短編ホラー 親友
N通-
親友
「蛇の子って知ってる?」
「なにそれ? 気持ち悪い」
「えー、知らないの? 最近SNSでバズってるんだよ」
私の親友のまながそう言って動画系SNSの画面を見せてくる。
2分くらいで短く編集された動画は、不安を掻き立てるようなBGMに合わせて淡々と“蛇の子”について説明していた。
「ね、怖いでしょ?」
「バカバカしい作り話じゃない」
内容を要約すると、人間達の中に蛇神様が混ざっていて、その子は人間を食べて皮を剥ぎ、その人に擬態するらしい。しかし運良くその擬態現場に居合わせたら何でも願いを叶えてくれるという。
「どんなB級オカルト映画よ。大体、そんなの探しようがないじゃない」
「だからバズってるんじゃない! みんな必死に願いを叶えようって探し回ってるんだよ」
まなが力説するが、聞けば聞くほど馬鹿らしい話しだ。私はいよいよもって付き合いきれなくなった。
「私だって原野先輩と付き合えるかもしれないんだから! 必死にもなるよ!」
「じゃ、私はバイトあるから。まなはびっくり人間探しがんばってよね」
「何よ、アキったら。こうなったら意地でも願い叶えるんだからね!」
彼女は探す気まんまんのようだ。私はやる気に満ちた彼女と別れファストフード店のバイトへと急いだ。
……疲れた。
短時間のバイトとはいえ、今日は客足が途絶えること無くひっきりなしにやってきていつもの倍の忙しさだった。
「早く帰ってお風呂入りたいわ」
ファストフード店特有の油と様々な食品の入り混じった匂いが染み付いた体に鼻を曲げそうになる。
「あら、まなからだわ」
退店してからスマホをチェックすると、まなから大発見! 至急来てくれとのメッセが。
……正直無視して帰ろうとも思ったけれど、明日恨み言をつらつら言われるのも敵わないので私はまなが指定した場所へと向かった。
――――――――――――――――――――。
「おーっすアキ!」
「おはよう、みな」
「なあに、今日は元気なさげ?」
「昨日バイトがめっちゃ忙しくて、今朝もダルいだけ」
「儲かっていいじゃん、今度奢ってよ-」
「あんたもバイトしたらいいじゃない」
「むーりー。労働とか一生したくない」
クラスメイトと馬鹿な話しをして、席につく。
「あれ? そう言えば今日はまながまだ何だよね。暇人なのに」
「そういう日もあるんじゃない?」
「何よ、アキ。冷たいじゃない」
「昨日変な話しに付き合わされたんだもの。参っちゃうわ」
「あー、あの子オカルト好きだもんねー」
そうして予鈴が鳴っても、ホームルームが始まっても空いてる席が一つ。
流石に周囲もざわめきはじめる。
担任が教室に入ってくるなり、わたしを呼んだ。
「岡部、ちょっといいか」
「はい、なんでしょう」
「ここでは、ちょっとな。こっちへ来なさい」
中年男性の担任教師は、わたしを手招きして教室外に連れ出した。
「……宮野が昨日から家に帰ってないらしいんだが、岡部、お前何かしらないか?」
「えっ! ……どうして、まなが?」
「それが解らないから聞いてる。心当たりはないか?」
「……解りません。昨日、教室で別れたのが最後です」
「そうか、まあ仕方ないな。戻っていいぞ」
担任は面倒そうにわたしを教室へと戻した。
「ちょっとちょっと、何だったのアキ」
ただ事ではない雰囲気を感じ取ってか、みなが詰め寄ってくる。
「まなが、家に帰ってないみたいで……」
「え、それヤバい事件とかに巻き込まれたってこと?」
「まだ解らないんだけど、無事よ、きっと」
「そ、そうだよね。きっと単なる家出だよね」
そしてまなが行方不明になり、警察も出動する騒動になったのだが、一切の痕跡が残されていなかった。最後に会ったのは家族。母親に友達に会ってくるとだけ伝えて消息を絶った。
わたしはアキの自室で自分の身を抱きしめるように、腕を組む。
「私の望みを叶えてくれてありがとう、人気者のアキ。あなたが悪いんだよ、わたしの気持ちを知りながら原野先輩と隠れて付き合ってたあなたが。でももう心配いらないよね。わたしが、岡部アキなんだから」
わたし達は高校ニ年生。アキも成長しきってたみたいだし、この皮はずっと使えそうね。
美味しかったよ、アキ。神様は嫉妬深くて執念深いって、知っておくべきだったね。
――――まなも、美味しかったよ。
短編ホラー 親友 N通- @nacarac
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