第四十九話 暫しの休息、そして叱る

 2日後の朝――


「カフェラテヲ、ツギマシタ。マスター。アルフィアモ、ドウゾ」


「ああ、どうも。ロボさん」


「うむ。感謝なのじゃ」


 俺とアルフィアは、ロボさんが注いでくれたカフェラテを受け取ると、ゆっくりと飲む。

 うん……この程よい甘み。いいね。


「……懐かしい味だ。俺の朧げな思念情報だけで、よくここまで出来たね。凄いよ」


「アリガトウゴザイマス。マスター。コンゴモマスターノオヤクニタテルヨウ、サイゼンヲツクシテイキタイト、オモイマス」


 俺の掛け値なしの称賛の言葉に、ロボさんは変わらず淡々とそんな事を口にする。

 ただ、長いこと供に居た俺には、ロボさんが喜んでいるという事が僅かながらも感じ取れた。


「これが、ご主人様が懐かしむ味か。確かに、ホテルで飲んだものと少々違うのぅ。何が違うのかは……ちょっと言葉に言い表せないがの」


「まあ、実際俺もそうだからな。味を言葉にするのって、案外難しいよね」


「じゃのう」


 アルフィアの言葉に同調しつつ、俺は引き続き懐かしの味を嗜む。

 これは、俺がだいぶ昔に息抜きで偶に飲んでいたカフェラテを、再現したものだ。

 無論、今の世界にもカフェラテは存在するが……あの店で飲んでいた物とは、どこか違ってな。

 そしたら無性にあの味を再現したくなって、そういった調整が得意なロボさんに、協力してもらったという訳だ。


「……少し前であれば、再現しようとは思わなかっただろうな」


 これは言わば、昔の――あの嫌な過去を嫌でも思い出させてしまうような行為だ。

 別に普通に売っているカフェラテと、そこまで差は無い訳だし、それならばと無意識にでも諦めていた筈。


「別に、人間に対する感情は、そう変わらないんだけどな」


 俺の考えは、俺という存在そのものとなっている。それがすぐに変わるなんて訳が無い。それほどまでに、俺の闇は深い。

 となるとこれはどういうことか……


「……ま、大方ちゃんと抗えるようになったと理解できたから……かな」


 人間らしいコミュニケーションを人間と取れ、その過程で起こりうる障害を力で抗えた。

 そうした実績が、俺に余裕を作ったのだろう。

 ……難しく考えすぎだろうか?


「いや、そんな事は無いか」


 そう言って、俺は再びカフェラテを嗜むのであった。


「マスター~~~~!!!!」


「……ん?」


 すると、家の外からルルムの叫び声が聞こえてきた。

 この感じ、多分……


「【退けよ――《反衝結界リフレクション》】」


 察した俺は、即座に家の入って直ぐの所に反射の結界を展開した。

 そして、アルフィアに目配せをする。


「……ほいっと」


 俺と同様に、これから何が起こるのかを理解したアルフィアは、すっと家のドアを開けた。

 刹那。


「わあっ!!!」


 ルルムが、凄い勢いで家の中に転がり込んできた。

 そして、勢いのまま俺が展開した《反衝結界リフレクション》に衝突する。

 すると――


「うみゃああああああ!!!!!」


 衝突した途端、ルルムはいい感じに跳ね返って、家の外に吹っ飛んで行った。

 そして、一連の様子を見た俺とアルフィアは、顔を見合わせると揃ってため息を吐く。


「危うくまた、ドアが壊されるところじゃったのぅ……。ちゃんと今回は、叱って置おくのじゃぞ?」


「そうだね……。それにしても、結構跳ね返ったなぁ。これ、下手したらドアの破壊だけで済まなかったかも」


「そうかもな」


 そう言って、俺とアルフィアは空高く飛んでいくルルムを見ているのであった。

 閑話休題。

 俺は転移魔法を駆使してルルムをサクッと回収すると、ちゃんと駄目だと叱っておいた。

 アルフィアも参戦し、スライム形態に戻ったルルムは、これ以上に無いぐらい落ち込んでいるように見える。

 ただ、ここで手を抜こうものなら、即再犯され兼ねないということで、みっちりちゃんと言っておいた。


「……ふぅ。いいか? 次からは絶対に、家に入る時はドアを破壊して入るなよ?」


「はい。もう二度とドアを破壊しません。マスター……」


 その場で正座し、しゅんとしょげるルルムを前に、俺はそう誓約させるのであった。

 ……よし。怒るのは終わり。

 俺はあのクズ共のように、怒る意味を違えない。


「……それで、外では何をしてきたのかな? ルルム」


 俺は口調を優し気な感じに戻すと、そう言って優しくルルムの頭を撫でてやった。

 すると、途端に笑みが戻ってきたルルムが、俺に抱き着くと元気よく口を開く。


「うん! いっぱい魔物倒した! 沢山倒したよ、マスター!」


「そうか……楽しかったか?」


「うん! すっごく楽しかった!」


 そう言って、俺に身を預けるルルム。

 そんなルルムの背中を優しく擦ると、そう言って俺は立ちあがった。


「それじゃあ、上に行こうか。そろそろ上に、魔物が溢れる頃合いだからね。ルルムも、手伝ってくれるかな?」


「うん、手伝う! マスターの役に立つ!」


 俺の言葉に、ルルムは元気いっぱいにそう答えた。

 そんなルルムをより一層撫でながら、俺はアルフィアとロボさんに指示を飛ばす。


「そうかそうか……てことで、もうすぐ始まるんだ。ロボさんは念の為ここの防衛に専念。アルフィアは、俺と一緒に来てくれ」


「うむ、分かったのじゃ。ご主人様よ」


「リョウカイシマシタ。マスター」


「よし。なら、もう行くよ」


 2人が頷く様子を確認した俺は、すぐさま行動に移した。

 ルルムを叱ってたこともあってか、地味に時間が押しているからね。


「行こう。【座標を繋げ――《範囲空間転移エリア・ワープ》】」


 そうして俺は、魔物が発生する起点となるであろう場所――202階層に転移するのであった。

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