第四十八話 息抜き的なやつ

「……あ、そう言えばこれ忘れてたな」


「みゅ~?」


 ルルムの頭を優しく撫でながら、ベッドでゴロゴロ寛いでいた俺は、ふと思い出したかのように上半身をしっかりと起こすと右手を掲げた。

 そして力を緩めれば――次の瞬間、青白い光の球体が出現した。

 膨大な力を秘めているようで、物静かで、どこか神秘的な。

 ハッキリ言えば、俺の手には余る代物だ。

 いや、別に使えない事は無いのだが、完全に使いこなすのは無理……精々7割程度の力しか引き出せないって感じかな。


「ほう……強い力じゃのぅ」


「ツヨイチカラヲカンジマス」


 それを前に、アルフィアは目を若干見開かせ、ロボさんは淡々と事実のみを告げるのであった。


「ああ。これ、あの件を企んでた奴から奪い取ったエネルギーなのだが……結構凄いだろ? 因みに、アルフィアなら何とかなる?」


「ご主人様が無理なら、妾も当然無理じゃ。無理」


 俺の言葉に、アルフィアはそう言って首を横に振る。

 そうかー……俺よりレベルが上のアルフィアならあるいはと思ったのだが……まあ、これは流石に無理か。

 なら、仕方ない。

 無理なものは、無理なのだ。


「まあ、少し気になるし……少し取って、実験してみようか。丁度、2日後に魔物が上に大量発生するみたいだし」


 そう言って、俺は右手に出した青白い光球を引っ込めると、よっこらせと立ち上がった。

 うん……もう、《世界ノ掌握アルケニア》の反動は感じられ無いな。


「む? 大丈夫なのか? ご主人様よ」


「ああ、もう大丈夫だ。それじゃ、ちょっと身体動かしに、第599階層のボスをソロで潰してくる」


「む、1人でか? 確かにあそこならいらんじゃろうが……ロボさんぐらい、供に付けてもよかろうに」


「身体動かすのが目的だから、1人じゃないとあまり意味が無いからな」


 そう言って、俺は転移魔法を行使すると、目的の第599階層――その入り口へと飛んだ。


「よっと……相変わらず、広大だ」


 そこに広がるのは、水平線が見える程の巨大な湖。

 魚類系の魔物が泳いでおり、入れば一斉に襲い掛かって来ることだろう。


「……で、来たか」


 やがて、気配を感じた俺は前方を見やった。


 ザパアアアァン!!!!!


 刹那、景色をかき消す程の膨大な水飛沫を上げながら、1体の魔物が姿を現した。

 体長100メートルはある、巨大な水の龍。

 その名も――


海の龍王リヴァイアサン


「キシャアアァ!!!!!!」


 レベルが相当上がった今――流石の海の龍王リヴァイアサンも、俺を一目見ただけで脅威と判断したのか、咆哮を上げると、いきなり全力の攻撃を仕掛けて来る。


「【■■■■■■■■■■■■】!!!」


 アルフィアと同じ龍種――故に、詠唱は龍言語。

 刹那、放たれるのは超圧縮された水の破断光線。

 あれをモロに受ければ、流石に俺でもタダじゃ済まない。

 そう思いながら、俺はひらりと躱す。

 この手の攻撃は途中で進路を変えられ無いから、出所さえ見れば簡単に避けられるんだ。


「お返しだ。【水よ、万物を斬り裂け――《水圧破断斬撃ディープ・イン・ブレード》】」


 対して、俺が放つのは水の斬撃。

 光線とは違い、自分で進路を変えられるそれは、回避を許さない。


 ザン!!!


「ギシャアアアア!!!!!!」


 それにより、海の龍王リヴァイアサンの身体にはいい感じの裂傷が出来た。


「水に水は、相性悪いな」


 まあ、それはこちらも同じ。

 俺の十八番たる水属性魔法への対処能力は、結構高いぞ。


「【■■■■■■■■■■■■■】!!!!!!」


 そんな事を思っていれば、今度は海の龍王リヴァイアサンの周りに6つの水球が出現した。


 シュバババババ――


 そして、その水球から無数の水弾が発射される。

 1発1発の威力もさることながら、圧倒的な数の暴力。

 昔は苦戦したものだ。


「まあ、慣れれば問題はない」


 その弾幕を、俺は純粋な体術を用いた回避で躱して見せた。

 うん。やはり、この弾幕は回避の練習に打ってつけだ。

 強さなら当然、ここよりも下層の魔物の方が上なのだが……ここまでの弾幕を張れる奴は居ない。


「【迎撃せよ――《水機関銃アクリング》】」


 そんな事を思いながら、俺は迎撃の水弾を連射する。

 魔力消費が無駄に多いから、基本的に使わない代物ではあるが……海の龍王リヴァイアサンの技を模倣して作った、それなりに思い入れのあるものなのだ。

 この環境あってこその技とは言え、あれを突破するのには相当苦戦したからな。


「そして――【水よ、万物を穿て――《水神騎士槍オケアノス》】」


「キシャアアアア!!!!!!」


 弾幕の隙を突き、放った水の騎士槍は、海の龍王リヴァイアサンの腹をしっかりと大きく貫通させる。

 だが龍種の再生能力はそこそこ高く、そこに湖という地形的問題も合わせれば、あれでは直ぐに再生される事だろう。

 見れば、少しずつ傷口の肉が盛り上がって、塞がろうとしている。

 尚、この間も弾幕は継続だ。


「だが――精度が落ちた」


 お終いだ――俺は、とどめとなる魔法を唱える。


「【自然の神秘をここに。万物を無に帰す命の水――《無骸の命水ノア・ポタモス》】」


 刹那、ゴッソリとする海の龍王リヴァイアサンの上半分。

 そして、そのまま海の龍王リヴァイアサンは骸と化した。


「……ふぅ。また復活してくれたら、やるか」


 階層主フロアマスターは、特別な魔物という事もあってか、直ぐには復活してくれない。

 故に、ある程度――大体数か月は待たなくてはならないのだ。

 因みにアルフィアが居た場所の階層主フロアマスターは、もう別の個体が鎮座してた。

 まあ、知性はまるで感じられなかったけど……ね。


「じゃ、帰るか」


 そう思いながら、素材の回収だけ済ませた俺は、さっさと家に帰還するのであった。

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