第五十話 手加減なく全力で潰していくスタイル

 第202階層に転移した俺たちは、そこで簡単な作戦会議を始める。


「この付近から、魔物が溢れ出してくると聞いた。強さは控えめだし統率力も皆無だが、数がやや多い。下手に壊してダンジョンに影響を与えないように気を付けつつ、殲滅するぞ」


 第600階層以下とは違い、まだ前座のここはダンジョン自体が脆い。下手に壊せば、面倒な事になりそうだと俺の勘が告げているし、程よく行くとするか。


「ま、そうじゃのう。それに、ここはご主人様が得意そうな領域……猶更楽勝じゃの」


 俺の言葉に、アルフィアは余裕綽々といった様子で辺りを見回した。

 第200階層から第299階層――そこは、一言で言い表せば夜の密林だ。

 非情にじめじめとしたこの階層間には、至る所に濁った水が張っており、周囲には熱帯雨林にありそうな様々な木が生えている。

 つまるところ、俺のような水の魔法師にとっては戦いやすい場所……って事になるのだ。

 反面、水属性魔法が使えない者は、それらが障壁となってしまい、少なからず戦いづらくなってしまう。


「えへへ~。ルルムも頑張る~!」


「ああ。ありがとう……っと。そろそろかな?」


 張り切るルルムを優しく撫でつつも、気配を察知した俺は即座に戦闘者としての顔になる。

 例え敵が弱かろうが、俺は絶対に油断しないし手も抜かない。

 徹底的に、持てる力の中から最適な行動を以てして――殺す。


「「「「「グアアアアアアアァ!!!!!!!!!!!!」」」」」


 刹那、そこら中の壁や床、天井から一瞬で産み出されてゆく数多の魔物ども。

 奴らの目的はただ1つ――全ての障害を蹴散らしながら、地上まで突き進む事。

 ダンジョンが、人間の魂を収穫する為に――


「やろうか――」


 そう言って、俺が構えるのは唯一の《創世級ジェネシス・クラス》――《時空神の大鎌クロノス・デスサイズ》。

 距離を殺し、時を超える斬撃を放つ大鎌を、俺はその場で無造作に、一瞬で30振りほどした。


 ザザザザザザザザン――


 刹那、魔物どもを数多の斬撃が襲い掛かる。

 距離を殺し、斬撃を浴びせる――単純だが強力な殺り方だ。


「だが、如何せん数が多い……か。ゴキブリみたいに湧いてくる」


 俺はそう言って息を吐くと、今度は大剣を抜いた。

 氷属性魔法の超高強化――《神話級ミソロジー・クラス》の《氷狼大剣ヴァナルガンド・ブレード》。

 青白いその大剣を、俺は地面に突き刺す。


「【広がれ、氷の大地】」


 そして一気に凍土の領域を広げ、魔物どもを息吐く間も無く氷漬けにした。


「と、弱い相手ならこれも有効か。【殺戮せよ、氷の子】」


 刹那、俺の左手から生み出されるのは身長1メートル程の子供の氷像。

 子供の頃の、純白な俺を模したこれは、俺の戦闘技術を継承した戦闘人形。

 使うのは俺の戦闘術と氷属性魔法のみ。出力も弱いが、純粋なスペックを突き詰めた《氷像騎士グレイシャル・ナイト》とは違い、技量特化のこいつらは、迅速確実に処理してくれる。

 そんな子たちを20体ほど召喚した俺は、バラバラに散開させ、魔物どもを駆逐させ始めた。


「……むぅ。これ、妾が来た意味無いではないか」


 勝負付いたかな……と思って見ていたら、腕を組むアルフィアにそんな事を言われてしまった。


「獲物いなーい!」


 ルルムも、やることが無いのか暇そうに氷の上を滑って遊んでいる。

 んー確かにな。万が一で連れては来たが、流石に2人共連れて来るのはやりすぎだったか。

 多分アルフィア1人なら、文句は特に言われなかったのかなぁと根拠無く思いつつ、俺は口を開いた。


「いや、手が足りなくなるかなと思ったんだが……な。これなら、念のためでアルフィア1人連れて来るだけで良かったよ」


「全く、その通りじゃの。もうちょっと、妾を頼ってくれても良いのに……と言うか、その万が一を防ぎたいのなら、ここは妾たちに戦わせて、ご主人様はその万が一に最大限備えれば良かろうに。下ならともかく、ここなら妾1人でも余裕じゃぞ?」


「あー……うん。確かにな。ただ、どうしてもそこは俺がやろうってなっちゃうんだよなぁ……」


 アルフィアのまさしく正論って感じの言葉に、俺はどこか微妙そうな顔をしながらそう言った。

 俺は少しでも最適解であろう道を選びたいと思う質だ。だがそれでも、こう誰かを頼るような事は何故か……出来ないんだ。

 長いこと孤独だったからか。自分が動かないと何も起きないって、思っているのだろうか。

 ……分からないな。いつまで経っても、心ってのは。

 すると、アルフィアはどこか呆れたようにため息を吐く。


「やれやれじゃのう。この前やっと妾を頼るって事を学んでくれたかと思ったのに。ご主人様は自分が思う以上に、頭が固いのぅ」


「耳が痛いわ、普通に……」


 だが、長年の考えや習慣をパッと変えられるのって、案外難しいものなんだよな。

 当たり前だとすら思わなくなったような事なら、尚のこと。


「はー……まあ、偶に頼ってくれた方が、嬉しさも増すというものじゃ。じゃから、その時が来たら遠慮無く頼るのじゃぞ」


「ああ……ありがとう、アルフィア」


 アルフィアの言葉に、俺はそう言って礼をするのであった。

 ……尚、この間も戦闘人形たちは戦っていたとだけ言っておこう。

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人間嫌いの最強探索者、成り行きでダンジョン配信者を助ける ~ダンジョンに籠り続けてたけど、これを機に少しずつ外に出てみようと思います~ ゆーき@書籍発売中 @yuuuki1217

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