新たな仲間 その2
「手続きは以上になります。他に何か希望はありますか?」
「ない」
「かしこまりました。それでは、これからも当店をよろしくお願いいたします」
蓮は一通りの手続きを終え、奴隷館を後にする。
これで二人は手続き上、俺の仲間となったわけだが。
蓮は後ろに続く、ゼルとメルの二人を見る。
ゼルはまだ薄汚れていて、食事も満足に取れていなかったのか、骨が浮き出てガリガリ。しかし、見て取れる骨格は良いモノであり、栄養のある食事さえ与えれば、問題は無いだろう。
そしてメル。彼女も女性としての魅力もそうだが、ゼルから聞いていた限り、ステータスがとても優れているはずだ。それに、体を見ても健康そうで、文句のつけどころがない。
うん。非常に満足だ。
蓮は一人でうんうんと納得している様子。
「レン! ありがとな! 何か、俺を救ってくれたってメルが」
そこへ、ゼルが尻尾を全力でブンブンとまわしながら、近づいてくる。
ゼルは護衛にやられて気を失っていたが、驚異的な回復力で傷も目立たないほどにまで回復していた。
「これから俺の仲間として沢山働いてもらうんだ。礼は要らない」
「そうか! よし、レンの為にいっぱい働くぞ!」
「こらゼル!」
ゼルが蓮の肩を掴み、張り切っている所にメルが駆け寄ってくる。
「どうしたんだ?」
「どうしたんだじゃないでしょ。これから私とゼルはレン様の奴隷なの。最低限の礼は尽くさなくちゃ駄目。申し訳ありませんレン様。私がゼルにマナーを教えますのでどうか……」
何か勘違いしてないか?
メルはゼルの頭を押さえ、無理やり頭を下げさせる。
「何すんだよメル!」
「いいから」
「おい。メル……」
「どうかしましたか? レン様」
メルは下げた頭をそのままにしながら返事をする。
「まずは頭を上げてくれ」
メルはレンに言われるがまま頭を上げる。
「なにか……粗相をしてしまったでしょうか?」
メルは自分が何かしてしまったのではないかと思い、大きく瞳を揺らす。
何でそうなる。
「そういう事じゃなくてな……もっと楽に接してくれないか?」
「えっと……楽に接すると言われましても」
根が真面目過ぎるせいか、控えめに首を傾げるメル。
「そういう所だぞ、メル」
「ゼルは黙ってて」
……ゼルと話す時は普通なんだな。それをもっと……っ!
それだ。
その時。蓮はある事を閃く。
「それだよ」
「それ……ですか?」
「ゼルと接する時みたいに、俺とも接してくれればいいんだ」
「っ! そ、それはいくら何でも……」
メルは難しい相談だと言わんばかりに、言葉を濁す。
まぁ、最初からは難しいか。それならば……
「じゃあ、まずはそのレン様と言うのから直さないか?」
「え?」
「さっきも言っただろう。俺達は仲間になったんだ。奴隷と主人の関係を続けたいわけじゃない」
「そうだそうだ」
「だからゼルは黙ってて」
外野のゼルはさておき、メルはうーんと深く考え込むような仕草をして、小さく頷く。
「では……ご主人様と」
もっと酷くなってる。
「駄目だ」
「っ! マスターなら」
さっきよりはマシだが……
「駄目」
「っ! それなら……」
どれも駄目と言われ、真剣に呼び名を考えるメルへゼルが……
「……? 別にレンで良くないか?」
「そうだな」
「っ! それはいくら何でも……」
いいじゃないかと相槌を打ち、メルが顔を真っ赤にしてそれは無理だと二人に言う。
「何で照れてるんだ?」
「……照れてない」
「嘘だ。俺には分かるぞ」
「ゼル……」
蓮に見られないようにゼルを睨みつけるメル。
ビクッ!
ゼルは尻尾をピーンと立たせながら、メルが不機嫌になっている事に勘付き。
「わ、悪かったよ」
すぐさま謝る。
「うん? どうしたんだ? 二人共……」
「何でもありません。ね、ゼル」
「何もなかったぞ。アハハ……」
ゼルはうんうんと高速で首を縦に振る。
「なら良いんだが……」
そうこうしている内に、蓮が止まっている宿へと到着する。
「今から二人の分の宿をとってくるからここで待ってて」
「おう!」
「レン様。私達には宿は必要ありません。体を休めるくらい、野宿で十分……」
「いいからいいから」
ゼルは元気に返事し、メルは自分たちの宿は必要ないと申し出るが、蓮はその言葉を軽くかわし、二人分の宿をとる。
そうして蓮は二人を部屋に案内した後、自分が泊っている部屋へと連れていったのだった。
元RTA王者、異世界ダンジョンに挑戦す~前世の記憶を頼りにダンジョンを攻略していただけなのに、何故か周りが俺を放っておいてくれません~ ガクーン @gaku-n
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