでは思っていないから、きっとこれはアリアのわがまま。だけど本当の、アリアだけの大切な気持ち。断られても仕方ない気持ち。


 カズキお兄ちゃんは人族でアリアは魔族。いくらカズキお兄ちゃんが優しくても覆らない現実。...なのに、カズキお兄ちゃんは頷いてくれた。だからね、カズキお兄ちゃん。もう、アリアは離れないよ?最後までカズキお兄ちゃんとずっと一緒にいて、一緒に死ぬんだから。



 〜魔王様視点〜


 我は魔王と呼ばれている。魔族たちをまとめる長をしている。本当はこんなことせずにアリア...娘と一緒に暮らしたいけど、誰かがやらないといけないことだ。


 「魔王様!アリア様に似た人物を見たとの報告が...」

 「何!すぐに出発の準備を!我も行く!」


 だが、少し前からアリアはどこかに消えていた。どこにいるのか見当もつかなかったが、我の側近のカナデさんにそう伝えられた。


 ...我はアリアとの接し方を間違えたのだろう。思えば、何一つ親らしいことなんてしてあげられなかった。こんな我は嫌われて当然だろう。でも、もしも願いが叶うのならもう一度、アリアと会いたい。会った後どうするのか分からないけど、今度は魔王としてではなく父親として。...だから、どうか、アリアと会わせてください!


 「...かしこまりました。すぐに出発の準備をいたします。...それと、魔王様は立派にアリア様を守られていらっしゃいましたよ。たとえ誰が何と言おうと...魔王様ご自身にすら否定はさせません!」


 そう言ってカナデさんは部屋を出ていった。...本当にそうなのかな?我は守れてるのかな?大切なアリアをちゃんと。


 我は産まれたときから次期魔王候補だった。魔王は実力が一定以上あれば血筋で決まる。だけど、その一定値に達するまでは色々なライバルに命を狙われる。だからそれまではアリア自身にも伝えないでおこうと妻と話し合って決めていた。


 代々魔王は後継ぎのために複数の妻を娶るのが普通とされていた。その中から一番強い人が魔王になるけど、最低ラインがある。そこに届かないと困るけど、我はマリー...アリアの母親しか愛せなかった。だから、アリアのライバルはほとんどいなかった。だけど、アリアには普通の幸せを手にして欲しかった。魔王候補だとバレると大変になるから、せめて成人するまでは離れていた。


 後2年。それでアリアが成人してマリーと3人で暮らせる。そう、思っていたのに。マリーはあっさりと死んでしまった。病気だった。それから、流石にアリアを独りにするわけにはいかないということで我が引き取ることにした。


 どうして一緒にいてくれなかったの!?アリアに父親なんていない。ママが死んじゃった後でやってきたあなたを、たとえ王だとしても父親だなんて認めない!


 それが最初に言われた言葉だった。...そう、だよな。本当に今さら過ぎる。我なんかじゃアリアの支えなんかにはなれるわけない。アリアのため、なんて格好つけて、それでも一番大切なことを無視していた我が、受け入れられるはずがなかったんだ。


 それから我はすぐにアリアが発見されたという場所に向かった。そして再会できた。

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